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〜最終章・別離〜青春物語56

どれぐらい時間が経ったのだろう。
私は姿を現さない永尾さんに失望して、銀行内のソファに座り込んだ。
現金の入ったバッグを握りしめ、うつむいていた。

明日で退社と言う彼に、最後に逢いたい一心で思い切って彼に電話をした。
もうすぐ逢える、逢えるんだと胸は高鳴った。
それなのに・・・
今、私はここで何をしているんだろう。
何をすればいいんだろう。
バッグの上にポタポタと涙がこぼれた。

ハンカチで目を押さえ顔を上げた時、彼が目の前に立っていた。
「永尾さん」
「ごめん、遅くなって。大丈夫?」
私の顔を見た彼は、うろたえながら隣に座った。

「・・・来てくれないのかと思った」
「ごめん。クレーム処理してたんだ」
「忙しいのにごめんね。ありがとう」
「いや俺、もう大した仕事ないし。電話もらった時、嬉しかったよ」
「明日、辞めちゃうんだよね。もう逢えなくなるね」
「うん。桜田さん、結婚するんだろ。幸せになれよ」
「・・・うん」
彼の言葉に胸が詰まった。

黙った私の手元を見て彼は言った。
「送金したの?」
「あっ、忘れてた!」
「バァカ。何しに来たんだよ」
そう言って、私の頭をポンと叩いた。

変わらない笑顔だった。
大好きな笑顔だった。
このまま時が止まればいいのに…
本気でそう思った。
でも…。