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第2回。時間×心=?。児童書「モモ」を読んで思うこと。

数年前、運転しながらふと
「地球上の全ての人間が平等に持っているものってあるだろうか」
と自問自答したことがありました。
そしてしばらく考えて出た答えが

「時間と心」でした。

時間は寿命、という観点で捉えたのではなく
1日は誰にとっても24時間、という意味です。

どの国で生きようとも、性別も時代も貧富も関係なく
この地球で生きている以上、私達の1日は24時間。

また心は感情や思考というものを受け入れる器、という意味です。
感情や思考・人格などは私達の内側に数多く存在し常に流動している気がしますが
心という器自体は1人に1つなんじゃないかな、と。

あくまでも私自身が辿り着いた答えであり、異論もあるかと思いますが
私はこの考えに至った時
「人生って、この平等に与えられた2つのものをどう使うか、なのではなかろうか」
と思った、そのことを
年末年始、「モモ」を読んで久し振りに思い出しました。

この年まで「モモ」を読んだことがありませんでした。
児童書で有名な本、というのは知っていましたが、モモという女の子が出てくること以外、内容も知りませんでした。

年末、kindleでお勧めとしてリストに出てきて
少し前に誰かがお勧め本として紹介していたのをぼんやり見ていたので
児童書だし、年末年始に気負わずのんびり読むのにちょうどいいんじゃないか、と思ってダウンロードしました。

ということで、第2回のテーマは海外児童書の「モモ」。
子供向けのお話、と舐めていたら
予想以上に奥行きの深いテーマと世界観で驚きました。
以下、あらすじと私が感じたことなどについて書いてみたいと思いますが、今回もネタバレ含みますので
ノーデータで作品を楽しみたい方はここまでか
目次より最後のまとめにジャンプして下さいね。

あらすじ

とある国(イタリアがモデルらしい)の片田舎に、ある日モモという女の子がやって来ます。
黒い巻き毛に黒い瞳、つぎはぎのスカートに大人用のダブダブのジャケットを着たモモは身寄りがなく、どうやら孤児院のような施設から抜け出してきた様子。

貧しい村のはずれにある、崩れかけた円形劇場の遺跡で生活を始めたモモ。
村の人たちは最初モモを施設に入れようとしますが、遺跡で一人で生きていきたいと強く願うモモの気持ちを受け入れ、食事を差し入れたり崩れかけた劇場に寝泊まりできる部屋を造ってあげたり、みんなで面倒をみながらモモの生活を見守るようになります。

やがてモモはある能力によって、村の人たちにはなくてはならない存在になっていきます。
またモモも村の人たちのことが大好きで、沢山の子供達、掃除夫のベッポ、観光ガイドのジジなど大切な友達をこの生活で得ることが出来ました。

裕福ではないけれど静かで温かな村の暮らし。
しかしその幸せな時間は
ある日街中に姿を現し始めた灰色の男たちによって徐々に崩壊し始めます。

灰色の男たちの策略に乗り、自分の「時間」を次々に手放しだした人々。
そして手放した時間と共に「心」も失っていきます。
唯一、灰色の男が「時間」を奪えなかったのはモモだけ。
灰色の男たちの陰謀を知ったモモは、時間の管理人マイスター・ホラやホラの使者である亀のカシオペイアと共に人々の「時間」を取り戻す壮大な闘いに挑みます。
さて、その闘いの行方は・・・

というのが大まかなあらすじです。
では次に、モモを読んで私が感じたことについていくつかお話ししてみたいと思います。

「モモ」を読んで感じたこと

1.時間の束縛を受けない心。それがモモ。
主人公のモモは年齢も素性も物語で描かれてはいません。分かるのは貧しい身なり、そして黒い巻き毛に黒い瞳を持っている、ということだけ。
そんなモモには「人の話を聞く」という能力が備わっています。ただ「聞く」のではなく「本当に聞く」という能力らしく、村の人々はモモに話を聞いてもらうだけで独りでに問題の解決策や新しいアイデアが浮かんだりするらしいのです。子供達はモモと一緒にいるだけで空想の世界が広がり、何もない場所でも楽しく遊ぶことが出来ます。

モモ自体は何もせず、ただ人を受け入れるだけ。
これはもしかしたら、モモという存在は時間の束縛を受けない「今この瞬間の心」の象徴かな、と途中から思うようになりました。

誰かに相談したくなるような悩みや不安、苛立ちやストレスなどは
過去に起こった出来事か未来に対する予測からくるものがほとんど。

記憶能力、予測能力は思い出や危機回避など素晴らしい結果ももたらしますが、心の平穏を奪うという要素も持ち合わせているんですよね。

心を過去や未来から切り離し
今この瞬間の気持ちを見つめ、自問自答する時間。
もしかしたら村の人達がモモと過ごす時間ってそれなのではないかという気がします。
もしそうならば、私達はみんな、それぞれのモモに心で会うことが出来ますね。

