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表現したいのは、人間のあたたかさ―― 沖縄を舞台とした会話劇『hana-1970、コザが燃えた日‐』で、 松山ケンイチが伝えたいこと


2021年に芸能生活20周年を迎え、ますます精力的に活動している俳優・松山ケンイチ。
2022年1月からは、久々となる舞台『hana-1970、コザが燃えた日‐』が東京と大阪、宮城で上演される。今作で松山が、舞台や俳優業に懸ける想いとは。
加えて、現在は東京と自然豊かな田舎を行き来する松山の日常についても話を聞いた。

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■コザ騒動のことは、今回はじめて知りました

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2021年。俳優・松山ケンイチは、芸能生活20周年を迎えた。
先日まで放送されていたTVドラマ『日本沈没-希望のひと‐』では、日本を襲う未曾有の事態に対応する経産省の官僚・常盤紘一を演じ、映画『BLUE/ブルー』では、敗北続きのボクサー・瓜田信人役に体当たりで挑んだ。大幅に体重を増やして演じきった『聖の青春』での村山聖役もそうだが、演じる役柄(キャラクター)の本質を、松山はその肉体や台詞回しも駆使しながら追求し、“役に向き合う”ことを愚直に実践してきた。
そんな彼が2022年、久々の舞台に挑戦する。
1970年、返還直前の沖縄を舞台にした『hana-1970、コザが燃えた日‐』だ。

 「僕は青森出身ということもあり、あまり沖縄の歴史や当時のことは詳しく知りませんでした。実際に沖縄に足を運ぶことになったのもこの仕事をはじめてからで。
それから時々行かせてもらうようになり、ひめゆりの塔を訪れたこともありますが、今回の舞台で描かれる“コザ騒動”のことは初めて知りました」

■僕にはない感覚がたくさんある作品

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松山が口にした「コザ騒動」とは、1970年の12月、コザ市(現・沖縄市)で勃発した民族蜂起であり、様々な問題から米軍への不満を募らせた沖縄県民が、米兵による交通事故をきっかけに米軍関係者の車両を破壊、焼き払った出来事。演出家・栗山民也と、脚本家・畑澤聖悟がタッグを組んだ『hana-1970、コザが燃えた日‐』は、その騒動の発生地・コザ市ゲート通りにあるパウンショップ(質屋)兼バーが舞台。「コザ騒動」が起きる直前、おかあ(余 貴美子)が経営するバーに、アシバー(ヤクザ)となった息子のハルオ(松山)、教員となったもうひとりの息子アキオ(岡山天音)が数年ぶりに顔を揃えた夜、家の中で起きた事件により、ばらばらになりかけた家族に変化が起きる―――といった内容だ。

台本や資料を通じて改めて日本と沖縄、そしてアメリカの複雑な関係性を知った松山は、物語の本質を観客に届けようとその方法を模索している最中だという。
 
「台本を通して“コザ騒動”に触れて、その出来事にまつわる背景――例えば当時のウチナーンチュ(沖縄生まれの人)と本土の人との温度差も感じることができました。そういう意味では、僕にはない感覚がたくさんある作品です。沖縄にも実際に取材に行くのですが、そのあたりの感覚は、現地の人にも直接伺ってみたいですね。沖縄の方言も、方言指導の方が就いてくださっていて、それに沿ってやっていこうと思っています。ただ、正確な言葉遣いに囚われすぎると形だけになってしまい、想いを届かせられないなとも思っているので、そこには気をつけて取り組んでいますね

■人のあたたかさやその繋がりによる幸福の片鱗を表現したい

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沖縄返還直前に起きた騒動ということもあり、歴史上は大きな戦争が生み出した負の連鎖、歪みとも言える出来事だ。そこにはしっかりとした重みはありながらも、暗くヘビーな状況のみを映し出すものにはしたくないと、松山は語る。

「今考えても、不幸が連続するような大変な時代だったと思います。ですが、どこの時代でも、どんな状況にあっても不幸の反対側には必ず幸せもあって、一瞬でも幸せを感じる場面があったはずなんです。全体としては重たいものだとしても、人そのもののあたたかさや、その繋がりによる幸福の片鱗は、この物語からも表現できればと思っています

■東京と地方との二拠点生活で得た「自然体」

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様々な媒体で明らかにされているが、松山は家族と共に、地方と東京を往復する二拠点生活を送っている。田舎では畑を持ち、そこで育てている作物の世話をするのが日課のひとつだそうだ。

