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まだマッチ箱、集めている?/青春物語34

「次の次の信号を左だったよね?」
助手席の永尾さんはまっすぐ前を向いたまま言った。

「あっうん。そう」
彼に家まで送って行ってもらった日のことを思い出してた私は慌てて答えた。

「ねぇ桜田ちゃんは映画、観に行けないの?」
隣の大川ちゃんが聞いた。
「う〜ん。父親がいたらまた出て行くのはうるさいかも」
「こんな顔合わせのWデートはもうないだろ?行こうよ」
彼が口を挟んだ。

デートか…
家まで送ってくれたあの日、美味しいお店を教えてもらったから今度行こうよと言った彼。
ずっとその約束は果たされないままだったな。
私は密かに期待していたのに。
そんなこと考えながら助手席の彼の後ろ姿を見つめていた。

やがて私の家の前に到着すると急いで降りた。
「ただいま。遅くなりましたぁ。また出かけるよ」
そう言いながらまっすぐバスルームに向かった。
急いでシャワーを浴び、ブルブル震いながら部屋に戻ると母が立っていた。
「おかえり。また出かけるの?」
「うん。会社の人たちと映画観に行って来ていい?お父さん怒るかな?」
「いいけど。あの人たち?」
母はカーテン越しに、下の駐車場で父の車を覗き込んでいる彼らを指差した。

「ねぇあの右側の人、どう思う?」
私は着替えながら永尾さんを指差した。
「いいんじゃない?」
どういいんだか、母は笑いながら即答した。

ドレスから着替えた私が玄関から出ると永尾さんたちも車に乗り込んだ。
繁華街まで車を走らせ映画館に着いた。
みんな観たい映画が違っていたけどカーチェイスの洋画に決まった。

館内はすでに薄暗く予告が流れていた。
私と大川ちゃんを挟んで永尾さんたちが両側に座った。
ポップコーンをほおばりながらカーチェイスの世界に引き込まれていった。

観終わった後、みんなで近くのお店に入って食事をした。
「あっライターが点かない」
そう言って富樫さんが立ち上がった。
「俺のを貸すよ」
「いいよ、マッチもらって来る」
そう言ったかと思うと小走りでレジに向かっていた。

私は、そのもらって来たマッチを見て「可愛いね」と言った。
「まだマッチ箱集めてる?」
永尾さんのその言葉に私は驚いた。

「うん。覚えてた?」
「なに桜田ちゃん。マッチ箱集めてるの?」
隣に座っていた大川ちゃんが富樫さんのマッチ箱を手にして聞いた。