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“ひとりてらり”へ至る道 01 (Ep.-6)

 前回の「ひとりてらり」は、あくまでご挨拶みたいなもの。
 次に書く「第1話」が大事だぞ、さて何を書こうか、と考えていたんですけども。
 
 ンもうすがすがしいほどに何も出てこなくてな!!!!!!
 
 そんなときふと脳裡に浮かんだのが、今年の11月に公開予定の映画〔ゴジラ -1.0〕のことでした。

 すべての日本人にとって基礎教養以前の一般常識だと思いますが、ゴジラの第一作は1954年(昭和29年)に発表。物語の舞台も発表時期に準じておりました。
 しかし、この最新作〔-1.0〕の舞台はそれよりも前に遡り、戦後間もない昭和20年ごろが舞台なのだそうです。
 
「そうか、前に進まなくてもいいんだ。遡ってもいいんだ
 
 永元千尋の脳裡に閃くアイデア。というかモロにパクリ。
 
「ここ最近の自分の生活で一番アップダウンが激しかったの、やっぱ2018年から2020年にかけてだったかなー。幸いなことに別のWebサービスでその変の文章しっかり残ってるから、これ転載しちゃえば楽ができるんじゃね?」
 
 最初のまともな投稿を過去の自分の文章から転載で済ませようとする自堕落っぷり! みなさまご覧下さい! これが永元千尋という男です!
 
「タイトルもまんまパクるか。ひとりてらり-1.0……いやこれ文章量多すぎてダメだな。-5、いや、-6くらいはあるぞ……ってことはこの先6話ぶんも過去の文章を転載するだけで埋められるってこと? 俺、天才じゃね?!?!」
 
 HAHAHAHA。転載ヽヽ天才ヽヽってか。やかましいわ。


2023/08/02

なお、この一連のエピソードは、マガジン〔LIBERTYWORKS レーベル概要〕内にある記事、
〔永元千尋 略歴;第四部/独立編〕の2018年以後を詳細に補完するものになっています。
そちらも併せてご確認いただければ、より楽しめるかもしれません。


前文:2019/07/15 19:31

 前回の近況報告からほぼ一年、えらく時間がかかってしまいました。
 昨年から今年にかけてそれほど多忙だったのか、全く余裕がなかったのかと言えば、まあ、ゲームしたり映画観たりガンプラいじったりはしてたんですけどね。
 
 ただ、この一年の間で僕の身の上に起きた出来事というのは、控えめに言っても「人生の岐路」とか「激動の一年」と表現してよいものでして。そう簡単に文章化できるものではなかったのです。
 ある意味では挫折かもしれず、ある意味では諦めかもしれず、ひょっとすると当然の帰結かもしれなくて……。
 
 まあ要するに、自分の中で消化できていないものを吐き出すとただ感情的に喚いているだけになってしまうので、閲覧者の共感を得られないどころか自己嫌悪に陥って死にたくなるだけだろうと。これは軽率に書けないなと。
 なので、ある程度客観的に見つめられる時間が必要だろうと判断したために、これほど間が空いてしまいました。粗忽者の僕でも、そういう慎重な判断ができる程度には大人になったということなのでしょう。たぶん。
 
 さて、この一年、永元千尋の身の上に何があったのか。
 
 簡単に言うと、2018年の僕は文筆業に従事しており、主にゲームテキストを書いて飯を食ってるライターでした。
 2019年の今は製造業に従事しており、プラスチック成型の金型を製造する会社で最終仕上げの工程を主に担当、将来的には鏡面加工の可能な職人を目指しております。
 
 と書くだけでも、ひとりの人間が生まれ変わるに等しい決断やら葛藤やらがあったことは察していただけるかなと。
 ええ、もうね、わりかし大変だったんスよ。
   

まずは2018年の春から

 当時の僕は、いわゆる美少女ゲーム関連のテキストライティングを生業にしておりました。
 幸いなことに取引先にも恵まれて、当時主にやりとりのあったディレクター氏とは今もゆるい繋がりを保っているのですが、ご迷惑がかかると嫌なので具体的な名称は伏せます。詮索もナシでよろしく。
 
 ここでは、外注ライターの身の上でありながら、僕が企画・原案を手がけたゲームの開発が行われていました。
 僕が過去に手がけた作品を評価していただいた上でのことで、今でもこの会社と関係諸氏には足を向けて寝られない気持ちがあります。できれば最後までやりきってリリースの日を迎えたかったのですが、結果的には開発中止。日の目を見ることはなくなりました。
 
