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ショートショート「3人の鈴木君」

希衣子の初恋は中学1年の時だった。

ある日教室のベランダから下を見ると
2年生の男子が戯れていた。

今思えば、中2の男子たちなんて
子犬のようだ。
水道の水を飛ばしあって
楽しそうにじゃれていた。

わわ、楽しそうだな~なんて
ほんわかと眺めていた希衣子の胸が
どきんっと高鳴った。

きらきらと独りだけ輝いて見える人がいる。
ちょっと目をこすってみたけれど
やっぱり他の人と違う。

それからだった。

その上級生をいつも目で追うようになった。
休み時間になるとベランダから下を眺めて
ある日、体操服の名前で彼が鈴木君だと知った。

成就したわけではないけれど、
初恋の話は甘酸っぱい。
塩辛くなくて本当に良かったと思う。
だってずっと思い出すんだもの。

驚いたことに、2人目に好きになった人は
また鈴木さんという名前だった。

ところが、この2人目に出会うまで、
5年間も時間がかかった。
といっても、その間、恋愛と無関係だったか
いやそんなことはなかった。
15歳の時には初めて告白されて
初めてデートに行った。
でもその男の子は友達にしか思えなかったし
心の中にはひとり目の鈴木君がまだ居座っていた。

そして、高校2年生の時には
ひとつ年上の隣町の男子高校生と文通をした。
たまたま親友のお兄ちゃんがその人と友達で
親友と親友のお兄ちゃんを経由するという
なんとも面倒くさい通り道で文通という名の
数学を教わっていた。
お兄ちゃんに憧れていたため、うきうきしたものの
文化祭に遊びにきたよ!とか、
放課後デートしよう!とか、
押しの一手でこられて、たじたじになってしまった。

愛されることが花だよ、と
当時の私を諭したい

といつも希衣子は思い返すのだった。

そんな歳月のあとで好きになった鈴木さんは
6つも年上の大人だった。

なのに希衣子といえば、男性に混ざって食事するだけで
おなかが痛くなってしまうような状態だったので
相手にしてもらえるわけないと、そっと見つめて
すごしていた。

ある日、その鈴木さんは、突然外国にいってしまった。
希衣子は決意した。
ひと月に一度だけ手紙を送ろうと。
ただ、ちょっとしたお醤油味の手紙になって、
彼をほっとさせるだけでいいと思っていた。

というわけで、またしても片想いは成就せず、
2人目の鈴木さんは去っていった。

そして、3人目の鈴木君は職場にいた。

大人しくて可愛らしいならどんなによかっただろう。
いつもそんな風に思っていた希衣子だったが、
大人しくて地味でごく普通、目立たない、
けれど、なぜかお掃除のおばさんと
役員のおじさんたちに人気があった。
その代わりに鈴木君に人気がでたらどんなにいいかなと
罰当たりなことを考えていたあの頃の自分に

それもまた人生だ

と今なら教えてあげられるのに、と彼女は
最近よく思うことがあった。

怖がりだった希衣子は、お掃除のおばさんと
役員のおじさんが結託して持ってきた
すごくいいお見合い話に恐れをなして

ととととんでもない!

とすぐに断ってしまう、
まったくもって間抜けでしかなかった。

クールでにこりともしてくれない
鈴木君ばかり見つめていたから
自分が海老で鯛を釣りかけていることに
気づいていなかったんだろう。

この後、習慣のようにずっと手紙を送り続けていた
2人目の鈴木さんが突然現れて、驚くべき展開が
待ち受けているなんて、

全く想像もしてなかったな

と、のほほんと思ったりするけれど、
それはまた別の話。

そして、希衣子は鈴木姓になることはなかった、
というのは付け加えておくべきだ、きっと。

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ピリカグランプリのルーキー賞を思いがけなく
いただきました。
本当にありがとうございます♡
すごく嬉しいです。
はじめての次に書いた作品でした。

嬉しくなってしまって、書下ろしです。
(やだ、かっこいい、書下ろしだって。)

ふと思いついて、またしてもパパっと書いて
しまったため、少し構成が甘いのですが、
ぽいんと載せてみることにします。

同時に受賞された、ミムコさん。
おめでとうございます♡

そして、かっちーさん、おめでとうございます♪

さていよいよ今夜はピリカグランプリ、各賞の発表、
待ち遠しいですね♡












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