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またも夏に失速・・・「楽パのベンチが暑い」は本当か

1. はじめに

 楽天イーグルスの失速が止まらない。GW頃まで11連勝を飾り、過去最高の開幕ダッシュに成功したものの、11連勝がストップした日以降の勝率が3割台となったり、貯金が18から0へ減少したりするなど、プロ野球史に残る衝撃的な失速を見せている。ただ、夏(正確にはGW以降)の失速は何も今年に限ったことではなく、イーグルスの毎年恒例行事である。この原因について、キャンプ段階での追い込み過ぎを挙げるインフルエンサーもいるが、ここでは別の原因を考えてみたい。
 7月11日、5ちゃんねるに『楽天「補強します。金払いいいです。天然芝です。ファンサ最高です。」←ここが優勝できない理由』というタイトルのスレッドが建っている。私は狗鷲タイムス経由でまとめページを見たのだが、この中の書き込み20が興味深い。

20 それでも動く名無し 2022/07/11(月) 13:15:25.67ID:U/4mlrvY0
浅村さんが言ってたけど
夏場が地獄らしい。
サイタマよりキツイんか…

上記書き込みのソースが不明であることは重々承知の上で述べるが、毎年夏場に強い西武ライオンズから移籍してきた浅村は、暑さへの耐性がある程度あるはずだ。それにもかかわらず、夏場が地獄とはどういうことなのか。上記ページをまとめた狗鷲タイムスのコメント欄に、そのヒントがあった。

8. 名無しの狗鷲 2022年07月12日 05:46 ID:YrTbxHE60
浅村選手の話しからイーグルス側のベンチ日差しと暑さでヤバそう.…ここに毎年夏場失速する原因の一つがあるんじゃ?
空調はあるんだろうけど改修してクーラーや日除け付けたいね

 浅村の言う通り暑いだけなら、両チームとも条件は同じである。しかし、上記コメント8の考察通り、楽天生命パークにおいてイーグルス側のベンチのみに日差しが降り注ぎ続けるならば、選手はインターバル中に十分な休息が取れないまま試合を戦っていることになる。選手や首脳陣が軽い熱中症で思考力が低下したままプレーをしたり采配を振るったりすれば、細かな判断ミスも多々出てきてしまうであろう。ナイトゲームの場合でも、昼間に直射日光が当たり続けた箇所には熱がこもるため、完全に熱気を放出するのは長時間を要する。また、そもそも練習は昼間から行っているわけだから、体力的に大きな影響があるはずだ。
 イーグルスの毎年の失速は、ベンチの暑さに原因の一旦があるのだろうか。そもそも、本当に楽パのベンチだけに日差しが降り注ぎ、暑い環境になってしまっているのだろうか。以下、NPB球団が本拠地とする屋外・半屋外の7球場(マツダ、甲子園、横浜、神宮、西武ドーム、ZOZOマリン、楽天生命パーク)について、ベンチの日差しの影響について調査した。

2. 調査方法

 調査対象の7球場について、ホームチーム側のベンチ方角を調査し、日差しの影響を考察することとする。ここでベンチ方角とは、ベンチ全体を上空から見たとき、ベンチ長軸方向の法線方向(ベンチの外側から内側に向かう方向)とする(図1)。屋外6球場については、Google Mapの上空写真(画面上方向=北方向)からホームベンチの方角を調査する。半屋外の西武ドームについては上空写真からの調査ができないが、全国プロ野球スタジアムガイド様が撮影された写真から、ベンチ方角の調査を行った。なお、調査対象とする7球場のうち、西武ドームと楽天生命パークは3塁側、その他の5球場については1塁側がホームベンチである。日差しの影響は、太陽光の方向とベンチ方角とのなす角度から考える。デーゲームの時間帯には、太陽は南南西から西南西の間を動くが、ここでは間を取って南西方向が太陽光の方向と固定して調査する(図1)。なお、緯度・経度や太陽の高度については、簡単のため一切考えないものとする。南西方向とベンチ方角とのなす角度について、フリーソフト「画像カラスンポ」の「2線分のなす角度」機能で計測する。例えば、図1では旧広島市民球場を例に計測したが、太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とは68.6度の角度をなしている。

