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彼が彼女と同じ朝を迎えていた/青春物語29

「なに言ってるの、永尾さんったら。飲み過ぎた?」
バックミラー越しに運転手さんと目が合った私はとっさにそう言った。
「・・ごめん。酔っているのかな」
「そうだよ。酔っているんだよ」

今、ダウンをかけ彼の匂いに包まれながら なんであの時ちゃんと答えなかったのか後悔していた。
コロンを偶然見つけたなんてウソだよ。
永尾さんが言う通り、いつもそばに感じていたくて探したんだよ。
あの時、照れずにそう言えば良かった。

「ただいま」
玄関から永尾さんたちの声がした。
「そこのコンビニ、この雪のせいで何もなかったよ」
そう言って彼らはテーブルにパンやおにぎりを広げた。

「やっぱり朝はご飯と味噌汁だな」
パンをほおばりながら永尾さんが言った。
「あら意外。パン党じゃないの?」
いつの間にか来ていた青井さんが言った。

「食堂でちゃんと朝メシ食うようになってからご飯党になりましたよ」
「あら、彼女に作ってもらってたんじゃないの?」
「はあ、朝はお互い忙しかったのでパンでした」「そりゃ甘い朝だから起きて来れんだろう?」
隣に立っていた古賀主任が口を挟んだ。

「なにを言い出すんですか、主任」
彼は顔を赤くして早口に言った。
「まぁ盛んな時期はあるもんさ」
「そんなこと、どうだっていいじゃないですか」
「お前も男だってことだよ。同棲してたんだろう?」

二人の会話を少し離れて聞いていた私は、そっとダウンを椅子にかけた。
彼が彼女と同じ朝を迎えていたことが初めて頭をよぎった。