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私みたいな子供を手玉に取ることぐらい簡単だろう/青春物語30

一緒に朝を迎える。同棲…同棲…
思いがけない古賀主任の言葉に反応して何かが胸に突き刺さった。

そうだ、この人は4年間も同棲していたんだ。
私みたいな子供を手玉に取ることぐらい簡単なことなんだろう。
そう思うと永尾さんの顔がまともに見られなかった。
さっきまで幸せをかみ締めていた自分が惨めに思えた。

やがて彼が私のところにやって来て言った。
「富樫が車を出してくれるんだって。桜田さんの家まで送るよ」
「えっいいです。タクシーで帰りますから」
私は振り返って彼の後ろに立っていた富樫さんに言った。
富樫さんは営業所に永尾さんと同期入社していた人だった。

「いいよ。こんな雪の日、タクシー来てくれないでしょ」
「でも私の家遠いですから。じゃあ駅まででいいです」
「どうせ永尾も支社まで送らなきゃいけないから、いいよ」
「いいじゃん。富樫が送って行くって言ってくれるんだから」
私の気も知らずに彼がそう言った。

営業所のみんなにお礼を言い、富樫さんの車に私と彼と大川ちゃんが乗り込んだ。
富樫さんに送ってもらうと決まった時、大川ちゃんが私に言った。
「私も行っていい?」
「着いて来てくれるの?」
「男二人じゃ心配でしょ」
「そんなことないけど」
「私、今日暇だからドライブ行きたいのよ」

そう言ってた大川ちゃんが実は富樫さんと付き合い出したと車の中で言った。
「みんな知ってるの?」
「知らないと思う。でも永尾さんは知ってたでしょ?」
「知ってたよ」
彼はそう言ってバックミラー越しに私を見た。