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〜最終章・再会〜青春物語54

数ヶ月後、私は子会社のオープニングスタッフとしてお手伝いに行っていた。
結婚式までの契約だった。

ある日のお昼近く、会社から郵便局に向かって歩いていた。
突然、反対車線から「桜田さん!」と大声で呼ばれた。
えっ?と振り向くと、あの永尾さんが見慣れた看板車の窓から顔を出して走り去って行った。
私は驚いてその場に立ち尽くした。
「見間違いだっただろうか…」

ふと我に返り、また歩き出すと後ろからクラクションが鳴った。
彼だった。
看板車を片隅に寄せ、助手席の窓を開いて「久しぶり!」と笑った。
私は声が出なかった。

「元気だった?」
「うん、久しぶり。こんな所で偶然だね」
私は震える声で言った。
「桜田さんがそこのビルに手伝いに来てるって聞いていたんだ」
「えっ?」
「で、うちの制服を着て歩いていたからもしや?って思って。今、Uターンして来た」
数ヶ月ぶりの彼の笑顔は相変わらずだった。
私は突然の再会にどう話したらいいのか戸惑っていた。

「俺さ、もうすぐ会社辞めるんだ」
「えっ、辞めちゃうの?」
「うん。で、地元帰るんだ」
「神奈川に帰るの?」
「うん。オヤジの具合、悪くてさ。実家手伝おうと思って」
「あ、お店やってるんだったね」
「小さな店だけどね。俺、長男だし」
「そっか。頑張ってね」
彼のことはもう忘れていたけど、今聞いた話は少なからずショックだった。

「今ここで桜田さんに会えて良かったよ」
「私もだよ。また会えるとは思っていなかったから」
「じゃあ元気でな」
「いつ帰るの?」
「来週いっぱいで辞めるよ。元気でな」
「うん。永尾さんもね」
そう言うのが精一杯だった。
彼はクラクションを鳴らして走り去って行った。