図1.旧広島市民球場における測定例

 以下、同様の方法により、全7球場について調査を行った。

3. 結果と考察

 全7球場についての測定結果を画像で示す。

図2.マツダスタジアム

 マツダスタジアムでは、太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とが179.5度の角度をなしている。カープベンチは太陽を背にしており、暑さ対策としては極めて合理的な設計がされていることが分かる。さらには、図を見てみるとビジター側応援席と、太陽光が降り注ぐ南西方向とがほぼ平行になっており、相手ファンを熱中症に陥れて応援士気を下げるという意味でも合理的な球場である。

図3.甲子園

 甲子園では、太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とが90.5度の角度をなしている。マツダほどではないが、タイガースベンチが直射日光を十分避けられる構造になっている。特筆すべきは、ビジター側のベンチ方角と、太陽光が降り注ぐ南西方向とがほぼ平行になっており、相手チームにダメージを与えられる構造になっている。但し、甲子園の場合は最も暑い時期に高校野球によって甲子園を使用できないため、影響はそこまで大きくないかもしれない。
※ 3塁側を使う高校の勝率や、高校球児の熱中症・脱水症状等の発症率など、誰か是非調べてみてほしい。

図4.横浜スタジアム

 横浜スタジアムでは、太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とが66.0度の角度をなしている。マツダや甲子園ほど完璧な角度ではないものの、太陽光が斜めから当たる構造になっており、ベイスターズベンチが直射日光に晒される面積は多くない。但し、ベイスターズ応援席が太陽光とほぼ平行で、ビジター側ベンチは太陽を背にして戦える位置にあるため、この球場はベイスターズファンに厳しく、相手チームに涼を提供してしまう構造になっている。

図5.神宮球場

 神宮球場では、太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とが109.1度の角度をなしている。こちらも甲子園と同じような形で、直射日光を十分に防げる構造になっている。バックスクリーン周辺の応援席はモロに直射日光を浴びてしまうため、なかなか厳しい環境か。

図6.西武ドーム

 半屋外である西武ドームは、全国プロ野球スタジアムガイド様が撮影された写真を元に調査を行った。なお、西武ドームのホームベンチは3塁側である。西武ドームでは、太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とが164.5度の角度をなしている。この球場には屋根があるため、そもそもほとんどの日光は完全に防ぐことができる。とは言え、ライオンズベンチは太陽を背にした方角であり、屋根無しだったとしても直射日光に対して完全に対策できる良い設計である。また、太陽が西に沈む時間には、屋根の隙間から入る西日がビジター側ベンチの方角にほぼ平行に降り注ぐため、相手ベンチにダメージを与えられる構造になっている。

図7.ZOZOマリン

 ZOZOマリンでは、太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とが58.4度の角度をなしている。横浜と似たような角度であり、太陽光が斜めから当たる構造になっている。完璧に直射日光を避けられる構造にはなっていないものの、マリーンズベンチが直射日光に晒される面積は多くない。また、太陽が西に沈む時間には、西日がビジター側ベンチの方角にほぼ平行に降り注ぐため、相手ベンチにダメージを与えられる構造になっている。

表1.南西方向とホームベンチ方角とのなす角度一覧

 表1にここまでの調査結果をまとめる。マツダと西武ドームはホームベンチが太陽を背にした形に設置されており、最も太陽光の影響が少ない角度に設置されている。甲子園と神宮は、ホームベンチと太陽光が降り注ぐ南西方向とがほぼ垂直に位置しており、十分に太陽光を避けることができている。特に、甲子園はビジターベンチと太陽光が降り注ぐ南西方向とがほぼ平行になっており、相手チームにダメージを与えられる極めて優れた構造になっている。横浜とZOZOマリンは完璧に直射日光を避けられる構造にはなっていないものの、上記6球場では太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とが約60~180度の角度をなしており、太陽光が斜め~背後方向からホームベンチに当たるよう設計されていることが分かった。
 では、最後に楽天生命パークを見てみよう。

