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ちっぽけなプライドを守ろうと/青春物語集37

しばらく走ると視界が遮られていった。
大粒の涙が両頬を伝っていた。
彼への想いが募っていた私に昼間の春木先輩の言葉が突き刺さった。

彼女と会う…
別れていなかった…
そんなことが頭の中をグルグルと駆け巡った。

渋滞の交差点でもう少しで事故りそうになった私は気を落ち着かそうと小料理屋に入った。
ひとり下を向いて箸を運ぶ私は異様に映ったかもしれない。
そんな周りの目が気にならないほど心は衝撃を受けていた。

そう言えば、いつか彼が美味しいお店に連れて行ってくれるって言ったっけ。
そんな約束も、もう叶えられないんだ。
彼の笑顔が浮かんでは消え、消えては浮かんでいた。

週明けの社内でとびっきりの笑顔の彼にすれ違った。
「おはよう」と言った声はワントーン高かった。
それで全てを察した私は彼への想いを閉じ込めた。
自分一人が幸せに酔いしれていたかと思うと惨めだった。
ちっぽけなプライドを守ろうとする私がいた。

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