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良い歌詞とは?

Le:verbボーカル、黒うさぎです。
前回の記事、なかなかのボリュームだったのにたくさんの方に読んでいただき、反応を頂けて嬉しかったのです。その記事の中で、「良い歌詞」とは「自分でも忘れていたような、うまく言葉にできないような、そんな感情や記憶を呼び起こさせてくれる歌詞」ではないかと書きました。
書いているうちに、あ、私この歌詞好きだったなーと思い出すことがあったので今日はそれを書いてみたいと思います。

私が歌詞を意識し始めたのは幼少期、学校から帰ってはアニメを片っ端から見まくっていた頃でした。その頃のアニメソングは、タイアップというよりも「そのアニメのためだけに書き下ろされた曲」が多く、登場人物に似合ったものやアニメタイトルがそのままサビに流れてくるものが多かった気がします(年齢がバレるけどいいのです公言しているので。最近アラフォーになりました!)。
その中でも特に大好きなものをいくつか紹介していこうと思います(歌詞引用に関しては文化庁の引用条件を満たすよう最大限留意しています)。


世界中ウワサになりたい 輝く未来も手に入れたい
あれもこれも本気の野望(ゆめ) 誰ひとり邪魔はさせない

「邪魔はさせない」/奥井雅美

「世界中ウワサになりたい」っていうのが当時の私にはとっても衝撃的だったことを覚えています。小学生のウワサって大体ろくなものじゃなかったし、ウワサになる=恥ずかしいという固定観念があったため、「ウワサになりたい!」って言ってのける歌詞、そしてその歌詞を反映するかのように強くてかっこよくてお茶目な主人公にとってもとっても憧れたのでした。
有名になりたい!とか人気者になりたい!じゃなくて、「ウワサになりたい」っていうのが絶妙だなと今でも思います。
表立ってチヤホヤされるよりも、ひっそりウワサで良い評判が回る方がより愛されている気がしますよね。
この曲は奥井雅美さん歌詞、矢吹敏郎さん編曲と神がかっているのですが、作曲者の話までしだしたらキリがないのでまた今度……(ちなみに私の最推しアニソン「輪舞-revolution」もこのお二人。「潔く カッコ良く 生きて行こう」は最早私の人生の指針です)。


なりたかった自分となれる自分はいつも違っている
なれなかった自分じゃなくて それこそ私だって

「風が吹く日」/坂本真綾

天空のエスカフローネのイメージソングとして作られた曲ですが、正直、当時はそこまで思い入れがありませんでした。
この歌詞が心に刺さるようになったのは大人になって歌を始めてから。菅野よう子さん作曲の曲をセッションする会に参加させてもらってこの曲を久しぶりに聴き、思わず涙が流れたのでした。
セッション直前だというのに私は喉を壊し満足に練習もできない日々。理想と現実とのあまりの乖離に情けないやら悔しいやらで、自分の状況を歌詞に重ね合わせていました。この曲はサビで「どうしたら自分のことを大好きになれるんだろう」と歌ってくれるのですが、まさにその時の私が感じていたこと。「私の気持ちをよくぞ代弁してくれました!」という気持ちでいっぱいになったのです(私のためじゃないのはよくわかってるけどね!)。
「なりたかった」「なれなかった」自分じゃなくて、今ここで必死にもがいているちっぽけな自分をありのまま愛してあげようという優しさ。うう、今聴いても泣ける……。
私の一番敬愛する作詞家、岩里祐穂さんの詞です(「プラチナ」とか有名ですね!)。
イメージトレーニングだけはバッチリだったおかげか、当日奇跡的に声が出てセッションを終えることができたのも良い思い出。そしてそこでミュージシャンの方から声を掛けてもらえたのもとっても良い思い出です。


ああ 恋をしたら世界中が煌めくはずだった
ああ さよならより遠い場所があると知らなかった

「みずうみ」/坂本真綾

先ほどの曲は坂本真綾さん「歌唱」でしたが、こちらは真綾さんが作詞もされています。真綾さんの歌詞はどれも人柄が滲み出ていて、もう選べないぐらい大好きです(「誓い」「プラリネ」「スピカ」「さなぎ」「光あれ」……ああ選べない選べない)。
歌手としても唯一無二の存在だと思いますが、作詞家としても素晴らしい才能をお持ちの真綾さん。彼女の歌詞は、「普段私たちがなんとなく感じているけれど、どうやって形にしたらいいかわからず宙をさまよう言葉」を在るべき場所に、決しておしつけがましくなく、そっと直しておいてくれるようなものだと思っています。そうしておさめられた言葉は居心地が良くて、以前からずっとずっと自分の中に在ったかのように感じさせてくれる。
この「みずうみ」の歌詞は、たった二行だけで主人公の恋する気持ち、そして報われないかもしれない切ない気持ちがひしひしと伝わりますよね。
恋をしているのに「さよならより遠い場所」を知っちゃうのかぁ……。片思いの経験がある人は「その気持ち…分かる!」と共感できるかもしれません。