 今振り返ると、この企画、何かとトラブル続きでした。
 タッグを組んでいた原画家さんは逃げちゃうし、僕自身も心身の健康を損なって何ヶ月もろくに成果物が上がっていないという状態が続いたりして。
 具体的な病名は「全般性不安障害」というらしく、ざっくり言えば若い頃から無理してきたツケが顕在化していたんですな。詳しいことは省略します。興味があったらググってください。
 
 ただ、最終的に開発中止の判断へ至った理由は、市場の変化がもっとも大きいと聞いております。
 パッケージ版の美少女ゲーム市場は、関係者の想像をはるかに上回る勢いで縮小を続けており、このままリリースしても開発費の回収すら見込めないレベルに来てしまっていると。レーベル全体で見てもダウンロード販売への移行を含めた方針転換が急務となっていて、原画さんの不在で宙に浮いてしまったプロジェクトは停止せざるを得なかったのです。残念ですが致し方なし。
 
 ここで僕は、一つの大きな決断を下しました。
 美少女ゲーム関連のライター業からいったん離れようと。
 
 僕がデビューしたのは前世紀も末のころ、もう二十年以上昔です。自分とは世代も価値観も違っている二十代のユーザーへ向けて、学生の男女をメインキャラに据えたエロいお話を考えるという企画シナリオ業の根本的な部分で、もういいかげんキツくなっていたんですな。
 文章でエロスを表現するということには依然として強い興味はあるけれど、たとえばTSだったり調教だったり快楽堕ちだったり、自分の中で今後も表現を模索していきたいというベクトルは(長年このジャンルで仕事をしてきたからこそ)はっきりしてしまっていて。攻略ヒロインは全員処女という条件をプロデュースの段階で義務づけられる美少女ゲームのお仕事には、苦しさや辛さを感じることが増える一方だったのです。
 
 もうね、ここからは、そもそも論になっちゃうんですけど。
 
 永元千尋は、もう、アラフィフに足を突っ込もうかというおっさんです。
 そんな自分が、息子や娘の世代がするような恋愛模様とか、たどたどしいセックスを描写するのって、正直ハードル高いんスよ。
 たとえばね、同窓会で久しぶりに会ったかつてのカノジョが人妻になってて、酒の力も相まって初々しかった当時のことを思い出すうちに今のダンナの悪口が始まって以下略……みたいなヤツなら百歩譲って、否、そらもうウッハウハで書きますけども、そんな仕事が都合良く舞い込んでくるとは限りませんしね!
 グダグダと駄文を連ねるよりも、永元も歳を取ったのだ、と一言で済ませていいところかも。
 
 ただ、エロが絡まなければ、十代あるいは二十歳前後の若者が活躍する物語はいくらでも書けます。若かりし頃の自分の記憶を紐解くもよし、父親目線で息子や娘の成長を見守るような心情で綴るもよし。いくらでも搦め手が使えますからね。
 ただエロシーンは……そうもいかんというか、熱量で書いてナンボみたいなところがありますんで、うん。
 
 そんなわけで、永元は割と本腰を入れて、ノンエロかつ一般向けの仕事をゲットするために動き出したのでした。
 

そして2018年の夏

 割とさっくり一般向けの仕事をいただきました。
 
 これまた取引先の具体的な名称は避けますけれども、出資元は財団B、開発元はゲーマーなら誰でも知ってる超大手。僕が仕事をもらったのはその下請け、いや、孫請けにあたるスタジオでした。そして開発に参加したタイトルは……うっかり口にしようものなら「あの大人気作品がとうとうゲーム化か?!」などとニュースになりかねないレベルのもの。死んでも口を割るわけにはいきません。ヒエー。
 さらに、大陸からやってきて大人気を博した某ソーシャルゲームが多角的に展開を始めるというので、その末席にも加わることになりましてね。これまた僕は孫請けの会社から仕事をもらう格好で、元請けは日本国内の会社だったのですが……。
 
 いやあ、テンション上がりました。
 俺のライター人生で第二の黄金期が来るなと本気で思ってましたから。
 もらった仕事は、もう、指示が来た端から音速で打ち返してました。
 
 憧れのコンシューマ業界に潜り込めたという喜びもありましたが、自分は美少女ゲーム業界という狭い場所しか知らない井の中の蛙であることは自覚をしていましたので、関係者一同にご迷惑をおかけしないよう最善を尽くしているつもりでした。ミーティングのたびに出来上がっていく3Dモデルやプレゼン用の動画を見てワクワクしっぱなし。掛け値なしで楽しかったですよ。
 
 あとね。
 やらしい言い方になりますけど、コンシューマ業界の報酬ってめっちゃイイんです。
 
 具体的な数字は伏せますがね、同じようなイベントテキストを書いても、kb単価あたりの値段がエロゲ仕事の二倍とか三倍くらいになるのよ。ほんともうウッハウハなの。自分の月産テキスト量と掛け合わせたら生涯最高年収ほぼ間違いナシ。そりゃあ頑張るよね! あっはっはっはっは!
 