 「基本的に野良仕事ですね。片付けだったり、掃除だったり。特に東京ではできないことをやろうと意識しているので、土いじりや、家の外で何かをしていることが多いです。つい最近は、ミニトマトを収穫して、トマトジュースにしていました。残ったミニトマトは家族みんなで食べたり、トマトソースにしたり、東京の知り合いに送ったりすることもありました」

 都会での生活は便利であるが、どうしてもそのスピードや情報に流されがちだ。全身全霊で“役と向き合う”ためには、それがノイズになることもあるだろうし、都会の景色や空気が、たとえオフであっても「仕事場」のように感じられてしまうのは仕方のないことだろう。松山にとって、自然豊かな場所での生活は、役にも仕事にもとらわれない自然体の人間、また父としていられる時間となっている。

 「村での生活は、すべて仕事に活きていると思います。どんな役を演じるにしても、自分の考え方や感情、感覚はどうしても滲み出てきます。そのときに、東京で建物ばかり見ているのと、山や畑などの自然と定期的に触れ合っているのでは、変わってくるように感じています。僕の場合、東京だけで生活していると視野が狭くなり、“こうしなきゃいけない”という考えに陥りがちで、それが力みに繋がるんです。そういう力みは、仕事上、あんまり良いものではなくて。自然の中にいると、こちらも自然体になれるので、自分に何かを付け足さなくても良いのではないかと思えてくる。それが、演技にも良い影響を与えているような気がします」

■僕がハルオを演じることに何か意味があることを実感できれば

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何者かを演じるということは、たとえそれがフィクションであっても、その者の人生を追体験することである。そこに自分自身の肉体や思考を重ね合わせる作業は場合によって困難を要するし、覚悟がいることだ。今回の舞台も、日本返還前の沖縄と、そこで生きる人たちを描くという、チャレンジングな内容である。だからこそ、青森で生まれ育った松山は作品に参加する意義を感じているし、自然に囲まれた生活で獲得した、フラットかつ柔軟な思考が生きると考えている。

「コザ騒動を実際に目の当たりにした方たちはすでに70代近くになっていて、現地でも騒動を知る若者は少なくなってきています。こういう風に作品として残すことで、風化させないという意味合いもありますし、主人公のハルオをウチナーンチュでない人間がやることも、何か意味があるのではと感じています。それが本番を通して、具体的に実感してもらえる作品になれば良いなと思いますね

この舞台を皮切りに、2022年は複数の映画公開が控えている松山ケンイチ。あらゆる感度を高く保つ必要がある演技を生業にした彼にとって、都会と田舎、双方で暮らす生活スタイルはまさにその土台になっていると言える。それは、20年目より30年目、30年目より40年目と、経験が生き続ける俳優という職業において、今後さらなる強みになっていくのではないだろうか。

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【作品詳細】
hana-1970、コザが燃えた日-
●日時(東京公演)
2022年
1/9(日)・10(月・祝)15:00、
12(水)・13(木)・16(日)・18(火)・19(水)・20(木)・23(日)・25(火)・27(木)・30(日)13:00、
14(金)・21(金)・26(水)19:00、
28(金)12:30
15(土)・22(土)・29(土)13:00/18:00
●会場 東京芸術劇場 プレイハウス

●作 畑澤聖悟
●演出 栗山民也
●出演 松山ケンイチ/岡山天音/神尾 佑/櫻井章喜/金子岳憲/玲央バルトナー/上原千果/余 貴美子

●日時(大阪公演)
2022年
2/5(土)12:30/17:30、
6(日)12:30
●会場
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

●日時(宮城公演)
2022年
2/10(木)18:30、
11(金・祝)13:00
●会場
多賀城市民会館

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【プロフィール】
松山ケンイチ(まつやま けんいち)
1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年、ドラマ『ごくせん』(NTV)で俳優デビュー。2004年、『ウイニング・パス』で映画初主演。2012年にはNHK大河ドラマ『平清盛』で主演。日本アカデミー賞優秀主演男優賞、ブルーリボン賞など受賞多数。主な出演作品に【映画】『デスノート』シリーズ、『ノルウェイの森』、『GANTZ』シリーズ、『怒り』、『聖の青春』、『BLUE/ブルー』【ドラマ】『こもりびと』(NHK)、『日本沈没-希望のひと-』(TBS)など。また、公開待機作に『ノイズ』(2022年1月28日)、『大河への道』(2022年5月20日)などがある。

写真/玉村敬太
取材・執筆/森樹


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