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ルナシーの詩

くたばり損ね
まるで囚われに服す達磨(だるま)
月の満ち欠け数えては
まどろみの妖精に血を吸わせ
幻肢痛を飼い慣らす
在りもしない肥料
草叢(くさむら)に放ってはせせら笑うのだ
癒えてしまえよ何もかも
傷と呼べるあらゆる痛みの源(みなもと)

なぜおまえはまだ生きている?
草陰に潜む幽世(かくりよ)の使者は問う
誰だって過去に生かされてる
嘘だって人を救いもする
己(おれ)だって答えを探してる
不確かな四肢ばたつかせ
摩天楼を紆余紆余(うようよ)
虚空を見やればそこに月が在った
平等の証にして慟哭の誘い水

知られざる夜の耀(かがや)きを
瞬く間に吸い尽くしてみせようか
あんたが愛してやまない全てを
光りの届かぬ果ての果てまで
連れ去ってしまおうか
あの月の裏へと

狂ったふりをしているうち
道化は水鏡を割り落っこちた
麗しきオフィーリアはもう居ない
蒼く白けた麦畑
こんなもんじゃないと憤ったって
全力なのは見られてた
月の監視者に

道徳を小脇に抱え正常なまま
折り目正しく狂いそうだ
幾何学的に交錯する曲芸かわして
どっち道を通った先の横丁(よこちょう)で
わからず屋が軒を連ねて手招きしてる
常在菌に護られた俗世を流星群で滅菌したい
侵される前に侵してしまえ
コロンブスの上陸と洒落こもう

慣れてしまえばどうってことない
人間の仕組み
なぜそれなのにかくも疼く?
己は病人なものかと
頭(かぶり)を振って宿命に楯突いた
月の女神はほくそ笑み
皓々(こうこう)と照らしてくる
スポットライトは望んじゃいない
救済されたいわけでもない
楽にはならなくていい
むしろもっとそうもっと狂(くる)しくあれ

誰もがすがるこの世の理(ことわり)
鉄槌で叩き壊して
真なる性(さが)を曝(あば)き出そうか
疎まれし者の嘆き哀しみ受け継いで
糾弾を浴びせようか
あの月に代わって
あんたの罪を皆まで裁いてやろうか

月の繭(まゆ)が羽化するとき
ようやっと終わらせることができる
そのときは
溜め息で浮かせた気球に乗って会いに行こう
月狂いのノクターン奏でながら迎えに行こう
それまでは昏々(こんこん)と眠っていなさい
歌声が安眠を裂くそのときまで
おやすみ

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