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〜最終章・想い〜青春物語55

永尾さんが退社するのは明日だった。
会社に在籍をしていればどこに転勤になっても消息は掴めるだろう。
でも辞めて地元に帰ったのなら…

もう会えない。永久に会えないんだ。
そう思うと私は朝からいてもたってもいられなかった。
意を決して震える指で会社へ電話をした。
電話口の声は誰かわからなかったが、務めて冷静に私は言った。
「お世話になります。株式会社ジョイの桜田です。自動車部の永尾さんお願いします」
覚えのある保留音がとてつもなく長く感じられた。

「お電話代わりました。永尾です」
「お世話になります。桜田です」
「桜田さん?どうしたの?」
「この間、明日退社するって聞いたから…それで、あの…」
「ああ、今までお世話になりました」
彼は事務的に答えた。

私は小声で思い切って言った。
「今からハート銀行へ行くんだけど来れない?」
「えっ?今から?」
彼も小声で答えた。

「うん。最後に会いたいんだ。銀行で待ってるから」
「・・じゃあ20分後ぐらいに」
「ありがとう」
私は受話器を置くと送金の準備をし、足早に銀行へ向かった。

銀行は混んでいた。
自動車の彼の方が先に着いているかもしれないと銀行内を見渡した。
ATMの列も確認し、彼の姿が見えないので駐車場で待つことにした。

彼はなかなかやって来なかった。
気が変わったのかもしれない。
どこかですれ違ってもう帰ったのかもしれない。
私はだんだん不安になって辺りを歩き回った。
が、彼の姿を見つけることが出来なかった。