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よちよちベンチャー、等身大の「成長日記」〜学生起業家が、40名ベンチャー企業の経営者になるまで〜

こんにちは。株式会社Libry(リブリー)の後藤です。
当社は、僕と友人が東工大の在学中に起業した教育系ベンチャーです。「Libry(リブリー)」という中高生向けのデジタル教材プラットフォームを提供しています。

前回のnoteでは、起業のきっかけになった原体験から、2017年のサービス正式リリースまでの物語をお話ししました。今回は、サービス正式リリース後から2021年までのリブリーについてお話します。

サービスを正式にリリースしてから、導入校数が2校から600校超まで増え、社員数も5名から43名まで増えました。その間には、資金調達や出版社数の増加、組織規模拡大による課題、コロナによる全国の学校の一斉休校など、本当に山あり谷ありでした。何があったのか、何を考えていたのか、

いまの素直な気持ちを書きました。最後まで読んでいただけるとうれしいです。

最初の顧客は、母校の恩師でした

2017年にサービスを正式リリースしました。当時のサービス名はATLS(アトラス)でした。

最初に導入してくれた学校は2校で、1校は僕の母校である市川学園です。当時の市川学園はiPadを使った教育を始めようとソフトウェアを探していて、ちょうど良いタイミングでした。

2016年に「後藤が頑張ってつくったサービスなら…!」とトライアルに協力をしていただき、生徒からの評判も踏まえて、導入を決めてくれました。中高生のころ、まじめに勉強していて本当によかったなと思いましたね。その後も市川学園はリブリーを継続して使ってくれていて、感謝のかぎりです。

資金枯渇!役員報酬を止めて生き抜いた5ヶ月

2017年にサービス正式リリースを決めたので、サービスを市場に届けるため営業メンバーなど組織を3→7名に拡大しました。

メンバーの給与はサービス正式リリース前の受託開発で貯めた資金で支払っていましたが、当然すぐに底をつきます。そこで、はじめての資金調達に挑戦しました。

まずはベンチャーキャピタル(VC)を101社リストアップし、優先順位を決めてひたすらコンタクトしていました。僕は「わらしべ長者方式」と呼んでいるのですが、投資を断られたVCの担当者の方にも「断る代わりに、このリストの中から誰か紹介してもらえませんか!」とお願いしながら、結局58社にアタックしていました。

しかし「教育=マネタイズが難しい」というロジックが浸透してしまっているせいか、なかなか交渉を進展させることができず、当時は悔しい思いをしました。

結局、前向きに話を聞いてくださったのは2社で、そのうちのひとつはグロービス・キャピタル・パートナーズです。はじめての資金調達では、グロービス・キャピタル・パートナーズと、サービス正式リリース前から起業家支援プログラムでお世話になっていたNTTドコモ・ベンチャーズが引受先になってくれました。

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資金調達が思うように進まず、着金直前には役員報酬をストップして給与を支払うこともありましたが、調達してからは「人様のお金を預かって運営している」ということでお金に対する意識が大きく変わったことを覚えています。

創業6年、初めての自社オフィス

資金調達に成功したので、2018年4月にはじめて自社オフィスを持つことができました(それまでは、NTTドコモ・ベンチャーズのコワーキングスペースでお世話になっていました)。

場所は出版社や書店が集まる神保町に程近い「神田錦町」です。オーナーの居住用に設計されていたのか、オフィスにはお風呂が付いていて、僕は寝袋を持ち込んで平日はオフィスに寝泊まりしていました。

資金調達が完了しオフィスを構えることもできましたが、まだまだ先行き不透明の吹けば飛ぶようなベンチャーで。そんな会社に入ってくれた当時のメンバーは本当に特別な存在です。

▼引っ越し初日の様子。このときはまだスペースに余裕がありますが、1年後にはこのオフィスに収まりきらないくらいの人数になります。

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はじめてオフィスを持った時は、自分たちの「集う場所」ができたようで、本当に嬉しかったです。今は、コロナの環境下でリモートワークも増えていますが、この「集う場所」があることが大事だと感じているため、自由にリモートワークできるようにしていますが、「集う場所」としてのオフィスは手放したくないと考えています。

大切にしている考え方を言葉に

サービスの正式リリースから1年が経ち、最初2校だった導入校は30校超に増えました。

資金調達も完了し、組織を拡大させていくなかで「今後、会社が大きくなっていくにつれて、いまの雰囲気が崩れていってしまうのではないか…」という不安を全員が抱えていました。

