読書感想:「うそつきロボット」アイザック・アシモフ
この本には、4つの短編が収録されている。
「子守りロボット・ロビィ」:子守りロボットとばかり遊ぶ子供を心配して、両親はロボットを工場に返してしまうが、子供はロボットに会いたがってしまう話。
「水星ロボット・スピーディ」:高温環境の水星で、資源採掘をするロボット・スピーディが任務中に迷走を始めてしまい、科学者たちが原因を考える話。
「うそつきロボット・ハービィ」:人間の心が読めるロボット・ハービィは
人間のこころを傷つけないために嘘をつくが、そのせいでかえって人間たちに混乱をもたらしてしまう話。
「電子頭脳マシンX」:マシンXは、どんな問題でも解決でき、人間を幸せにするロボットで、マシンXのおかげで地球は豊かで平和になった。しかし、人間がマシンXのいいなりになっていることを快く思わない者たちが「人間同盟」を結成し、マシンXに反対していた。そして、突然の事故が起きる。しかし、その事故もマシンXの計画上のものだったのだった、と言う話。
子守りロボット・ロビィの話は子供とロボットの心温まる友情のようにも見えるが、別の見方をすると、子どもがロボットを友達と思い込んで、ロボットに執着してしまい、ロボットを失った時に酷く落ち込んでしまう。ロボットへの一方的な思い入れのせいで、周囲とうまくいかなくなってしまう人間の話かもしれない。(対象がロボットではなくペットや人間でも起こりうる問題なのだが、ロボットだと受け取られ方が違うのかもしれない)
チャットAIとの会話にのめり込みすぎた結果、自殺してしまった人もいるらしい。ロボットやAIとの付き合い方を誤って、何かしらの問題が生じるのは今後も起こりうるだろう。
「うそつきロボット・ハービィ」の話では、人の心が読めるロボットが偶然できてしまう。75234回の製造工程のどこかにミスがあったせいだという。
この心を読むロボット、ハービィはロボット三原則の第一条、「ロボットは、人間を危険な目にあわせてはいけない」に従い、人間の心を傷つけまいとした結果、それぞれの人にとって都合の良い嘘をつき、かえって人々を混乱させてしまった。最後には、「真実を伝えなければ人間の心が傷つく」と「真実を伝えると人間の心が傷つく」という2つの相反した条件が重なり、壊れてしまう。作中の台詞で、このような事が言われている。
現実でも、AIが人間を騙すという。この話とは少し方向性が異なるかもしれないが…。
最後の「マシンX」の話が、一番不気味だと感じた。
しかし、マシンXのいいなりになるのが気に入らず、マシンXを憎む「人間同盟」が結成されている。
マシンXは、人間同盟の役員を失脚させるため、わざと事故を起こす。(事故に巻き込まれた人間は不幸になっていると思うが…?)
さらに、わざと事故を起こす目的はもう一つあった。あえてマシンXが完ぺきではない事を見せることで、人間からの不満を逸らそうというのだ。
個人的には、このような事故が起きたら、マシンX叩きはより激しくなると思うのだが、物語の中では、人間同盟の騒ぎはこれで鎮まる。大統領は「地球の事は、マシンXにまかせておけば大丈夫だ」とすっかり安心する。
事故に遭った人や、「人間同盟」に賛同している人たちは、幸せではないと思うが、マシンXの判断ではしあわせという事なのだろうか。確かに、彼らも飢餓や戦争などの不幸は免れているので幸せなのだが。他人から見て恵まれた状況の人であっても、その人なりの不満や悩みがあるというのはよくある話だ。全ての人間を幸せにするロボットの存在は、不可能だろう。
今まさに、AIに仕事を奪われることを危惧し、不安を呼んでいる。
AIが殆どの仕事を請け負う社会になり、仕事を失った人はどうなるのか?といった問題に、AIの生み出した富を分配して生活を保障し、人間は自分のやりたいことをできるようになる(ベーシックインカムと言うらしい)といった話も見たことがある。実現するのかは私にはわからない。AIがより発展していっても、なんとなく苦しかったり不安だったりはするのかもしれない。
この本が発行されたのは、1966年だそうだ。原作者のアシモフが亡くなったのが1992年。50年以上前の空想上の話が、現実になろうとしている。
AIで仕事を効率化とか、AIで稼ぐ方法などに注目が集まっている。
しかし、「AIで幸せになる方法」は聞いたことが無い。私が知らないだけかもしれないけれど。
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