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2022年 上半期 新作映画ベスト10

こんにちは。
2022年も半年が経ち、社会情勢でも仕事でも激動しまくったと言える。
そんな中で変わらずに映画を観ていたのだが、今年は映画館だけでなくJAIHO/Amazon Prime Videoを中心に新作/旧作を鑑賞した。
その年の旬な新作だけでなくリバイバル上映や幾つかの映画祭に参加することが出来て、素晴らしい映画にも触れる事が出来た。

beatmaniaIIDXの息抜きに観ている映画たちも上半期だけでも結構充実したと思うので、上半期で観た映画の良かった順番にまとめてみる。
作品の中身についてはあまり触れずにサクッと紹介するので、気になった作品があれば是非鑑賞してみてください。


0.  MEMORIA メモリア(アピチャッポン・ウィーラセタクン)

「音」と「傾聴」に纏わる進化の映画。
映画は日常とは離れた超常現象にひれ伏す・靡いて思考をアップデートする神秘的な時間だと考えている。そんな自分にとって「MEMORIA メモリア」は東京国際映画祭でのファーストインプレッション、2度目3度目の鑑賞〜スペースでの深堀りを通じて特別な映画になりました。


様々な場所、学問に触れて正体不明の病の正体を探索するティルダ・スウィントンの姿は絵作りから余白、「音」の緩急・発散⇔収束まで魅力的なものばかりでした。
予測できない展開・映画の宣言する構造の妙・「音と言語の境界線」を通じて「他者の痛みに寄り添う優しさ」に気づく瞬間に美しさがありました。

見れば見るほど本作の面白さが湧き出すこと、この映画を通じたSNSでのやり取りの奥深さを通じて特別な想いを抱いた意味で0位(特別枠)に。

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1.  春原さんのうた(杉田協士)

コロナ渦の中で愛する人の喪失感に向き合う女性のお話。
上半期の素晴らしい映画たちは空間やそこに配置された虚像と実像に強い主題が存在して、それが魅力に直結している。

春原さんのうたもその例に漏れない映画でありながらも、透き通った「透明」な映画に涙が止まらなかった。

静かに平和が浸透していき、ゆったりした時間軸の中で見守る優しさが醸成される人生ベスト級の映画。

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2. 麻希のいる世界(塩田明彦)

ポスターから想像し得ない「青春音楽映画」の型枠を超えたマジカルな映画。
青春音楽バンドの甘酸っぱい感じもあるけど、大人っぽいほろ苦さもある。
作中に登場する海辺の小屋をとっても2人きりで一緒にいるとドキドキするけど、何が起きているか分からないエロもあれば、親への反発の籠城にもなる。
同じ空間でもタイミング・登場人物によって意味合いがガラっと変わる変幻自在ぶりに圧倒されてしまった一作。

まるでアイドルのような憧れと推しの猛烈なアタックの関係を再現したような、本音で語る事の当事者は至福だけど外野が見ると危なっかしいコミュニケーションの本質を鋭く描く。

3. アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ(ラドゥ・ジュデ)

インターネットにアップされてしまったセックスビデオを通じて危機的状況に陥り異端審問にかけられた女性教師のお話。
ジュデ過去作でも描かれたレイシズム/歴史修正主義の都合の良さが拡大されていって「エロ」の取扱がいかに自己中心的であるかを痛烈に皮肉ったパワフルな風刺喜劇。

「エロ」を皮切りに行為の善悪に明確な二元論は存在せず、当事者の立場によって境目がグラデーションのように変わる。
殺人シーンはOKなのにフェ○チオシーンは映しちゃ駄目なのおかしいだろ!から始まり、コロナ渦でのブカレストの閉鎖的なやり取り・レイシズム・歴史修正主義とバラバラな要素が「エロ」と地続きになる構造が天才だと思った。

例えるならばTwitterのネット弁慶。
アンラッキー・セックスはネット上で人格が大いに変わるさまをコロナ渦でのマスクで見事に表現し、高尚な議論に対して複数のEDを用意して痛烈に〆るという爽快感ある唯一無二の映画でした。

7月下旬にJAIHOで配信されるので気になる人は観てみよう。



4. トップガン マーヴェリック(ジョセフ・コシンスキー)

マッドマックス 怒りのデスロード、クリードに並ぶ最高の続編が来た。
10Gにまで加速できる事を証明するマーヴェリックの姿に初っ端から泣いてしまい、その後も3,4回は涙が止まらなかった。

トップガンのカッコよさ、マッドマックスの爽快感、セッションの勝負に対する姿勢、ジョジョ4部ラスボス戦のバトンタッチを足し合わせた本作はライド感・行動で意志を受け継ぐ最高のアクション映画でした。

5. わたしは最悪。(ヨアキム・トリアー)

