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自分が一番許せなかった/青春物語40

お正月休みが終わった。
各部署ではお得意先への新年の挨拶回りに出かけ始めていた。
少しざわついた社内でFAXを流していると永尾さんがやって来た。

「よぉ、久しぶり」
彼はそう言って、私の頭をポンとして笑った。

「久しぶりだね。お正月休みは楽しかった?」
「あぁ地元に帰ってたんだ。桜田さん、小林と遊んだんだって?」
「えっ?」
突然の彼の言葉に私はたじろいた。

「休み中に小林と遊んだんでしょ?」
「なんで知ってるの?」
「小林から聞いたよ。地元で遊んだって」
「私の親戚の家と小林さんの実家が近かったからちょっと会っただけだよ」
私は誤解されまいと早口でまくし立てた。

「でも、ご飯も食べたんだろ?あの有名な(橘)で」
「高級なお店で食べる機会がないに等しいから連れて行ってもらっただけだよ」
「いいって。そんな真っ赤な顔して まくし立てなくても」
「そうだけど…」

「おい永尾。挨拶回り行くぞ」
先輩の萩原さんがこっちを見て叫んだ。
「桜田さん、これ東京本社に流しておいて。終わったら俺の机の上に置いといて」
彼はそう言って戻って行った。

私は彼が小林さんとの事をどう思ったか心配でならなかった。
それと同時に彼にお正月の話をした小林さんが許せなかった。
ほんの軽い気持ちで小林さんと会ってしまった自分が一番許せなかったのだけど。