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【特別インタビュー】筑波大学千島雄太先生に聞く/研究から見えた、未来の自分への手紙の効果

 「未来の自分を想像して手紙を書くことの効果」を検証し、その成果が2021年2月、国際学術誌「Applied Psychology: Health and Well-Being」にも掲載された、筑波大学人間系助教、千島雄太先生に「未来の自分への手紙の効果」についてお話をお伺いしました。

インタビューで訪問した筑波大学キャンパス


■千島先生の研究内容について教えて下さい

 教育心理学が専門で、自己形成、アイデンティティ形成の研究をしてきました。特に、時間的な展望、未来の自分や過去の自分を人がどうとらえるかに興味があり、博士論文では、自分自身がどう変わっていくか、変わりたいと思った時にどうするか、について研究しました。

 この研究を始めたきっかけは、自己嫌悪感について研究している研究室の先生の指導から、自分をどう好きになっていけるのかの探求を始めたことでした。そこで「変わりたいと思うことが大事」だということがわかり、さらに「どこ」を「どういう風に変えたいか」という2つの視点で、「どういう風に変えたい=なりたい」という部分がないと自己嫌悪感で留まってしまうことがわかりました。つまり変わりたいという時に、今の自分にフォーカスするのか、変わった先の自分にフォーカスするかで効果が違うということです。例えば、人見知りをどうにかしたいという人が、人見知りの部分をどうにかしたいと思うだけでなく、社交的な自分を具体的にイメージできると、そのイメージに向けた行動が出来るという感じです。

 ここでは、「今の自分」と「変わった先の自分=未来の自分」の2つの視点を分けて考えられた点が、大きな研究の成果だったと考えています。そこから、未来の自分をどう可視化するか(ビジュアライズ)どう今の行動が未来に繋がっていると感じるか(自己連続性)を研究し始めました。


■未来の自分をどう可視化するか(ビジュアライズ)の視点で、これまでにどんな方法を研究してきましたか?

 自分自身に手紙を書くことで未来を可視化してみたり、最近は、SNSで未来の自分のアカウントを作ってそれになりきってみる方法を試してみたりしました。さらに、頭の中の想像だけでなく、バーチャルリアリティーのなかで未来の自分をアバターにして登場させ、未来の自分と話すという方法も試してみたりと、いろいろ工夫をしてきました。

 ここで注意すべき点として、未来を想像するときに、非現実的な突拍子もない未来を想像することは逆効果だということが、先行研究から明らかにされています。現実とのつながりが薄ければ、実際の行動や目標追求に影響しません。つまり未来を思い描く時、今の自分と未来の自分が繋がっていると思えないと、行動に変化が起こりにくいんです。そのため、「自己連続性」を感じられるかどうかも、研究を進める中でとても大事にしています。

■「自己連続性」については、これまで何が一番効果が出ていますか?

 未来の自分の可視化という点では、バーチャルリアリティーが効果的です。例えば大学生に、就職して働いている自分の姿をアバターとして登場させると、働いている自分の姿を鮮明に思い描くことができます。でもだからといって、その姿に未来の自分との繋がりを感じられるかどうかは別問題で、ただの3Dコンテンツで自分とは違う誰かだと思ってしまうと連続性が消えてしまいます。

 自己連続性という意味で、今のところ一番成功しているのは、「手紙」を用いた介入方法です。「高校における未来の自己連続性の向上を目的とした教育的介入の効果検証※1」では、高校1、2年生に3年後の自分へ向けて手紙を書いてもらいました。ここから分かったことは、3年後の自分に手紙を書くだけでは、一方的な質問を書いて終わってしまうけれど、それを受け取ることをイメージし、未来の視点から今の自分に返信を行うことで自己連続性が高まるということです。
 
 また、自己連続性が高まることは、進路意識や学業行動と正の有意な相関を示しました。キャリア教育として「自己連続性」をターゲットにすることの大切さも見えた研究となりました。

※1:高校における未来の自己連続性の向上を目的とした 教育的介入の効果検証
Conversation with a future self: A letter-exchange exercise enhances student self-continuity, career planning, and academic thinking

http://dx.doi.org/10.1080/15298868.2020.1754283


■手紙を書く未来は、どれくらいに設定するのがいいでしょうか?

