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実は私、小説家なんです。岩井志麻子の知られざる35年の濃厚時間

今年作家人生35周年を迎える岩井志麻子
バラエティー番組などでヒョウの恰好をし、下ネタを連発する面白いおばちゃん……そんなイメージが強いであろう岩井志麻子。
実は日本ホラー小説大賞も受賞した経歴を持つ、れっきとした小説家なんです。
普段テレビでは見られない岩井志麻子の幸せ時間を伺いました。

■作家人生35周年

びっくりですねぇ……気が付けばもう35年も経つんですね。
こういう取材の時って「なぜ小説家になろうと思ったのですか?」という質問を必ずと言ってよいほど聞かれるんですが、その度に、ありきたりに『子供の頃から本を読むのが好きで、自分でも書きたいと思ったんです』などと答えていましたが、最近になってこれって本当なのかな?と思うようになりました。
嘘ではないのですが、ついつい話を盛って面白おかしく大袈裟に話してしまう。そうすると段々その記憶が本当のようになってきて、はっきりとした記憶になってしまうんです。

ある人に、志麻子さんはタレントになりたくて、でもストレートになるのは難しいから作家になったんでしょ?って言われたんです。なんでそんな風に思うのかなって思ったんですけど、もしかしてそうなのかな??って(笑)
幼少期は、スター誕生か、コンテストで優勝するくらいしかタレントになる方法が無かったんです。私は、岡山の片田舎の普通の子でしたから、これすらも難しい。
タレントになりたいという潜在意識はどこかにあっても、自分にとっては、「世に名前を知ってもらうためには小説で賞を取る方が現実的かもしれない。」なんて思うようになりました。
自分の中で本当だと思っている事って、曖昧だなと思います。

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■東京

上京したのは1999年くらいですかね。
離婚した後の何もない状態で、今思うとよく上京してきたなと思いますけど、若かったから出来たことなんでしょうね。今だったら、とてもじゃないけど無理。
上京してすぐ、新橋のウィークリーマンションに一か月ほど滞在しました。
ビルの谷間にあって、昼間でも電気を付けないと真っ暗な部屋でした。
友達や知り合い、ましてや、男なんて当然ながら居なくて、出かけるのもスーパーかコンビニくらい。
15時くらいに部屋に帰ってきて電気を付けたときに「今日も誰にも会わなかったなぁ」と、独り言を言った光景は今でも忘れられません。
すごく絶望感を感じていました。

当時の状況をお友達の西原理恵子ちゃんが漫画にした事があるんです。
「志麻子さんは今夢を見てるの。本当はまだ新橋のマンションに居るの。
ホリプロに所属してテレビに出て人気者になっているのは全て夢で、
今も独りぼっちで新橋のマンションに居るんだよ。」
私が手を3つ叩いたら目が醒めるの……
「ギャ〜〜〜!!!」
というところで終わるんです(笑)

あとは例えば、「今この取材をしているライターの人は実はライターではなく、介護病棟の看護師と医者だよ。今カウンセリング中なんだよ。」
みたいな事も言われましたね(笑)

その後知り合った方から不動産屋を紹介してもらい、文京区にある1フロア1部屋のマンションに引っ越しました。
四方に窓がある明るい部屋だったので即決でした。
まだ知り合いも少なかったので、部屋に閉じこもってワープロで小説を書く日々でした。その時書き下ろしたのが、後の『ぼっけえ、きょうてえ』に収録されている小説です。振り返ってみれば、今と変わらない自粛生活ですね。
そしてその時に、角川書店の方に認めて頂いて出版した本が山本周五郎賞を受賞したんです。当時は友達も居なくて独りぼっちで、自分の事を可哀想だと思っていましたが、今思うと上昇期だったんだなぁ。周りからみたら幸せに見えていたでしょうね。

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■ヒョウ

東京っておしゃれな人が多くてセンスのある人には太刀打ちできない。
そこでセンスの無さを逆手に取とうと思い立ち、ヒョウ柄の服を着始めたんです。
ヒョウ柄ってイジられやすいじゃないですか。大阪のおばちゃん!とかおばさんが着ているイメージ。
それでヒョウ柄の服を着て、テレビに出演するようになったんです。
初めてヒョウ柄の服を着て出たのは、現在もレギュラーで出演している東京MX「5時に夢中!」でした。大川局長には感謝してもしきれません。
続いてヒョウおばさんに目をつけたのが日本テレビ「有吉反省会」です。ヒョウ柄の服ばかり着ていることを反省して、その禊として、ヒョウのメイクに全身タイツ姿になったんです。
そして、気が付いたらレギュラーになっていました(笑)

