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変なリアクションするなよ/青春物語32

「タバコ吸っていい?」
永尾さんは駐車場を出ると私の方を向いて言った。

「いいよ。落ち着かない?」
「バァカ。俺、ハート銀行あたりまでしか知らないからナビよろしくね」
「送ってもらえてありがたいわ」
「彼氏が怒るかな?」
「そんなことないよ。永尾さんの方こそ彼女さんの耳に入ったら困るんじゃない?」
「俺は大丈夫。桜田さんを一人で帰すほうが心配だよ」
「そんなこと言って。親心ってヤツ?」
「そうそう。せめて兄貴って言ってほしいけどね」

兄貴か…
くわえタバコで運転する彼の横顔を見ていた。
ああ私、やっぱりこの人が好きかも知れない。
瞬間的にそう思った。

「なに?ジッと見て。惚れた?」
彼の突然の言葉にドキッとした。
「そ、そんなわけないでしょ。バカ」 
動揺する私を見て彼も焦っていた。
「いや冗談だよ。変なリアクションするなよ」

「べ、べつに何もしてないよ」
そう言って下を向いた私の足元に数個、マッチ箱が落ちていた。

「あっマッチ箱が落ちている!」
自分の動揺を隠すかのように私は声を上げた。
「ああ、それカラだよ。ほっといて」
「私、可愛いマッチ箱集めているんだ」
「そうなんだ。ダッシュボードにもいくつか入ってるよ」
そう言って彼はダッシュボードに手を伸ばした。