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リブリーがこだわる「なめらか」とは?

前回のnoteで「Libry(リブリー)の役割は、”学習”と”学ぶ気持ち”を自然につなぐこと」と語ったCEO後藤。ここにリブリーがこだわり続けている「なめらか」という価値観の一端が表れているのではないかと思います。今回は、「なめらか」とは具体的に何を指すのか、掘り下げて聞きました。

前回のnoteは下記リンクからご覧ください。

ICTは従来の教育の否定ではない

ここ数年「ICT化だ。タブレット端末1人1台だ」と言われ始めて、「従来の教育vsテクノロジーを使った教育」という対立軸で、どちらかを選ばなければという論調もあるのでプレッシャーを感じている先生もいらっしゃると思います。

でも、テクノロジーを取り入れることで、従来の教育の優れたところや、先生が守りたいことを捨てなければいけないなんてことは絶対ありません。変えた方が子どもたちの学習体験をより良くできるところ、今まで不便だと感じていたところだけをテクノロジーで変えればいいと考えています。

そのように、これまでの良い部分を尊重しながら、変化させることを私たちは「なめらか」と表現しています。

リブリーが「なめらか」にこだわる理由は、子どもたちのためを思って保守的にならざるを得ない教育業界を理解し、寄り添いたいと考えているからです。「どの学校に合格して、どういう進路を歩むか」は、子どもたちの将来を大きく左右します。これまでの長い積み重ねがある教育業界だからこそ、ガラッと変わるような大きな変化は受け入れられにくいんだと思っています。

しかも、学習効果というものは短期的には見えづらい場合があり、効果がわかった時にはもう手遅れということもあるので、慎重さと大胆さのバランスがとても重要だと考えています。

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「これまでの良さ」を尊重しながら変化させる

従来の教育から変えるべきでない点としてこだわっているのが、「提供するコンテンツ」「学習方法」の2点です。

1.提供コンテンツの「なめらかさ」
2012年の起業直後は使用許諾を得た大学入試問題と自分たちでつくった解説のデータベースの開発をしていました。それなりのボリュームのデータベースができたので、学校の先生にヒアリングをしたのですが、どの先生からも「大学生の作った解説じゃ、教育現場では使えない」と言われてしまいました。ただ、(こういうところが教育業界の人たちの好きなところなのですが)多くの先生が真剣に向き合ってくれて、「使えない理由」だけじゃなくて「構想の良いところ」も同時に教えてくれました。

先生方から学んだことは、

・学習サービスの導入には、デバイス・サービス・コンテンツの3つが揃っていることが重要だ。
・学校現場の先生が、出版社のコンテンツに寄せる信頼はすごい。これを無理やり変えることは善いことではない。
・サービスも「学習履歴を蓄積し、一人ひとりに合わせた問題を提案してくれる問題のデータベース』というのは面白い。

それをうけて、学校の中で使われている信頼のある教科書や問題集をコンテンツとして提供しようと方針転換しました。

また、そのヒアリングの中で、ドリル的に問題がドンドン出ても、「進んでいるのか」が学習者はわからないので、問題集という「ゴールのある一本道」という形式が学習者の迷いをなくすんだという話も聞きました。

そのためリブリーは電子書籍として閲覧でき、問題を解くと類似問題が提示されるという、「ゴールのある一本道」に、より簡単な問題やより難しい問題といった「寄り道」をつくるようにして、学習者の支援をするという考え方を取ることとしました。

2.学習方法の「なめらかさ」

提供コンテンツだけでなく、学習方法も「なめらか」にすることをこだわっています。これまでの基本的な学習体験を大きく変えずに、テクノロジーで変えるべき場所は変えて、より効果的な学習が実現できるように体験設計を工夫しています。子どもたちは、カバンの中から問題集を取り出して、問題集を開き、ページをぱらぱらめくりながら、問題を解いて「正解」「不正解」のチェックをつけて、次に行く...といった学習の流れになっています。それをタブレット上でそのまま気持ちよく再現できるように努めました。

中でも、こだわっているポイントがいくつかあります。

「サクサクとページがめくれる」
些細なことですが、とてもこだわった部分です。ページめくりの動作にひっかかりがあると、それだけでも学習の妨げになります。紙の問題集をパラパラとめくるのと同じ感覚に近づけることは、「なめらか」な学習体験に不可欠なことです。

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「紙とペンを使って学習する」
1万円を超える高価なものであれば書き味の良いスタイラスペンもありますが、子どもたち全員が手にできる安価なスタイラスペンだと、正直まだまだ書きづらいですし、自分の字とは思えない筆跡になってしまいます。さらに、タブレットの上に問題が表示されて、更にノートも...となると、書き込めるスペースが少なくなってしまいます。