ところが秋になると

 急に動きが止まります。
 
 ある案件については、どんなに早く仕事を挙げても、何の連絡もないまま数週間とか一ヶ月が経過するように。スタジオに問い合わせても「状況がよくわからない、申し訳ないけどもう少し待って下さい」と言われるのみ。
 いやその、一ヶ月も仕事がないと、あの、食費が、家賃が。
 
 後に連絡が来た時には、当初聞かされていたゲームの仕様がガラリと変わっておりました。
 キャラクターの掛け合い漫才や、そこから醸成されるファンサービス的な雰囲気は薄くなり、どちらかといえばゲームシステム偏重の方向へ。シナリオ容量は(締め切りが後ろへずらせないということもあって)大幅に削減されて……ってちょっと待ってよ俺の生活が! 仕事が来る前提でずっと空けてたんですけど?!!!!
 
 また別の案件では、元請けにいるクリエイター気取りのディレクターがパワハラまがいの発言を繰り返すようになってきました。どう考えても下請けや孫請けを見下していて、高圧的かつ一方的な通告ばかりを繰り返す。別の意味で先々の雲行きが怪しくなってきたわけですな。
 参加しているライター陣は、僕を含めて基本的に個人事業主。中にはラノベ作家として名を成している方もいらっしゃる。そこに暴言も同然の一方的な命令を強要すればどうなるかと言えば「もうやってられん、降ります」てなことにもなりかねない。
 間に入ったスタジオは大変です。元請けには態度を軟化あるいは翻意してもらおうと言葉を尽くしてやんわりと説明しつつ、我々ライター陣にはどうか気を悪くしないで下さいと配慮をして……見ていて可哀相なくらいでした。
 
 でも、こんな光景、初めて見たわけじゃないんですよね。
 
 ラノベ作家になろうとして出版社とやりとりしてた頃って、だいたいこんな感じでした。
 担当編集がいかに乗り気であろうと、編集会議で否決されればそこまで。作家は即刻切られます。どんな作品が当たるかなんて誰にもわからない以上、出版業は原則バクチと同じ。だから少しでも勝ち目のある作品に賭け金を多く積んでいくことになる。
 その大前提をふまえて行われる編集会議。そこでは誰が、何を、どんな風に判断しているのか。下請けや孫請けにすぎない作家やライターの身で全てを知ることはまずありません。性格に難がある作家を担当編集が面倒くさがって嘘をついていても、読者人気が離れて部数が尻すぼみになっていても、あるいは会社が資本的に傾いていて出版業から撤退するためでも、作家の側には「切られた」という事実しか知らされないんですから。
 
 コンシューマ業界も、究極的にはこれと同じなんでしょう。
 話によると、アニメ業界も似たり寄ったりらしい。
 ま、そりゃそうだ。究極、コンテンツ産業そのものがバクチみたいなものだもんな。究極、夢を売る虚業だもん。
 
 その「夢を売る虚業」の末席で、個人事業主として組織の外部にいて、仕事を請ける。
 そういう外様の身分でいる限り、どんなに頑張っても、この手の「一方的に切られる」という恐怖はつきまとうのでしょう。
 
 理想を言うなら、永元千尋という名前だけで一定のオファーが絶えない形に持ち込めれば良かったんですが、残念ながら僕はデビュー以後この二十年、そこまで自分の作家性を前面に押し出すような仕事をしてきませんでした。
 唯一、自分の我を通したのは「コヲロコヲロ」と「LOVE CORE」だけで、それも自分の手元で完結する個人出版だったからやれたこと。どちらもそれなりの成功はしたけれど、それだけで食っていけるほどではありません。
 自分もいい歳なので、夢を追うより生活の安定を考えなきゃいけませんしね。結局のところ、ゲームというのは、組織で、会社で作るもの。今の自分が持つスキルを活かして最低限の食い扶持を得ようと思ったら、コンテンツホルダーとなる会社の社員になるしかない――――
 

そうして覚悟を決めて

 2018年の冬から2019年の年明けにかけて、求職活動を始めたのです。
 その結果どうなったかは、次回に持ち越し


2019/07/15

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