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クセの強さを演技に活かしたい――鈴木亮平が目指すのは、人間としての深み

ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』では救命救急医を、『レンアイ漫画家』では少女マンガ家を、舞台『広島ジャンゴ 2022』では“馬”を演じるなど、その役柄の幅広さでは他の追随を許さない鈴木亮平。ピクサー・アニメーションによる映画『バズ・ライトイヤー』では、主人公のバズ役として、久々に声優にも挑戦した。40歳を目前に控えた鈴木が、これから目指す役者像とは。

■コロナ禍によって、自分が残していく作品をより強く意識するようになった

「目標は遥か先ですね。宇宙に行きたいと思うんじゃなくて、火星に住みたいと思うタイプなので(笑)。誰も行ってないところに行きたいし、誰もやってないことをやりたい」
 
そう語る俳優・鈴木亮平の目は、確かに未来を見据えていた。無謀な夢ではなく、宇宙での生活にすら想いを馳せ、現実的に考える。そうしたスケールの大きさが、彼をここまで突き動かしてきたと言えるだろう。アニメ『シティハンター』の冴羽獠に憧れ、まずは声優を志したという彼は、大学時代、演劇の世界にどっぷりと足を踏み入れたのち、そのまま俳優の道に進む。現在では、多くのドラマ、映画に出演するほどの人気を獲得したわけだが、俳優という職業への考え方も、経験を重ねるごとに変化してきたという。
 
「脚本や監督が表現したいものに徹するのが俳優の仕事だと思っていて、“自分がない”のが魅力だと思っていました。ただ、人生の折り返しを意識し始めたときに、自分が関わった作品が社会に与える影響にも興味が出てきましたし、責任感を覚えるようになりましたね。誰かを傷つけてしまう可能性がある作品ならば慎重にいきたいですし、一方で表現の自由も守っていきたい。そういうバランスを考えるようにはなりました」
 
そうした考えに至るにあたっては、これまでの経験だけでなく、コロナ禍も大きな影響があった。
 
「コロナ禍で自分の人生を見つめ直す時間が多く取れたのは大きいかもしれないですね。行動が制限された中で自分の人生の残り時間を考えたときに、どういう作品を残していくべきかをより強く意識するようになったんです。そういうタイミングだったのかもしれません」

■おもちゃではない、人間としてのバズ・ライトイヤーに挑戦した

そうした転機を実感するタイミングで今回、鈴木は『ルドルフとイッパイアッテナ』以来、久々に声優に挑戦する。ピクサー・アニメーションによるアニメーション映画『バズ・ライトイヤー』は、大ヒットシリーズ『トイ・ストーリー』におもちゃとして登場する“バズ”のモデルとなったスペース・レンジャー、バズ・ライトイヤーを主人公とした冒険譚だ。その主人公の声を鈴木が務めた。
 
「声優に興味を持っていたのもありますし、俳優にとっても声は大事なので、人よりは意識してきた方だと思います。ただ、僕はもともと絶望的に滑舌が悪くて……それを30歳くらいから変えていこうと勉強してきました。昨年のドラマ『TOKYO MER』もすごくセリフ量の多い作品だったのですが、これまでの経験や習得した技術によって少しは改善できたかなと感じることができました。そのタイミングで今回の『バズ・ライトイヤー』のお話をいただけたので、やり甲斐はありました」
 
『トイ・ストーリー』版のバズと言えば、所ジョージ氏による吹き替えが有名だろう。鈴木も所版バズと共に成長してきた自負はあり、そのプレッシャーもあったという。
 
「僕は83年生まれですが、(『トイ・ストーリー』に登場する少年の)アンディと同じ年代らしくて、同時に成長しているという意味でも『トイ・ストーリー』は思い出深い作品です。しかも、バズと言えば所さんのイメージが僕の中にあったので、プレッシャーになりました。ただ、本国でのバズを演じたクリス・エヴァンスさんの声と演技は、『トイ・ストーリー』のときのバズとは全然違うんです。だから僕も思い切って、おもちゃではない、人間としてのバズ・ライトイヤーに挑戦しました」

■自分の環境や過去をないがしろにしないという考え方に共感できた

英語が堪能な鈴木だけに、実際のアフレコでも、クリス・エヴァンス版のバズに「引っ張られてしまうところがあった」と、その難しさを振り返る。日本語で感情を表現することは、別のテクニックが必要だったようだ。
 