番組のおかげで、岩井志麻子の小説を読んでいない人でも私の事を分かってくれるのは、ありがたいですね。

バラエティー番組の出演は、面白くて毎回めちゃくちゃ楽しんでいます。
でも、日本人の真面目な気質なのか、仕事は苦労するもの、辛くて耐えるもの、という刷り込みがあって、楽しんでお金を稼ぐ事は日本人としてダメだ!と。どこかで楽しんで仕事をしている自分に後ろめたさを感じてしまうこともあります……。

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■小説

こうみえても私小説家なんですよ。
小説はちゃんとしていると自分では思っているので(笑)
リーズンルッカで読むことが出来る『君よ知るや南の地獄』には元ネタがあって、とある未解決事件を私なりに書いています。読んでくれる方には、是非推理してどの事件か当ててほしいですね。
未解決の事件が大好きなので、自分なりの解釈で執筆しました。

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それから6月15日には角川ホラー文庫より『でえれえ、やっちもねえ』という小説が発売されます。この作品は『ぼっけえ、きょうてえ』の続編というわけではないんですが、続編っぽく書きました。
あとは、こういう時代だから少しでも救いがあった方が良いかと、明るくバカな要素もあって、笑えるように仕上げました。

タイトルの「でえれえ」は岡山弁で「とても」「すごい」、英語で言うと「very」という意味です。本当は「もんげえ」という言葉にしたかったんですが『妖怪ウォッチ』に出てくるキャラクターのコマさんの口癖が「もんげー」でカワイイイメージが定着しているので「でえれえ」にしました。
「やっちもねえ」は、こちらも岡山弁で「くだらない」「しょうもない」つまらないという意味もありますが、「怖い」というニュアンスもあります。

この作品は岡山県が舞台で、実在したちょっと変わった人たちが実名で登場します。若き日の内田百閒さんも登場します。
マニアックではありますが、分かる人には分かる「遊び」を取り入れています。そういう部分も楽しんでもらいたいです。

これを言ってしまうと身も蓋もないけれど、1番怖いのって幽霊とか祟りとか怪奇現象ではなくて、生きた人間なんだよ。ってよくオチに使われたりしますよね。
今後書きたいと思っているのは、そこに更にもう1段オチをつけて、自分が思っている嘘と本当って、果たして世間から見てもそうなんだろうか……という、結局自分が1番怖い、というオチの小説を書いてみたいです。

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■平和が1番

幸せって、トキメキやワクワク系と、だら~んとして「あ~落ち着くなぁ」と感じる癒し系とありますよね。
専ら最近はアッパー系ではなくなりましたね。
もうね、平和が1番。
親も愛犬も健康で元気だし、自分も歳をとってきて、愛犬とはあとどれくらい一緒に居られるんだろうって考えると、一緒に過ごす時間がとても愛おしく感じます。
こういう幸せは若い時には感じなかったですね。
家の中でパジャマ姿で愛犬と戯れている時間が、私の1番幸せな時間です。

【岩井志麻子の書き下ろしがここだけで読める!】

『君よ知るや南の地獄』

https://note.com/lesenlucke/n/n71df6f1c8e79

【でえれえ、やっちもねえ】

『でえれえ、やっちもねえ』
発売日・2021年6月15日発売。
定価・660円(本体600円+税)
この地獄に魅せられる。『ぼっけえ、きょうてえ』待ち望まれた正統後継作

コレラが大流行する明治の岡山で、家族を喪った少女・ノリ。
ある日、日清戦争に出征しているはずの恋人と再会し、契りを交わすが、それは恋人の姿をした別の何かだった。
そしてノリが生んだ異形の赤子は、やがて周囲に人知を超える怪異をもたらしはじめ……(「でえれえ、やっちもねえ」)。
江戸、明治、大正、昭和。異なる時代を舞台に繰り広げられる妖しく陰惨な4つの怪異譚。
あの『ぼっけえ、きょうてえ』の恐怖が蘇る。

【プロフィール】
岩井志麻子(いわい しまこ)
1964年12月5日生まれ、岡山県出身。高校在学中、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家としてデビュー後、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』で第6回日本ホラー小説大賞受賞。2002年『岡山女』が直木賞候補に。現在、TOKYO MX『5時に夢中! 』、 日本テレビ『有吉反省会』にレギュラー出演中。

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