見出し画像

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を企業の視点で読みかえてみる

昨年の12月24日にデジタル庁が公開した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」には、今後の日本社会で実現するデジタル化が定義されています。

この重点計画では特に6つの分野についてデジタル化を推進するとされています。これらを企業のDX化として読み直してみると理解が深まるかもしれません。

1.デジタル化による成長戦略

企業としての施策に読み替えると、デジタル化を進める為にITガバナンスの構築やシステムアーキテクチャポリシーの策定、データの標準化を実施することや、共通IDを用いたシームレスなOMOサービスを提供することを通して事業成長をする、というような感じでしょうか。

2.医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化

企業としての施策に読み替えると、企業資本としての社員らの身体やメンタルに配慮した健康経営の実施や事業継続のためのBCPの策定が該当しそうです。また、間接業務の効率化・自動化を進め、社員の生産性とエンゲージメントを高めるデジタル施策の促進、というような感じでしょうか。

3.デジタル化による地域の活性化

企業としての施策に読み替えてみると、部門のセクショナリズムを廃し、部門横断の事業改革を推し進めるための活発なコミュニケーション基盤の構築や、必要な情報に必要な時にスムースにアクセスができ、活発な事業活動を促進する、というような感じでしょうか。

4.誰一人取り残されないデジタル社会

これは少し解釈が難しいテーマです。企業の視点で言えば、「社員」または「顧客」のいずれかを対象とするのかにより意味が変わりそうです。「社員」である場合は、働く場所がオフィスやテレワークのいずれが良いのかは一人一人の業務内容により変わります。また、就業時間についてもフレックスや時短なども考えられます。社員一人一人の仕事環境の違いが不当な人事評価の要因になら無いようにしなければいけません。
「顧客」の場合は、彼らが求めているニーズやペインポイント、JTBD(Jobs-to-be-done)が何であるのか、それを解決する手段やサービスを企業としてどのように提供するのかが本質的なテーマであり、これらを無視したような、ただのテクノロジーライクなUXは避けねばなりません。

5.デジタル人材の育成・確保

企業としての施策に読み替えてみると、IT人材・デジタル人材の確保は企業のDX化を成功させるためには必要条件です。しかし、各企業ともこれらの人材を求めているため、人材市場では枯渇しています。その為、企業としては既存社員のリスキリングも有効な手段となりますが、いずれにおいても「スキル・ジョブ定義」「採用設計」をきちんと組み立てていく必要があります。

6.DFFTの推進をはじめとする国際戦略

DFFT : Data Free Flow with Trust

企業のDX化を成功させる肝として「データアナリシス」「データエンジニアリング」「データサイエンス」を考慮する必要があります。また、電子データの性質上、サイバーセキュリティも切り離せないものです。ユーザデータの保護は必須ですが、一方で、データ利活用の促進も行うことでサービス品質を高めることもできます。また、法規制や各業界のレギュレーションを守ることを前提に、外部取引先等とのデータ共有を行ない、新たなサービスを企画することもできるかもしれません。そういったデータ基盤やデータ流通に関する取り決めが必要です。

日本社会と企業それぞれのDXとは何か

このように見ると、デジタル庁の作成した重点計画は企業のテーマにも当てはまるものでした。ちなみに、日本社会としてはDX化の先には何があるのでしょうか?
企業のDX化は「このままで10年後も生き残れるか」という問いかけです。

経営者としての強烈な危機意識が原動力となり、全社員のトランスフォーメーションも求めます。一方で社員としては、そういった状況に同意できない場合は転職するなどでその企業を去る選択肢もあります。(転職の難しさはあるかもしれません)
しかし、社会や国家の場合はどうやら同じようにはできなさそうです。企業の倒産にあたることはそう簡単には発生しないでしょうし、国民が国籍を変えるという行為も簡単ではありません。日本社会のDX化は、労働人口の減少・高齢者増加という課題背景がある中で、テクノロジーの力を用いて生活水準を何とか維持することが目的だと思います。

一昔前は、「日本列島改造論」というものがありました。日本列島を高速道路や新幹線などで張り巡らせ、大都市と地方都市を結び、カネ・ヒト・モノをジャンジャンと流通させることで日本経済を発展させるという考えや施策のことです。

その功罪はさておき、これは目に見える成果物があるわけです(コンクリートや金や経済発展など)。しかし、「デジタル社会の実現」の成果物は何でしょうか?テクノロジーやデジタルやUXという目に見えない成果物が主となるわけですから、それらを解釈、理解できるイマジネーション力が国民に求められます。日本社会のDX化は、生活水準を維持すること以外にも、国内の様々な社会問題を解決するムーンショットとなることが期待されています。

テクノロジー企業の栄枯盛衰はとても激しいものがありますが、現在の成功企業は、「システムの物売り」から「ソリューションサービス」への転換をしています。日本も物売りで栄えた国ですが、今後は、経済先進国ではなく課題先進国として、そこで生み出されたナレッジを元に、デジタルサービス、エンタメコンテンツ、国家DXコンサルティングなどのサービス分野で海外に対してプレゼンスを出せると良いのではないでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?