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高校国語のやりなおし⑤「羅生門」の核心。下人の初体験は老婆。

「きっと、そうか。」
 老婆の話がおわると、下人は嘲るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手をにきびから離して、老婆の襟上をつかみながら、噛みつくようにこう云った。
「では、おれが引剥をしようと恨むまいな。おれもそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
 下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。

という場面ですが、ここだけで30分くらい授業ができます。

まず「老婆の襟髪(えりがみ)」とありますが、これ、どこか分かりますか?自分の襟髪をもってみてください。

これは首のうしろのところですね。
ですから、相手の襟髪をつかむためにはかなり詰めないといけません。今でいう「壁ドン」ですね。(壁ドンは本当は違う意味でしたが…笑)
下人が、初めて女の子(老婆)にグイっとくるキュン場面です。

次に「老婆の着物」というアイテムを盗んだことについて。
これってレアアイテムなのでしょうか。
いやいや、洗濯もしてないきったねぇ~古着です。
そんなものよりも老婆が作った「かつら」の方が高いです。当時の物価でいくと「10万円」くらいしますよ。実際に原作『今昔物語』では「かつら」を盗んでいます。では、なぜ天才・芥川龍之介はこのような改変を行ったのか。これが核心です。


①下人に良心を残し、読者に親近感を持たせた。
盗んだものが「着物」だけだったことから、罪としては少し軽く見えます。
被害額が少額ですからね。
いかに小説とはいえ、極悪人が主人公では、共感しにくくなります。

②下人のその後について、想像の余地を残した。
①と似ていますが、少し心理学的な分析を加えてみましょう。
今回、老婆に対して暴力や窃盗を行ったことは、普段社会的弱者であった下人の人生にとって転機である。今後、盗人として生きていくのか、それとも更生するのか、はたまた飢え死にするのか、わからない。
わからないのだが、彼にとって「初犯」である。一度でも悪事に手を染めてしまえば、再犯の恐れはある。一方で軽めの初犯だから、更生の可能性もある。そうした揺れる状況を表すために改変したといえます。

つまり、下人の初体験は老婆だったわけです。
このあたりが「門」という境界を象徴するタイトルともマッチしていて、さすが芥川ですね~👉いいね!


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