「英語の表現やトーンのまま演じてしまうと、日本語だと“不足感”があるんです。音量ではなく、言葉数という意味でのボリュームが少ない。それを息遣いであったり、アニメ独特の喋り方だったりで伝えやすくしています。例えば、英語で抑えて話しているところを同じように日本語でやってしまうと、シーンの盛り上がりが欠けてしまう。僕はどうしても英語のトーンに合わせて話してしまって、あとで録り直しをすることもありました」
 
『バズ・ライトイヤー』は、スペース・レンジャーとして力を過信しすぎた結果、1200名もの乗組員と共に危険な惑星に不時着してしまったバズの苦悩と成長の物語だ。惑星から地球への帰還を目指す中で、仲間の大切さを知っていくバズが描かれ、それがひとつの見所ともなっている。そうした内容は、鈴木にとっても突き刺さるものであった。
 
「何よりも人間の強さを感じるアニメーションでしたね。バズを通して、いま置かれている環境の中で幸せを見出していくことが描かれているのですが、自分の環境や過去をないがしろにしないという考え方は、僕自身すごく共感できました。それがないと、自分がブレてしまうし、相手と話していても信頼されないと思うので」

■人間の癖を歓迎して、それを演技に活かしていきたい

妥協なき役作りで知られる鈴木も、俳優としてデビューしてから15年以上が過ぎた。先輩、後輩を含めて多くの役者を見てきたことで、演じる上での必要なスタンスや考えも自然と身に付いてきたという。だが、新たな世代、また自分よりも上の世代からも、まだまだ学び取ることはあると考えている。
 
「自分が役者として大事にしているものはありますが、世代によって大切なものは変化していくと思っています。なので、僕が考えを押し付けるというよりは、下の世代から学ぶような意識が強いですね。一方で、近年は尊敬する先輩方の考えにもすごく興味が湧いていて、本や作品から吸収していくことも多いです。これまで脈々と受け継がれている伝統や歴史があり、表現にも“型”のようなものがある。それを学んでから少しずつ形を変えていくことが、結果的にスタンダードを作ることだと思っています」
 
声優や俳優、バラエティ番組の司会など、これまで多くの顔を見せてきた鈴木。だが、これからの俳優人生においては、より人間的な成長に重点を置きたいと語る。
 
「役者としてさらなる成長を目指すためには、まず人間として成長することが一番だと思います。そのためには浅く広く知識を吸収するのではなくて、ひとつのことを深く知っていくことが重要。そのことで、演じる役にも僕自身のクセの強さが自然とにじみ出ると思うんです。歳を取ればクセはどんどん強くなるものだと思うんですけど、それを歓迎して、活かしていきたいですね」

【リーズンルッカ’s EYE】鈴木亮平を深く知るためのQ&A!

Q.これから勉強していきたいことは?

A.僕が好きな世界遺産にも繋がりますが、歴史ですね。まだ詳しいわけではないのですが、歴史って勉強すればするほど、物語の読み解き方や、演じるキャラクターに対する考えが変わっていくんです。同じ文章でも、読んだり聞いたりしたときに想いを馳せられる幅が広がる。実際にあった歴史を学ぶことが表現にフィードバックされていくのではと思っています。

<編集後記>

スタジオでの撮影終わりに行われた取材。少しばかり撮影も見学させてもらったのですが、スーツ姿での立ち姿やポージングは息を呑むほどの美しさでした。一方、取材ではこちらの質問にユーモアも交えて気さくに話していただき、大変スムーズなものに。筆者と同い年であることが判明すると、「クリス・ヘムズワースの1個上なんですか!?」という俳優さんらしい例えにニヤリとしました。

<マネージャー談>

どんなに忙しくても、一つ一つの仕事を丁寧にされる方。そして常に周りへの感謝を忘れない。
先日第45回日本アカデミー賞で最優秀助演男優賞を受賞された時も、自分だけの力ではない、みんなのお陰です、と
裏に戻ってきた時すぐにスタッフ皆んなにトロフィーを持たせてくれました。

普段、これ知ってますか?と話し始めると、自分の知っている事以上の知識で返されるので、悔しい思いをしています。笑

 
<プロフィール>
鈴木亮平(すずき りょうへい)
1983年生まれの俳優、声優。2006年に俳優デビュー。特技は英語(英検一級取得)。声優としては二作目の参加作となる『バズ・ライトイヤー』で主演を務める。2023年には、大ヒットドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の劇場版が公開予定。
Twitter

取材・文/森樹
撮影/飯岡拓也
ヘアメイク/Kaco(ADDICT_CASE)
スタイリスト/臼井崇(THYMON Inc.)



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