そこで、社員全員で湯河原へ1泊2日の合宿に行き、「僕たちは何を目指すのか?(ビジョン・ミッション)」「自分たちらしさとは何で、どうありたいのか?(バリュー)」を明文化することにしました。

▼湯河原合宿の様子

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自分たちが大事にしたい価値観をポストイットに綴りながら、それを7つにまとめて、当社の行動規範の「7Values」ができあがりました。これは「新しいメンバーが当社らしいかを見極める軸」であり、「自分たちに課す約束」でもあります。

完成した直後は、「それってMake a Better Placeかな?」みたいに口に出すのがちょっと恥ずかしかったりもしたのですが、今では制度設計や会話の中で自然と使われるくらいに、しっかりと定着しました。

「ビジョン・ミッション・バリューの明文化」は8名のタイミングでやっていて、本当に良かったと感じています。

事業がグッと大きくなった2019年

2019年は大きな出来事がたくさんあり、事業がグッと成長しました。全て詳しく伝えたいのですが、長くなってしまうので少しコンパクトに紹介します。

社名・サービス名を「リブリー」に

2019年の大きな出来事のひとつは社名とサービス名の変更です。元は、株式会社forEst(フォレスト)の「ATLS(アトラス)」というサービスでしたが、社名とサービス名を統一するために、再検討を行いました。

当社を表現する言葉をたくさん並べて、それを英語・フランス語・エスペラント語など様々な言葉に翻訳しながら、適切な言葉を探しました。最終的には、「知の宝庫」としての「図書館(=Library)」をギュッとコンパクトにして持ちやすくした「Libry(リブリー)」としました。

さらに、「リブリー」という語感の柔らかさも気に入ったポイントで、「知の宝庫」をコンパクトにすることで、学びがよりキュートでチャーミングに感じられるようになればいいなという願いも込められています。

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「アトラス」という名前もそれなりに親しんでいただいていたところだったので心配しましたが、新しい社名を多くの人達に愛していただけるようになって、ありがたいです。

科目を拡充し、導入校数は100校目前に

サービスリリース時は、数学のみだった対応科目は英語・物理・化学・生物・地学と増やすことができました。科目を増やせたのは、ご要望をあげてくださった先生方と、そのご要望に応えてくださった出版社の方々のおかげです。

そのころの教育現場はというと、依然として情報端末の普及が進まず、ICTに積極的な私立高校が少しずつ増える一方で、やはりまだ特別な事例という感じは否めませんでした。そのような状況下でしたが、営業担当の努力もあってリブリーは全国に広がり、導入校は100校目前まで増えました。

事業としては、提携出版社数が一気に増えたのも大きな出来事のひとつです。特に教科書会社については、サービス正式リリース前からお世話になっていた新興出版社啓林館に、2019年秋には第一学習社、東京書籍、2020年春には実教出版を加えて、教材提供できるようになりました。

これによって、日本に5社しかない高校の理数科目の教科書を発行している出版社のうち4社と提携していることになりました。

提携出版社の数の増加によって、リブリーに対応している教材のラインナップが一気に広がり、より多くの学校にサービスを使ってもらえるになりました。

2回目の資金調達とオフィス移転

組織としても2019年には大きな変化がありました。神田錦町のオフィスに入ったときは8名しかいなかったメンバーが、2019年の年末には18名に増えました。2019年の夏には2回目の資金調達を、秋には人員拡大に伴い岩本町にオフィス移転をしました。

オフィス移転時には、これまでにお世話になった方々を招待してオフィス移転パーティーを開催しました。今ではなかなか人が集まるイベントは開催しづらいので、このときに感謝の気持ちを伝えられてよかったです。

▼社内でオフィス移転をお祝いしたときの様子

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メンバーの増加に伴い、組織のかたちも徐々に変えていきました。
8名とかだと「7人の侍」的な野武士の集団で良かったのですが、そのまま十数名のチームをつくることは難しかったです。

組織が大きくなることで、確かにやれることは増えました。その一方で、「異なる部署のメンバーが遠くに感じられるようになった」など、組織に課題を感じる声も増えてきました。

