#12 嫌われ者
「気持ち悪い」
「ウザい」
「無理」
「生理的に」
基本的にそういうことを言う人間は他人の事をどうも思っていないと思う。
最低だ。
しかし、毎日すれ違う知らない人間を、自分が傷付けている可能性だってある。
僕はもう、聞き慣れた。
いかに言葉を避けるかなんて、勝手に慣れた。
慣れてはいけないだろうが。
大きい会社ほど、他人に残酷だったりする。
一概には言えないが。
それは「気付かない」から。
相手に気付かれなければいいのか?
そう思って立ち上がる。
会社は早く出るに限る。
Barに入ったら、近くの人間と店主が話していた。
店長らしき人間が話しかけてきた。
「お仕事帰りですか?」
「え?あ、、うん、まあ」
こういう店の人間は人と話すのが好きで得意なんだろう。
この世には、逆の人間だっている。
僕は昔から、人とコミュニケーションを取るのが苦手だ。
人と話すのが、幸せというのは、勝手な固定観念だ。
適当にカクテルを飲んでお会計する。
僕は誰とも話さない。
話せない。
「スティンガー」というカクテルは、甘くて、苦くて、まるで「合わないもの同士を無理やり合わせたよう」で、美味しく無かった。
「話せない」と、他人は距離を取る。
心を開かないと思われるからか?
怒っているように見えるからか?
「それがコミュニケーションか?」
帰りにふと、思う。
喋る事がコミュニケーションなのか?
それだけで人を判断しやがって。
口ではいくらでも言うだろう。
心を読むとかなんとか。
ふざけるな。
と、心の中で苛立つ。
しかし、分かっている。
この気持ちは自分に何も生まない、と。
人の気持ちは、他人にはわからない。
誰が何を以って、人を傷付けるかなど、当事者には分からない。
超能力者みたいな人間がいれば人生も変わるかもしれない。
傷付けられる、なんて被害者のように思っているからダメなんだろう。
僕が生まれた時にはインターネットは普及していて、常識になっていて、匿名でコミュニケーションを取ることは当たり前になっている。
インターネット上の匿名など、匿名という意味は為さない。
匿名ならいいとでも言うのか。
他人の悪質な発言は画面上で、受ける側にとっては刃物の様に鋭利に形を変える。そして抜けばいい物理的なものではなく、抜きたくても抜けない毒針のようにそこにあり続ける。
生きるのも何だか、面倒くさくなってくる。
世の中そんな人間ばかりで、人を傷付けていることに気付かない人間ばかりだから。
自分が傷付かなければ、いいんだ。
「保身」
本能だから、仕方ない。
「嫌われる」という事象は、
そういう人間が勝手に作った概念に過ぎない。
それに便乗する人間は、以ってのほかだが。
帰ってスティンガーを調べてみる。
1890年、アメリカ生まれ。
「針」を意味するその味は、ブランデーにより高いアルコール度数に、ミント、シロップの甘味が覆いかぶさって、飲み口は思ってる以上に甘く、後に刺すようなアルコールを感じるのが名前の由来だそう。
はあ、とため息をつく。
仕事に行きたくない。
ラップトップの画面をスクロールしていると、眠くなった。
今頃アルコールが回るのか?
そう思ってソファに横たわる。
気付かないうちに出来ている天井の染みが気になる。
頭の中で、ラップトップの最後の文が気になって離れなかった。
「20世紀初頭に象徴されるアメリカの禁酒法を乗り越え、世紀を超えて、今み尚受け継がれ、人々に愛されるカクテル。その理由は、スティンガーの味わいと構成、そしてカクテル自身経た経験が、人々の喜楽に象徴する『表』に触れるのではなく、人知れぬ苦しみや悲しみのような『裏』の存在を教えてくれるからではないだろうか。小学校の先生はそういったことは教えないが、このカクテルは教えてくれる」
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