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一週間前のあのひとときは何だったのだろう?/青春物語36

その日、彼とは朝 顔を合わせただけだった。
私はこれから何か変わるかもしれないと心の中で思っていたのに。
自分の心に正直になろうと思っていたのに。

年末の忙しさから彼とは話もできないまま一週間が過ぎようとしていた。
お昼休憩の食堂で春木先輩が隣に座って小声で言った。
「明日、永尾さん地元に帰って彼女に会うらしいよ」
「えっ?別れたんじゃなかったの?」
「みたいだね。それともヨリを戻しに行くのかな?」
「そうなんだ。知らなかった」
私は平静を装うので精一杯だった。

信じられなかった。
一週間前のあのひとときは何だったのだろう。
もう少しで涙がこぼれそうになるのをグッとこらえて食事をしていた。

17時15分の終業と共に仕事を終えた。
彼が営業から帰って来る前に会社を出たかった。
私の中で何かプッツリと切れる音がした。

何とも言えぬ想いを抱いて初心者マークの愛車に飛び乗った。
まっすぐ家に帰る気がしなかった。
彼が悪いわけではない。
むしろ勝手に想いを募らせていたのは私だったのだから。
自分の滑稽さに笑うこともできなかった。