僕個人としても、自分が全て把握しようとしても自分がボトルネックになることもわかりつつ、自分の意図がうまく伝わらないことへの苛立ちや、自分が見えない場所で事業が進むことへの不安などがあり、組織開発って難しいなと感じていました。

GIGAスクール構想による情報端末の急速な普及の兆し

2019年末に教育業界に衝撃が走りました。

「GIGAスクール構想の実現」です。
2019年12月13日、政府が補正予算案を閣議決定し、「GIGAスクール構想の実現」に2318億円が投じられることが決まりました。

このころはまだ 「2023年度までに全小中学校で1人1台を実現する」 という内容でしたが、「いよいよ本当に1人1台端末の時代が来る」という人と「どうせすぐ頓挫するよ」という人と期待値がまっぷたつにわかれていました。

そして、時を同じくして、中国で新型コロナウイルスが発生し、その後世界に広がっていきました。

コロナで一斉休校で無償提供で首相ヒアリング

2020年1月に国内で感染者が見つかり、それから新型コロナウイルスの感染者数は徐々に増加していきました。そして、2020年2月27日、新型コロナウイルス感染症対策本部で、安倍首相(当時)が、全国の学校に全国一斉休校を要請する考えを表明しました。

このニュースをうけて、リブリーでは一部コンテンツの無償提供を開始。他の教育事業者も同時に、コンテンツやサービスの無償提供をはじめていました。
「学校が一斉休校する中で、EdTechの無償提供の情報が整理されずにいても届くはずがない!」とnoteでまとめ記事を作ったところ、多くの方に拡散していただきました。

無償提供にあたって、突然の依頼にもかかわらず、迅速に了承してくださった出版社の方々には感謝しかありません。

このnoteがきっかけで、自民党の教育系の会合や、官邸で開催された首相ヒアリングに出席し政策提言をする機会をいただきました。はじめての首相官邸には大変緊張しました。
また、リブリー史上初のテレビ取材などもありました。

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2021年には、公立小中が1人1台に

2020年4月に1回目の緊急事態宣言が出ました。これとほぼ同じタイミングで、端末整備を早期実現するための予算が決まり、さらに2292億円の予算が追加投入され、最終的には「1年以内にすべての小中学生に端末整備をする!」という4800億円規模の国家プロジェクトになりました。

創業以来ずっと待っていた1人1台の時代がようやく来ることになり、ワクワク感を感じつつ、この変化を一過性のものでなく恒久的なものにできるよう支えなくてはという使命感や急な市場拡大に組織が応えられるのかという焦燥感を覚えました。

リモートワークを開始

前述の通り、組織開発に課題を感じているまま、組織拡大とリモートワークが同時に起こりました。1月に初めて国内の感染者が出たタイミングで次亜塩素酸水とマスクを購入しており感染対策は徹底していました。フルリモートへのシフトも制度設計を早いタイミングではじめていたので、緊急事態宣言発令と同時に原則出社禁止にシフトできました。

ただ、制度が整っていても、リモートワークに慣れないメンバーも多く、特に最初は大変でした。(今も悩みながら対応していますが、、、)

エンゲージメントが急速に低下

リモートワーク下で直面したのは、エンゲージメントの低下です。雑談などの業務外コミュニケーションは重要だと思い、朝会や雑談タイムやオンラインラジオ体操など色々と策を講じました。一方で、メンバーが急速に増えていき、ICT化の流れの中で個々人の日々の業務も忙しくなっていき、コミュニケーションの問題が徐々に組織を蝕んでいきました。

そのなかでも特に重要だったのは、「事業戦略の可視化」と「組織体制」の2つです。

会社の目指す方向性が伝わらない

まず「事業戦略の可視化」の話です。コミュニケーション不足が課題になる中で「組織フェーズの変化」と「GIGAスクール構想による市場の前提条件の変化」が起こり、会社の戦略が変わっていました。一方で目先のタスクに追われ、全体への戦略の説明や全社目標の設定が遅れていました。

自分の中では戦略はあり、直近のアクションとも整合性が取れているのに、十分な説明がされていないため、「場当たり的だ」と見えてしまっていました。少し話をすれば修正できるはずのものがズレていき、全体の懐疑心に繋がっていました。

