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Brain Machine Interfaces: 失った脳機能を取り戻す技術の現在と未来


はじめに
Brain Machine Interfaces (BMI) は、脳と機械をつなぐ技術であり、脳活動を記録・解読し、機械を制御したり、脳に情報を伝達したりすることを可能にします。BMIは、脳の機能拡張だけでなく、事故や病気で失われた脳機能の補助にも大きな可能性を持っています。本記事では、BMIの最新研究動向と、特に失った脳機能の補助への応用に焦点を当てて解説します。

BMIの最新研究動向
近年、BMI技術は著しい進歩を遂げています。脳活動の記録と解読技術では、高精度な多チャンネル電極アレイや、機械学習を用いた脳情報のデコーディング手法が開発されています[1]。また、脳への信号伝達技術も、光遺伝学や磁気刺激など、より精密で安全な手法が登場しています[2]。さらに、無線化、小型化、長期安定性の向上により、BMIデバイスの実用性が高まっています[3]。

主要な研究機関としては、米国のBrainGate consortium、欧州のHuman Brain Project、日本の理化学研究所などが挙げられます。これらの機関では、BMIを用いた運動機能の回復[4]、視覚情報の伝達[5]、記憶力の向上[6]など、様々な応用研究が進められています。

失った脳機能の補助におけるBMIの応用

運動機能障害に対するBMI

脳卒中、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などによる運動機能障害には、BMIが大きな可能性を持っています。例えば、BrainGateのシステムでは、大脳皮質に埋め込んだ電極アレイで脳活動を記録し、機械学習アルゴリズムでデコードすることで、ロボットアームや車椅子を思い通りに動かせるようになっています[7]。また、脳波を用いたBMIによって、ALS患者がコミュニケーションを取れるようになった事例も報告されています[8]。

感覚機能障害に対するBMI
視覚障害や聴覚障害に対しても、BMIの応用が期待されています。人工網膜や人工内耳と組み合わせることで、脳に直接視覚情報や聴覚情報を伝達できる可能性があります[9][10]。ただし、感覚情報の脳へのフィードバックは、運動制御に比べて技術的なハードルが高く、まだ研究段階にあります。

認知機能障害に対するBMI
記憶障害や注意障害など、認知機能の障害に対してもBMIの応用が模索されています。例えば、脳活動をモニタリングしてフィードバックすることで、注意力の向上を支援するBMIシステムが提案されています[11]。また、海馬などの記憶に関連する脳領域を電気刺激することで、記憶力の向上を図る研究も行われています[12]。ただし、認知機能は複雑で個人差が大きいため、BMIの応用にはさらなる研究が必要です。

今後の展望と課題
BMIは、失った脳機能の補助において大きな可能性を持っていますが、実用化に向けては多くの課題が残されています。長期的な安全性と効果の検証、倫理的・法的・社会的な問題への対応、技術の普及と患者のアクセス改善などが重要な課題として挙げられます[13]。

また、BMIは脳機能の補助だけでなく、拡張にも応用可能です。健常者の認知機能や身体能力を高めるためのBMIの開発も進められていますが[14]、そこには倫理的な問題や安全性の確保など、慎重に検討すべき点が多くあります。

まとめ
BMIは、事故や病気で失われた脳機能を補助し、患者のQOLを向上させる画期的な技術です。運動機能障害、感覚機能障害、認知機能障害など、様々な分野で応用が進められており、今後さらなる発展が期待されます。一方で、長期的な安全性や倫理的な問題など、克服すべき課題も残されています。BMIの適切な発展と普及に向けて、研究者、医療関係者、患者、社会が協力していくことが重要です。


[1] Lebedev, M. A., & Nicolelis, M. A. (2017). Brain-machine interfaces: From basic science to neuroprostheses and neurorehabilitation. Physiological reviews, 97(2), 767-837.
[2] Ronzitti, E., Emiliani, V., & Papagiakoumou, E. (2018). Methods for three-dimensional all-optical manipulation of neural circuits. Frontiers in cellular neuroscience, 12, 469.
[3] Luan, S., Williams, I., Nikolic, K., & Constandinou, T. G. (2014). Neuromodulation: present and emerging methods. Frontiers in neuroengineering, 7, 27.
[4] Hochberg, L. R., Bacher, D., Jarosiewicz, B., Masse, N. Y., Simeral, J. D., Vogel, J., ... & Donoghue, J. P. (2012). Reach and grasp by people with tetraplegia using a neurally controlled robotic arm. Nature, 485(7398), 372-375.
[5] Dobelle, W. H. (2000). Artificial vision for the blind by connecting a television camera to the visual cortex. ASAIO journal, 46(1), 3-9.
[6] Hampson, R. E., Song, D., Robinson, B. S., Fetterhoff, D., Dakos, A. S., Roeder, B. M., ... & Deadwyler, S. A. (2018). Developing a hippocampal neural prosthetic to facilitate human memory encoding and recall. Journal of neural engineering, 15(3), 036014.
[7] Pandarinath, C., Nuyujukian, P., Blabe, C. H., Sorice, B. L., Saab, J., Willett, F. R., ... & Henderson, J. M. (2017). High performance communication by people with paralysis using an intracortical brain-computer interface. Elife, 6, e18554.
[8] Vansteensel, M. J., Pels, E. G., Bleichner, M. G., Branco, M. P., Denison, T., Freudenburg, Z. V., ... & Ramsey, N. F. (2016). Fully implanted brain–computer interface in a locked-in patient with ALS. New England Journal of Medicine, 375(21), 2060-2066.
[9] Maghami, M. H., Sodagar, A. M., Lashay, A., Riazi-Esfahani, H., & Riazi-Esfahani, M. (2014). Visual prostheses: the enabling technology to give sight to the blind. Journal of ophthalmic & vision research, 9(4), 494.
[10] Eshraghi, A. A., Nazarian, R., Telischi, F. F., Rajguru, S. M., Truy, E., & Gupta, C. (2012). The cochlear implant: historical aspects and future prospects. The Anatomical Record: Advances in Integrative Anatomy and Evolutionary Biology, 295(11), 1967-1980.
[11] Lim, H. H., Lenarz, M., & Lenarz, T. (2009). Auditory midbrain implant: a review. Trends in amplification, 13(3), 149-180.
[12] Ezzyat, Y., Wanda, P. A., Levy, D. F., Kadel, A., Aka, A., Pedisich, I., ... & Kahana, M. J. (2018). Closed-loop stimulation of temporal cortex rescues functional networks and improves memory. Nature communications, 9(1), 1-8.
[13] Parvizi, J., & Kastner, S. (2018). Promises and limitations of human intracranial electroencephalography. Nature neuroscience, 21(4), 474-483.
[14] Steinert, S., & Friedrich, O. (2020). Wired emotions: Ethical issues of affective brain-computer interfaces. Science and engineering ethics, 26(1), 351-367.​​​​​​​​​​​​​​​​

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