モノクロ映画を 闇の中から見つめるような
淡いだけの 眩しさを抜けて

「カンタンカタン」/Kalafina

Kalafinaの、というより梶浦由記さんの歌詞はどれもストーリー性があって心に残るものが多いのですが(「into the world」とか「光の旋律」とか)、あえてここはいつも触れていない曲にしようと思って「カンタンカタン」を選びました。虚ろなココロの主人公がカタンカタンと揺られる汽車に乗って、あてもなくただ遠いだけの場所へ行こうとする曲なのですが、情景描写や色彩感覚がそれはそれはもう見事に描き出されているなと思うのです。
機会があれば、ぜひ皆さん全文をご覧ください。
この「モノクロ映画を闇の中から見つめるような」というところだけでも、広い映画館に一人ぽつんと座って、映画の光を浴びている淋しげな主人公の心象風景が浮かぶようですね。
色の無い、空っぽなココロの主人公はやがて「名前のない蒼い街へ」と運ばれて行きます。そして曲の最後では「雲が消えたら空はただ青くて とても奇麗な一日だったね」と締めくくられるのです。
汽車の中から空へと視線誘導をしつつ、このモノクロと青の対比で主人公のココロの変化を描き出す……!天才か…(天才です)。
もちろん曲自体も素晴らしいので全人類聴いてください。


ファイト!闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう

「ファイト!」/中島みゆき

さて、ここからはアニメソングを離れてJPOPで好きな歌詞を。
中島みゆきさんの歌詞の中では結婚式定番の「糸」が有名かなと思うのですが(もちろん「糸」も好きなのですが)、私はこの「ファイト!」に勇気をもらいます。
応援歌は星の数ほどあれど、中島みゆきさんの「ファイト!」には泥臭さを肯定してくれるような、きれいな闘いじゃなくても闘いを挑む気持ち一つあれば良いんだよと背中を押してくれるような強さを感じるのです。
あと、ご本人の歌唱が良い意味で狂気じみていて中島みゆきさんにしか伝えられないものを感じるので是非皆さん何らかの手段でご本人の唄をお聴きください…!
「闘わない奴等が笑うだろう」がぐっときますよね。頑張っている人を、何も頑張っていない人が批判したり誹謗中傷したり。SNS社会の今、特にそんな場面を目にすることも多い気がします。有名人への誹謗中傷なんかもその例の一つなのかも。
「闘う」人と「闘わない」人、どちらの生き方が良いのか問いかけてくれる歌詞だなぁと思います。


半分に割った赤いリンゴの イビツな方をぼくがもらうよ
二人はそれでたいがいうまくいく

「アシンメトリー」/スガシカオ

こちらは大好きなスガシカオさんの曲より。初めてこの歌詞を聴いた時、「わ、わかる~!」と唸ってしまいました。
本当に本当に小さなことかもしれないけれど、そういう些細な優しさの積み重ねが愛には大切だったりするのかなと思うのです。同じ料理でも上手に盛り付けられた方を相手の前に置いたり、ね。
同じ曲で「月のない夜を選んで そっと秘密の話をしよう」というのもテクニカルで良いですね。
昔から、月とは形が移り変わってゆくものだから「不変でない」「不実の証」とされているのだそうです。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にもそのような記載があるので多分そこそこ有名…なはず。
わざわざ「月のない夜を選んで」話をするのはなぜか?こういう小話を知っているとちょっと楽しくなりますよね。


さて、まだまだまだまだ語りたい歌詞はたくさんあるのですが、ネタが尽きないので今回はこの辺で。私も、誰かの心に寄り添う歌詞を書ける人間になりたいと、ずっと思っています。
Le:verbのcomposer知さんもとても良い歌詞を書かれるので、いつか歌詞を書く秘訣みたいなものを聞いてみたいですね(私が特に好きなのは「恋に落ちた時より速い速度で君を 忘れていく音がしてる」「トラウマになりたい」)。

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