2.圧巻の想像力&文章力で描かれた「時間」と「心」
決して見ることは出来ない
でも確実に存在している「時間」と「心」
モモが訪れたマイスター・ホラの屋敷で見た、物質化された人間の時間とモモの心の内側の部屋の描写は鳥肌モノでした。
果てしなく広いホール、無数にある様々な形をした時計
そして金色の部屋、大きな糸のない振り子、その下で咲いては消えていく花。
もしモモと同じ体験が出来るのなら、これらを想像し文章で描き出した作者、ミヒャエル・エンデの心の中を覗いてみたいものだと思いました。

3.私達は「灰色の男たち」から逃れられるか
より早く、より多く、より手軽に。
私達人間は何故、こうも忙しく生きたがる生き物なのでしょう。
1日24時間、は今も昔も変わらないはずなのに
今の私達はまるで年々1日が短くなっているかのように急いでいて、沢山のものを手に入れたがって、便利さを求めています。
「発展した暮らし」は確かに快適で、一度足を踏み入れたらもう知らなかった生活には戻れません。
そして私達は一度得た発展を失うことを恐れて、未来の自分への投資に今の時間を使ったりしています。

「今この瞬間の幸せ」の為に「今」という時間はあるのだということ
いつの間にか忘れてしまっている私達。

恐らく私達の周りにも「灰色の男たち」がいるのでしょう。
実質的な豊かさは手に入れたけど何だか毎日イライラする、落ち込む、不安になる、ということがあれば
私達は心の中にきっといるそれぞれの「モモ」に相談して、灰色の男たちの魔の手から逃れる手立てを考えた方が良いかもしれません。

4.カシオペイアがとにかく可愛い
物語の後半に登場する、カシオペイアという名前のカメ。
時間の管理人マイスター・ホラの使者で、30分先の未来が分かり甲羅に文字を浮かび上がらせてモモと会話が出来るという超優れ者です。
灰色の男たちと闘うモモの良き相棒となるカシオペイアですが、緊張感漂う後半の展開の中で、唯一気持ちをほっこりさせてくれる存在となっています。

モモの相棒が犬とかネコとかではなくカメっていうところにエンデのセンスを感じてしまいます。
のんびりゆっくりしか動けない生き物が時間を搾取する灰色の男たちと闘うんですもんね。
また、名前がカシオペイアって!
カメの名前がカシオペイアだなんて、超可愛くて洒落てると思いませんか?
おまけに甲羅に光る文字を映し出してお話ししてくれるんですよ。

ウチにも来ないかなぁ~。
モモよりマイスター・ホラより、私はカシオペイアと仲良くなりたいです。

まとめ。時間と心について、大人も子供もじっくり考えさせられる作品

モモの第6章にこのような文章があります。

なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人の命は心を住みかとしているからです。

私が数年前に辿り着いた
「人生って、この平等に与えられた2つのもの(時間と心)をどう使うか、なのではなかろうか」という思いを
小さな子供でも分かりやすい言葉で表現してくれているようで、この一文に触れた時、喜びと感動がありました。

ところで平等に与えられていると私が思う「時間」と「心」ですが
平等に与えられてはいても
使う機会を平等に与えられているか、というとそうではないだろうな、とも思っています。

例えば国、自治体、家庭内など
逃げられない場所で強い立場の人に圧力をかけられて
「時間」も「心」も自分の思い通りに使えない、という人は沢山いると思うし
病気で上手くコントロール出来ない人も多いはず。

まだ自分の意思だけで世の中を渡っていけない子供達は
「時間」も「心」も大人の管理下にあるので
その影響をもろに受けてしまいますよね。
現実社会はモモみたいに子供が一人で生きていくことは出来ないから。

そう考えると
平等に与えられている「時間」と「心」
これを自分の意思で自由に使えるって
決して当たり前のことではなく、すごく幸せなこと。
また、自由に使える人間がそうでない人達の為に自分の時間や心を少しずつでも割くことが出来れば
世の中、平和になっていくのではないか、という思いも
今回、モモを読んだことによって私の中に芽生えました。

子供の読み物として充分楽しめるファンタジー要素もあり
だけどストーリーのテーマは人間が抱える普遍的な問題だったりして
なるほど、どうりで世界中で長年にわたり愛される作品なワケだ、と思いました。
まだ読まれたことがない方には私もお勧めします。
挿絵が可愛いし(挿絵もミヒャエル・エンデが描いているらしいです。才能の塊!)、漢字にはふりがながふってあるので、小学生くらいのお子さんから大丈夫だと思いますよ~。



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