成績優秀で医学部に入るも、様々なモノに興味を抱いて触ってみるも「これじゃない!」と決めれない女性の人生を追った話。

「自分は何でも出来る無敵である」青臭さと「この人といたら人生が変わるかも」という他責思考の中で一見すると順風満帆な生活を送っている。
けれども無限の選択肢から選ぶモラトリアムの先に存在する「結婚」「育児」「世間体」に対して「まだタイミングじゃあない」と回避した先にある「自分探しするつもりが気づいたら自分の想いが分からなくなる」絶望感は東京フィルメックスで観たカミラ・アンディニ「ユニ」を思わせる。

その絶望感、霧がかった意思を明らかにする死生観の存在はグロテスクで直視できない。
夢から目覚めて現実に徐々に向き合う胃もたれのようなしんどさがキツく、日本版にグローバル化されたら死人が出るレベル。


6. BEGINNING ビギニング(デア・クルムベガスヴィリ)

ジョージア映画界にシャンタル・アケルマン現る。

窮屈で暗いカメラワーク・長回しで第3者には認識出来ないブラックボックス化された思想の成長を淡々と描く。
その中でアブラハムが息子イサクを殺す「イサクの燔祭」を現出し、「従順であること」を宗教・家父長制・男尊女卑に拡大して、でも彼女の選択した自己犠牲の根幹には心の痛み・「誰にも助けを求められないから」孤独に治癒する苦悩がエグすぎる。

家父長制や少数派故に周りの人間から腫れ物扱いされて傷ついた女性が心を癒やすのに時間が必要であると言わんばかりに森の中で寝るシーンが印象的。

物事は粛々と進み何かが始まって、何かが終わる。そこに恐怖と不安を覚えさせる衝撃的なデビュー作に度肝を抜かれた。

7. ニトラム/NITRAM(ジャスティン・カーゼル)

1996年にタスマニア島、ポート・アーサーで実際に起きた無差別銃乱射事件を基に犯人の環境や心情変化を描いた話。
知的障害・自閉スペクトラム症を患った青年マーティンの生きづらさ・殺人に至るプロセスが考えさせられる。

彼の殺人動機には外部の刺激を通じた「明確に言語化できない怒り・悲しみ」が根付き、そこには「福祉・教育な支援の問題」、「サーファーへの憧れ・マッチョイズム」、「愛する人の喪失の埋め合わせ」などの手遅れの悲しみがタコ足配線のように絡む。
「思い通りにならなかった悲しさ」が徐々に積み重なって上手く表現できずに支援も受けられない。
むしろその姿に馬鹿にされる「社会の冷酷さ」が「言葉にできない爆発」として心の中で寄生虫のように成長するのが息苦しい一作。

愛した人を象徴する物が徐々に朽ち果てたり暴力を象徴する物に取って代わる姿に残酷さがある。

8. マイスモールランド(川和田恵真)

大学進学を目指すクルド人少女が国家を持たないが故に突然生きづらくなる話。

今まで成立していた日常生活が法律という見えない壁によって断絶される「理不尽」に立ち向かう姿に魅力が詰まっていました。

印象的なシーンに国家を持たない代わりに心の中に国が存在すると力説するシーンがある。
映画を通じて「尊厳」と「日本の制度・世俗」との戦いを"受難"という形で捉えていき、"矛盾"を顕にするだけではない"尊厳の継承"に昇華させたところが素敵でした。
この"力強さ"と転んでも立ち上がろうとする姿瞬間瞬間に美しさがある。

9. パリ13区(ジャック・オディアール)

デジタルによって人と人との繋がりもセックスも容易になったが、他者の価値観を理解するのは容易ではないぞという作品。

本作は映画自体のタッチもスタイリッシュでカッコいい一方で、立場やセックス・恋愛の考え方が相反する者同士の力学とデジタル上でやり取りしているカムガール(ウェブカメラを使ったセックスワーカー)登場で展開が一気に変わる駆け引きが面白い。

10. メタモルフォーゼの縁側(狩山俊輔)

世代を超えた"推し"の話。
自分が今まで隠してきた"聖域"に親・同級生が土足で踏み込む事への嫌悪感、コンテンツを消費して推してきた自分が"創作"に足を踏み込む1歩の凄まじい重さ、勇気を振り絞って創作に挑むも周りのレベルの高さに恥ずかしさ・劣等感を覚えて逃げ出しそうになる気持ち
…この辺の距離感、説得力を演じきったのが兎に角素晴らしい。

■今後のイベント

下半期も東京国際映画祭・東京フィルメックスのBIGイベントの前にマシュー・バーニー特集上映、ロミー・シュナイダー映画祭と気になるイベントもあるので、そちらに参加出来ればと思う。

愛知県民からすると東京でイベントばかりあるのは羨ましいな〜と思う一方で観光がてら行けるから、そういった意味で目的を幾つも作れてありがたいかも。


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