図8.楽天生命パーク

 楽天生命パークのホームベンチは3塁側である。図から明らかだが、この球場はどうしようもない。楽天生命パークでは、太陽光が降り注ぐ南西方向とホーム側のベンチ方角とが、たった8.9度の角度しかない。太陽光がほぼ平行にイーグルスベンチに降り注ぐ構造になっている。さらに特筆すべきは、太陽光が降り注ぐ南西方向とビジター側のベンチ方角とがほぼ垂直になっており、相手ベンチが直射日光を十分避けられる構造になっている。ホームベンチが直射日光を避けられ、相手ベンチに直射日光が直撃する甲子園とは全く逆の設計である。甲子園と楽天生命パークはほぼ同じ向きに建設されているが、ホームベンチがそれぞれ1塁側と3塁側とで逆であるため、このような形になってしまったのだ。表2で比較すると信じられない状況がよく見えてくる。

表2.楽天絶命パーク

なんと、楽天生命パークだけが、ホーム側ベンチに直射日光が直撃する設計となっているのである。

4. さいごに

 ここまで見てきたように、タイトルの「楽パのベンチが暑い」は本当だと考えられる。さらにタチが悪いのは、「楽パのビジターベンチが暑くない」ことである。西武ドームなんてビジター側ブルペンをマウンドと異なる高さにしているくらいなのに、楽パではビジターの環境の方が良いとか、ホームアドバンテージも何もあったもんじゃない。念のため強調しておくが、私はビジター側を不利にするのは汚いと言いたいのではない。ビジター側を不利にしない方がちゃんちゃらおかしいと言いたいのである。ビジター側ブルペンをマウンドと異なる高さにするというのは、ホームチームの勝ちだけを真剣に考えた本当に素晴らしい発想だと思う。さすが伝統ある強豪西武の考え方は違うなと感じる。阪神のホームである甲子園も、ホームベンチが直射日光を避けられ、ビジターベンチに直射日光が直撃する設計になっており、やはり伝統あるチームはよく分かっているなと感じる。
 それに比べて、「楽パのビジター側にもお風呂を設置してあげよう」などという考え方は、まっっっっっっっっっったく理解ができない。相手を尊重することは素晴らしいスポーツマンシップだが、勝ちを求めてルールの隅を突き相手を攻撃することもまた、素晴らしいスポーツマンシップである。「この球場はブルペンとマウンドが違うから不安だな」、「この球場は直射日光が直撃して熱中症が不安だな」と、ルールの範囲内でビジターチームを合法に怖がらせてこそ、勝ちを求める真のプロフェッショナルスポーツチームである。ビジターチームを快適に戦わせ、ビジターチームが怖さを感じないチームなど本当にプロのチームと言えるのだろうか。わざわざ相手チームに気を遣い、自分達は無様に失速し続けるイーグルスなどもう見たくない。
 もちろん、私はホームベンチの方角だけが夏に失速する原因だとは思っていない。はじめに触れたインフルエンサーの考察(キャンプ段階での追い込み過ぎ)がかなり本質的な原因なのではないかと考えているし、もっと言えば他球団に比べて選手達の線が細いことによる体力不足だと考えている。私がこの記事で最も言いたかったことは、果たしてイーグルスは勝つためにベストを尽くしているのかという疑問なのだ。伝統ある強豪チームでさえ、ルールを逸脱した囲い込みや裏金などを使ってチームを強くしたのだ。非合法な手段を使って獲得した選手達の力で優勝してチームの礎を築き、次は彼らがコーチ・フロントに入って時代に合わせた合法的な手段で優勝し、チームの伝統を作り上げたのだ。イーグルスは、戦力外選手を寄せ集めてマイナスからスタートしたチームである。今は非合法な手段を取ることはできないが、正攻法だけでなくルールの隅ギリギリのずるい手もたくさん使わないと、伝統ある強豪チームには追いつけないのである。マイナスからスタートしたイーグルスをずっと外から見ていた石井GMだけは、この事をよく分かっていると思うので、引き続き大いに期待している(監督業との兼任は大変なのでやめてほしいが)。まずは来年から、楽パのホーム側とビジター側を入れ替えようか。

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