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【本】宇宙飛行士 野口聡一さん「どう生きるか つらかった時の話をしよう」

私の記憶の中の野口聡一さんはこうだ。

堂々溌剌としていて、自信に満ち溢れていて、それでいて私たち一般人と距離が近く、テレビ中継などで積極的に宇宙の楽しさ・面白さを伝えてくれていた。どこか天真爛漫で、ポジティブ。そんなお人柄を勝手に感じていた。

そんなイメージしかなかった野口さん。
「どう生きるか つらかった時の話をしよう」という本のタイトルと著者である野口さんが一瞬つながらなかったのは、私だけじゃないと思う。

この本では、自省の大切さが説かれている。
自分を知り、向き合い、自分以外の誰かに自分を定義させないこと。
そのことが、ご自身のつらい経験や、学びを切り口に繰り返し説明されている。

アイデンティティという言葉を初めて理解したのは、多分大学受験の時だった気がする。
現代文の過去問を解いているときに頻繁に出てきたので、改めて自分で辞書を引いたのだ。その時は、アイデンティティはすでにあるものであり、誰かに勝手に決められる(正しくは、誰かの視点を持って自ら形成してしまう)なんて、そんなこと思いもしなかった。

でも社会人になり、人に評価される機会が増え、自分が思う自分の存在価値は、「人からどうみられるか」・「人からどう評価されるか」に簡単にすり替わってしまった。それも、ごく自然に。

自分を、そして周りをランク付けし、その相対評価の中で自身をポジショニングすることは、とても苦しくつらい。
でもそんな世界に生き始めていることを、当時の自分は客観的に理解できなかった。

社会人生活も10年を超えた。
その間ずっと抱えてきたそのずっしりとした痛みを、最近少しずつ手放そうとしている。

「周囲や社会に認めてもらえなかったらどうしよう」という不安に向き合うのは易しい事じゃない。

自分が本当に好きなこと。苦手なこと。嫌いなこと。夢と希望。
ずーっとぐるぐる、ぐるぐるしながらその一つひとつに丁寧に向き合っていく、根気のいる作業だ。

途中なんども旧式の考え方に引き戻されたり、つらい時もある。
その結果、私自身まだまだ修行中の身ではあるが、やっと野口さんがいうところの「自分の価値を他人にゆだねず自分で決める」ことが少しずつできるようになってきたと思う。

これは恐らく一朝一夕にはいかない旅路。
でも、「いつも誰かの視線を気にして生きている」とか、「思ったように感謝されないとイライラする」、「人と自分を比べて落ち込んでしまう」とか、何らかの形で他人に自分の一部を委ねてしまっていることに気づく人がいたならば、ぜひこの本を読んでもらいたい。

この本はハウツー本ではない。だから読んでもあなたの悩みはすぐに解決しないと思う。でも、一度読んでみてほしい。誰かの通ってきた道のりを眺めるだけで大きな気づきになるし、そのことに気づいたところから、自省が始まると思うから。


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