事業が拡大していく裏で、笑えないくらい日に日に「事業戦略への納得感」のスコアが下がっていきました。

全社目標をわかりやすく整理した上で、緊急事態宣言が解除されたタイミングで、全メンバーを集めて全社会をしました。それをきっかけとして、エンゲージメントスコアがV字回復をしていき、「わかりやすく戦略を伝えること」の重要性と、各部署の責任者が自部門のアクションと全社戦略の関係を伝え続けることの重要性を強く感じました。

大変恥ずかしいですが、当社の「事業戦略への納得感」の実際のスコア推移です。(なお、下限が0点でも、上限が100点でもないグラフなので注意してください。)

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組織体制を整える

「組織体制」については、特に課題だったのが「任せきる」という点です。

なかなか各部署の動きを手放しで任せることができずに、細かく部署状態や業務進捗の確認をしていました。当時はより正しく事業が前進するために良かれと思ってやっていましたが、各部署の責任者の主体性を奪い、社内への説明コストがスピードを鈍化させていました。

思い切って「結果を残してください」と、ある種突き放すようにしました。
月1回の進捗会議のみに参加することにして、そこで事業進捗や重要なポイントは確認しつつも、日々の動きについては原則全面的に任せるようにしました。これは各部署の主体性・スピードを向上させました。

「戦略」と「権限移譲」を進めながら、「内向きにパワーを注いでいる自分」に強い課題を感じていました。

経営者を採用する

創業以来、リブリーは僕とエンジニアの中村が創業経営者として経営してきました。しかし、二人とも大規模な組織の運営経験はなく、そもそも学生起業なので社会人経験もありません。

一方で、リブリーは急速に組織拡大が進むことがわかっています。コーポレート・ガバナンスの観点からも中〜大規模な組織のマネジメントができる経営者が必要だと感じていました。

また、EdTech市場全体が急速に成長していく中で、僕がもっと中長期の経営戦略に向き合いつつ、「リブリーというサービスがあるべき姿」に対してリーダーシップを発揮できるようにする必要性を感じていました。

そんなときに出会ったのが、後に取締役COOになる浅野さんです。

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浅野さんはリクルートキャリアで上級執行役員を務められていた方で、事業とコーポレートが半々の稀有なキャリアを歩まれていました。

経歴から会う前は結構身構えていたのですが、初めて会った時に不思議なフィット感を覚えました。ただ、役員の採用なんてしたことがなく、このフィット感が本物なのかどうかもわからなかったため、2020年の秋に、まずは顧問として参画してもらうことにしました。

会社の経営課題を共有して議論を重ねていき、実際に組織の中で動いてもらっていく中で、組織が明らかに円滑に回っていきました。

僕にはない「視点」や「選択肢」を持ちながら、生物学上の年の差はあれど、そんなこと関係なくお互いを強くリスペクトしながら、気負いなく経営談義ができる。

まさに、探していた人は「彼」でした。

そして、2021年3月に役員として、正式に取締役COOとして参画してもらうことになりました。

リブリーの今後

2020年から2021年にかけては、採用を加速させました。開発や営業を中心に一気にメンバーが増え、昨年7月に19名だった社員数は現在43名になりました。

事業開発のスピードは上がり、コーポレートもどんどん整備が進んでいます。事業としても、小中学校に続き、高校でも1人1台環境が整いはじめており、これからのEdTech業界は本当に「時代が変化する瞬間」を迎えます。

その時代を支えるEdTech企業の果たすべき責任は重いです。

そして、このたびリブリーは、3回目の資金調達を実施しました。

来年2022年は、高校の学習指導要領改訂があり、多くの学校でICT活用が進みます。また、ICTを活用した学びの出発点として「デジタル教科書」の普及が今後見込まれています。

これまでにもリブリーは「教材のデジタル化」を通じて、多くの出版社や学校とともに、知識・技能の習得や先生の働き方改革に貢献してきました。

来春に向けては、さらに一歩進み、デジタル教科書のプラットフォームを提供する国内唯一のベンチャーとして、デジタルの良さを最大限に活かした「デジタル教科書プラットフォーム」をつくります。


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振り返ってみるとあっという間の4年間でした。

教育業界を取り巻く環境は急速に変化し、会社としてもメンバーの増減があるたびに変化し、成長を続けています。

それでもまだ、僕たちの掲げる「一人ひとりが自分の可能性を最大限に発揮できる社会をつくる」というビジョンの実現には程遠いです。

一歩一歩着実に次の1年間も爆速で進みたいと思います。