何より入試をはじめ試験のときは、まだ紙とペンを使っていますよね。

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「自己採点を採用している」
テクノロジーを使えば自動採点にできるのですが、リブリーは理由があって自己採点にしています。自動採点では、「正解」「不正解」という結果に注目してしまい、解説を読まずに次に進んでしまいがちです。一方、自己採点では子どもたち自身が「なぜ間違えたんだろう?」と解説に向き合うことにより、理解が深まったり、記憶にも残りやすくなるというメリットがあります。学習の本質を考えると、自己採点は内省の時間として非常に重用なプロセスだと考えて自己採点を採用しています。

でも、これまでの良い部分を尊重しながら変化させていくには、これまでの学習と比べて違和感を感じないようにしないといけません。正直どの機能も地味ですが、僕は既存の教育に「なめらか」に馴染むからこそ地味なんだと考えています。

現場を「観る、聴く」を徹底する

リブリーの原型になるサービスを考え始めたのは、僕が東工大の学生だったときです。勉強のやり方は人それぞれなので、普段何を考えてどのように勉強しているのかを、色々な大学を訪ねて100人くらいの大学生に聞いて回りました。見えてきたのは、勉強ができる学生の共通項です。その共通項の中で、デジタルにする部分、アナログのまま残す部分を見極めてサービスの設計をしました。

同じように、先生向けのツール『Libry for Teacher』は、学校の職員室までお邪魔して宿題チェックしている先生の横で様子を観察しました。実際、宿題の管理はとても大変だ、ということが分かってきました。

<参考にした宿題チェックの手順>
1.クラス全員(約40人分)のノートを集める
2.山積みのノートを出席番号順に並べ変える
3.書き込んだページを探す(一人ひとりノートの使い方が違う)
4.採点する
5.集計する
6.記録する
7.返却する

リブリーでは、宿題の回収や集計・記録などの「効率化した方が良い部分」はテクノロジーで効率化しています。

とはいえ、全てをデジタルに置き換えれば良いという訳ではありません。生徒側で「解答を書いたノートを写真に撮って提出する」という機能を付けて、先生が手書きのノートを確認できるようにしています。先生たちは「ノートを見て子どもたちの状態を把握する」ということも大切にされています。宿題で発生するやり取りは、先生と生徒のコミュニケーションの1つなんです。先生が子どもたちのことを「ちゃんと見てるよ」と伝える意味があります。

先生04_ノート一覧

それから、リブリーが提供している先生用ツールでは、一人ひとりに「惜しい!」とか「後で職員室に来なさい」といったスタンプが押せるようにしています。このスタンプ機能も、先生に「生徒にどんな声をかけたいですか?」とアンケートをとって開発しました。

リブリーでは、宿題を通した先生と生徒のコミュニケーションを引き継ぐ「なめらかさ」を実現しつつ、宿題チェックの時間を90%削減できた「劇的な事例」も出てきています。

顧客理解を徹底していく

「なめらか」であり続けるために、先生や生徒などの顧客理解、それからリブリーに欠かせない出版社の方々との協同がとても大切だと考えてます。学習体験というのは科目によっても違うものなので、これから社会科や、英語、国語にも対応していく中で、その科目の先生が何を大事にして、どう指導しているのか、子どもたちがどう勉強しているのか、出版社の方たちが教材を通じて何を届けようとしているのか。リブリーは2022年春に地歴公民へと対応するのですが、そのために2020年の秋ごろから先生や学生にヒアリングを重ねてきました。これからもしっかりと現場を深く知ることを心がけていきます。

それからリブリーが持っている学習行動ログもどんどん活用していきたいです。「どのページを何秒見ているか、どのようにリブリーというプロダクトを使っているか」というデータを活用すれば子どもたちが学習する上でひっかかっていそうなところを特定できます。定性的に観察するのはもちろん、データと対話してプロダクトづくりに活かしていくことが、私たちが大切にしてきた「なめらか」を後押ししてくれると考えています。

さいごに

「なめらか」というのは、「寄り添う」ということでもあります。
私たちが作りたいものを提供するのではなく、先生や子どもたち、出版社の方が大事にしていることに耳を傾けて、大事にしていることを守りながら一緒により良く変わっていきたい。そういう姿勢をこれからも大切にしていきながら、より多くの子どもたちや先生、学校現場に愛されるリブリーを開発していきたいと考えています。