 高校生向けに行った研究の場合は、キャリア形成の一貫としての取組みでもあったため、卒業後、3年後の自分に手紙を書く形をとりました。自分へ手紙を書く際に設定する未来の期間としては、

・環境の変化があるタイミング(卒業、転職などの転機)
・連続性を感じられるくらいの距離感

このあたりがポイントになってくると思います。自己連続性の先行研究では、20年後の未来に設定しているものや、貯金や健康がテーマであれば老後に目を向けることもあります。ただキャリアという視点になると、数年の単位がいいのではないかと思っています。何か短期的な目標がある人は、1カ月とか数か月単位で未来を設定しても良いと思います。あと、未来に向けて書いた手紙を実際に受け取りたい場合は、未来が遠すぎると届かなくなる確率も上がりますよね。

■「LetterMe」についてどう感じますか?

 LetterMeは、1カ月後に手紙を書き、それを1カ月後に受け取るまでがセットになっているので、続けやすいですよね。このようなワークは「続ける」ことが大切なのですが、LetterMeには続けられる仕組みが自然と組み込まれていると感じています。1回1回は1カ月の単位かもしれないけれど、続けることで自分の軌跡になり、年単位の変化も細かく見えてくる、その点がいいですね。

 「自己連続性」という視点でいくと、LetterMeの場合、未来の自分との連続性も、過去の自分との連続性もどちらも含まれています。サービスの体感としては、特に手紙を受け取った時に、過去の自分とのつながりを強く感じられる気がします。過去の自分はこうして自分のことを気にしてくれたんだ、と過去からのつながりを実感し、自分が応援されているような気持ちになります。そして、過去の自分に向けた感謝の言葉がでてくる。そこがとても大事です。LetterMeではそれが自然と体感できると思います。


■「LetterMe」にどんな効果が期待できそうでしょうか?

 一番の効果は、過去、今、未来の自分とつながりを持てることで、人生全体の繋がりも実感できてくることにあると思います。自分の人生はこうやってできてきたし、これからはきっとこうなっていく、未来のことはわからないけれど、きっと今の自分だったら良い未来を作れるだろう、というより広く俯瞰した目で自分の人生を捉えることができます。さらには、人生の意味や目的も実感しやすくなり、ウェルビーイングへ繋がると思います。

 また、メンタルヘルスの部分も効果が期待できると思います。コロナ禍で行った研究(※2)からも、未来の自分への手紙はネガティブ感情を抑えるという結果が出ています。未来の自分へ手紙を書くことで、今辛いことがあったり、苦しんでいたとしても、1カ月後、1年後のあなたはきっと乗り越えているよねと、希望を託せるということが大事です。

 あとは、副次的な効果として孤独感が変化する可能性もあると感じています。手紙を通して、過去の自分から応援・サポートを受けている感覚を持てることで、自分なんだけれど、誰かに応援されているという感覚になり、寂しさとか1人ぼっちのような感覚も和らぐかもしれません。

※2:未来への手紙がネガティブ感情を軽減させることの効果を検証 ―パンデミック下における実験データから―

https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2021-03/210217_Chishima-bc14314a8f07b9cc6bb6fc52d7f08fc1.pdf

https://doi.org/10.1111/aphw.12256


■最後に「LetterMe」へエールをお願いします!

 LetterMeは、自分の人生の繋がりを実感できる、とても画期的なサービスだと思っています。だからサービスをどんどん拡大して、いろいろな人に届けていって欲しいです。僕も今後も役に立てればと思います!ありがとうございました。

※インタビュー終わりの記念撮影( 左:LetterMe代表 西村 右:筑波大学 千島先生)


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