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好きだった書くことがしんどくなってまた書く楽しさに戻ってきた話

ピコン……

iPhoneのアプリの通知音に、止まっていた時間が動き出す。長男が小学校の校門を出たお知らせだ。
もうこんな時間か……今日中に原稿を仕上げたかったのに。
「ただいま!」
長男の声が玄関から聞こえてきたと同時に、焦る気持ちを抑えて作業途中のパソコンをスリープにして閉じた。

私は平日週3〜4日、病院勤務の看護師をしている。ライターの仕事は病院勤務のない平日1〜2日の子どもが学校から帰るまでの時間か、子どもが就寝後に進める。時計の針に追われながらの作業だ。
病院勤務と子育てに影響がないようにライター活動をすると、実績がなかなか伴わないことに悩んでいた。しかし「書くことが上達の近道」そう言い聞かせて、限られた時間で書き進めるしかなかった。

パート看護師への危機感

なぜ現役で病院勤めする私が副業ライターをはじめたのか。
看護の現場での経験年数が積み重なることは誇りでもあり、危機感を感じていたからだ。

私は、次男を出産後に、一度退職していた職場へ約10年ぶりに戻ることになった。
10年ぶりの職場は新病院に建て替わり、立派な佇まいとなっていた。しかし現場は、10年前と変わりない景色だった。
看護師は忙しさで残業も多く、委員会や事務作業など多重に仕事を抱えていた。

フルタイムの働き方は理想的ではなく、家族のサポートも得られにくい私はパート職員を選んだ。
その姿は自由気ままな生活に見えたようで、ある日同じ部署で働くフルタイムママ看護師に
「りりこさんって平日の休みの日に何してるの?」と聞かれた。
「子どもの習い事の送迎とかかな……」
私は苦笑いしながら、申し訳なさそうに答えていた。
なぜ、申し訳ない気持ちなのだろう。パートを選んだことは、私の自由なのに。

自分自身でも周りと比べて「頑張っていない罪悪感」を感じていたのだ。
パート看護師として働き続けて私に何が残るんだろう。
悶々とした気持ちは膨らんでいった。

雇われない仕事を探して

その日の夜、布団の上で長男と次男と川の字になって寝かしつけの時間。左手で次男のお腹をトントンしながら
右手に持つスマホで「看護師 フリーランス」と、検索した。
患者さんと個人契約する看護師や、訪問看護を立ち上げ起業する看護師……
「個人契約とか起業ってハードルが高いな」
そう思っていると「看護師ライター」のキーワードに、スクロールする指が止まった。
片手でのスマホ操作がきつくなってきた頃、隣を見ると次男は鼻をピーピー言わせながら寝入っていた。手を止めて、そっと布団から出てスマホを見直す。

「ライターって書くこと? 看護師がライターってどんな仕事?」

喋ることが苦手な私にとって、書いて伝えることは日常だった。世界一周していた当時の旅ブログもランキング上位に入り、看護サマリーという患者さんが転院する際に必要となる経過や状態を要約した手紙も何度かほめられたことがあった。

「これなら私にもできるかもしれない」
一筋の光がさした気がした。

書くことが仕事の現実

ライター講座を受け、仕事を受注できるまで成長できた。しかし、好きに書くことと、お金をもらって書くとなると事情は違うのだ。
徹底したリサーチと相手に届く言葉で計算し尽くした文章に、SEOという大敵があらわれる。書く仕事は簡単ではない。

だけど、わかっていたことでもあった。
看護師の仕事だって、見えないところの業務が山ほどある。
どんな仕事にだって、影の苦労は付きものだ。
時間単価にすると、看護師の時給の1/5ほどだった。
「書く仕事」のスタートラインに立ったばかりなのに、早くも「書くのがしんどい」におちいった。

ストーリーテリングとの出会い

「ストカレ卒業しました」X(旧Twitter)上で、ストカレ1期受講生の人たちのポストが目に入ってきた。脚本家の永妻先生が開催するストーリーとライティングの講座。
永妻先生のストーリの講座はずっと気になっていたが、センスの光る人たちが学ぶもので自分には無縁だと通り過ぎていた。

しかしあるとき、福祉系のとある協会から広報のお手伝いのオファーをもらっていたのに、自信のなさから断ってしまったのだ。
ライター仲間からは「ビビりすぎ!」と叱られるかもしれない。だけど、体当たりで仕事をこなすほど時間と体力は余っていないのだ。
自信を持ってオファーを受けられるようになりたかった。そして、ストカレでノウハウコレクターは卒業しよう。そう決めて、ストカレの門を叩いていた。

永妻メソッドがふんだんに詰まった講義は、想像以上のものだった。
心を動かす文章は、その内容によって心が動くのだと思っていた。しかし、実はテクニックだったのだ。
「文章で伝える」の先には、相手に感情を動かしてもらいたい。ただの情報伝達だけの文章は心に響かない。
『北風と太陽』の太陽になった気分だった。心をどんなに力ずくで動かそうと思っても動かない。だけど、ストーリーの力を借りると読み手はひとりでに動いてくれるのだ。

とはいえ、技術を学ぶたびに肩に力が入る私。
柔軟に取り入れてストーリーを披露している同期と比べて、自分のガチガチの文章に頭を抱えた。

そんなときに、永妻先生の言葉が心に突き刺さった。
「自分の感性を大事にしてくださいね」
ストーリーでは自分の感性を込めて書いていいんだ! 
いつも正解の文章を求めて書いていた私にとって、自分らしさは消すものだと思っていた。
永妻先生の言葉で、ガチガチの頭がほぐれていった。

ストカレ卒業

「ただいまー!」
小学校から帰ってきた息子が、冷たい手を私の首に押し付けながらパソコンを覗き込んだ。
「お母さん、何書いてるの?」
「物語を書いてるんだよ」
「そうなん? すごい!」
小学2年生の息子は、私のことを尊敬の眼差しで見ていた。

2024年1月、ストカレを卒業した。
今はKindleプロデュース&執筆代行デビューし、ストカレの学びを盛り込んだ書籍を執筆中だ。漠然と書く仕事をしていた私だったが、ライターとしてのビジョンが定まってきた。

本が大好きな息子たちにも、いつかストカレで学んだことを伝えてあげよう。きっと、ストーリーに隠された技術を知ると驚くだろう。

ストカレ講師の永妻先生のX(旧Twitter)
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