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名探偵は今日もどこかに

【観劇感想】全力のネタバレ/ひたすら主観/割りと記憶がザル

光があれば影が出来る。第一作『名探偵アンドリュー氏の優雅な一日』で見たアンドリューさんは光の側面だったと、今、思う。ところが続編である今作『名探偵アンドリュー氏と黄昏の家』でのアンドリューさんはそう一筋縄ではいかない。振り回されがちな助手くんの気持ちがわかります、はい。

Mono-Musica
音楽劇『名探偵アンドリュー氏と黄昏の家』
(2020年3月20日~22日)
https://www.mono-musica.com/tsgr
探偵アンドリュー(杏さん)
助手(ヤヤさん)
十和子(チャングさん)
匠(MIKUさん)

探偵さんの新たな一面

今回の依頼人、伯爵令嬢十和子さんはとてつもないキーパーソンだった。
アンドリューさんは彼女の依頼にはどうやら気乗りしない様子。しかも貴族の家の世襲事情に詳しい。そして十和子さんの婚約者だったホンモノの二階堂匠とは旧友らしい。明確には描かれないが、以前舞踏会の場で十和子さんと顔を合わせていることを考えると、本名の「あんどうりゅう」さんはどうやら上流階級の人間のように思える。しかもそれらの事柄に対して、アンドリューさん自身はあまりポジティブではない。第一作では見られなかった彼の過去が垣間見えた気がした。
ホント何者なのアンドリューさーん(困惑)

アンドリューさんと十和子さんはどこか似ている。家族を喪い、孤独な黄昏の中で夜の仮面を求めた十和子さん。アンドリューさんもまた何らかの理由で、たった独り、探偵業を始めた(今は助手くんがいるけどね)

異なるところは、逃げなかったこと、だろうか。緩やかに記憶を失っていく十和子さんにとっては、黄昏が過ぎた後の夜の闇への逃避行が「ビューティ仮面」なのだろうけれど(悪であれ彼女には喜びだった)、きっとアンドリューさんにとっての「探偵」は決して夜の闇などではなかったはず。未だわからないことだらけには違いないが、さしずめ、新しい朝が来たと信じたい。

黄昏とは https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E9%BB%84%E6%98%8F_%28%E3%81%9F%E3%81%9D%E3%81%8C%E3%82%8C%29/

十和子さんが錯乱したと聞いても動じることのなかったアンドリューさんは、果たして彼女のことをどう見ていたのだろう。作中、ある程度の距離感を保ったままに見える2人。彼らの間にあるのは共感か理解か、拒絶か、はたまた…。

助手くん≠私

モノムジカでは、座付脚本家(ヤマケイさん)がキャストに当て書きする形で創作されている。役者一人一人に息づくキャラクターが魅力なので、私(一観客)は自分を役に投影するということが少ない。その気持ちわかるわーとか、そうなったらそうするよね、みたいなことは思うけど、飽くまでキャラクターは他人で私自身とは別モノ。私の眼前の舞台と客席にはハッキリとした境目がある。

その中でも今作の助手くんという役は、少し異質だ。私が観たモノムジカ作品で、かつてないほど観客の視点に近いキャラクターになってきていると感じるから。これもまたシリーズものの醍醐味なのかもしれない。第一作「助手役」と今作「助手」でここまで変化するとは。私が観ながらリアルタイムで感じた驚きや疑問が、助手くんを通して舞台上に表れ、他のキャラクターに響いていく。世界は繋がっているのだ。そんな喜びと共にますます物語に引き込まれていった。舞台という異世界と観客を結ぶ助手くん、なんてわくわくする存在なんだろう!

ここにしかいない匠(偽)

初見の時、正直、これはずるくないか、と思ってしまった。女性キャストの男役が男性か女性かわからない男性キャラクターを演じる。なにがなんだかわからないね…今も書きながら混乱したよね…。でも同時に納得もした。これまで男役も女役も演じきってきたMIKUさんだからこその説得力だった。

作中で匠さんは自分が泥棒だったことも明かすし、十和子さんとの出会いや事件を起こした目的、彼女への想いも素直に言葉にしているはず。それなのに最後までどこか掴めないのは何故だろう。
名前というものが人を表すのに、如何に大事か。ぼんやりとした輪郭のまま、眼差しの優しさだけを残して去っていく。けれどもどんな名前でもいい、外側なんてなんでもいい、いつかまた匠さんの心からの笑顔に会いたいなと思わされてしまった。はぁ(感嘆)

解けない謎

アンドリューさんには探偵としてのマイルールがある。今作の依頼のおかげでそれを曲げることになった後、彼は最後にこう告げる。

「謎は謎のままに」

謎を解き明かすことが生きがいのはずの探偵が、謎を謎のままにする。謎を持つ者こそが謎を知るのだろうか。あー謎がゲシュタルト崩壊しそうー。

可愛くてカッコよくて、でも本当の姿は教えてくれない。つれない。それでもアンドリューさんに惹かれてしまう。アンドリューさんの好きなものをもっと知りたいし(ドーナッツやクッキー以外もね)、何を怖れて、何を求めるのか。いつかわかる日が来るのかしらん。来ない気もするなぁ、そもそも創り上げるご本人方が何かとミステリアスなヤマケイさんと杏さんなのだし。するりするりとはぐらかされて、またその追いかけっこも楽しいのだけれど!

黄昏、たそがれ、誰そ彼。

ひとつ思うのは、「アンドリュー」という人物を解き明かしていくことが、この名探偵アンドリューシリーズを追っていく私達観客の謎解きの一番の面白さなのかもしれないということ。第三作が待ち遠しい。

今、思うこと

上演はウイルスが忍び寄る中。出演者4名以外はスタッフも客も全員マスク着用。換気等も徹底されていた。当然、お見送りも無し。それでもとても楽しかった。心から、観られて良かった、と思った。上演してくださって、ありがとうございました。次の5月公演は延期。でもきっとまた会えると信じて待ってます。

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