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『BAD LANDS』が最高だった話

超久々の更新。

Voicyで追いかけている吉原光夫さんが出演されている『BAD LANDS』を観てきた。

田舎だし、月曜のレイトショーだし、PG12だし、仕方ないんだけど、
マジで劇場貸し切り1名様だったのは結構泣ける。

まあでも、終演後は小さく拍手してしまうぐらい、面白かった。
そんな話。

日本のハードボイルド

原田眞人監督の最新作。
と私が宣伝打っていいのかは分からない。
原田監督作品は、これも吉原さんつながりで、前作の『ヘルドッグス』を観たのが初めてだから。
吉原さんのおかげで出会えたといって間違いない。

正直申し上げて、裏社会を描く作品というのは、内容が分かりづらい。
専門用語や隠語のようなものが散りばめられていて、解説もないものだから、ある程度の見識が必要になるのだ。

それと、これは私個人の問題なのか、一般的にもそうなのか分からないが、
邦画は基本的に「もにょもにょ喋らないで!!」とよく思ってしまう。

洋画と違って、字幕がないから、何を言っているのか本当に分からなくて困るのよ!!(絶叫)

とはいえ、関西弁+ヤクザ弁(?)で流れていく今作は、
ある意味で字幕なしの洋画を観る感覚というか、諦めに似た何かを抱きながら、謎の安心感で観ることができた気がする。

そもそもハードボイルドの世界は、原田作品に触れるまで縁遠い世界だった。
私にとっては異文化そのもの。
だから、分からなくても気にしないと決めた!笑

ストーリーのまっすぐさと巧みさ

実父に売られ、養父から虐待を受け、都会で出会った男からもDVを受け…
逃げ延びた実父・高城のもとで「三塁コーチ」を務めるネリ。
ホームレスや貧困層に「仕事」を与え、特殊詐欺の片棒を担ぐことで日銭を稼ぐ日々。
ある夜。やんちゃな義弟のジョーが、賭場で借金を抱えることになった。
借金の返済にすら足りない「仕事」を請け、その時手にした武器で、ジョーは高城から金をゆすろうとするが…

…というところまでは、流れとして「読める」。
ここから先は、加速度的に、闇で蠢く者たちが集まり始め、姉弟に次々と危険が迫る。
そして一方、佐竹をはじめとする刑事たちの捜査網が、確実に高城とその周辺を捉えつつあった。
その脅威と恐怖。余裕のない環境。飛び交う暴力。閃きと機転。全てがスピーディで、引き込まれ、あっという間の2時間超だった。

『ヘルドッグス』よりも登場人物が多く、情報処理しきれない面は多々あったが、どのキャラクターも、どのシーンを切り取っても、魅力的で飽きさせない。
扱う題材(特殊詐欺、犯罪組織、セレブ、ヤクザ、特殊性癖、サイコパス…)の異質さも、目を離せない要因のひとつだろう。
画面の中に散りばめられたあらゆる情報に対して、視聴者の好奇心が駆り立てられる、作り込まれた世界観。

この「街」を知らないからそう思うのかも知れない。
大阪を、この「街」を知る人がよく見たら違和感を発見するのかも。
などと考えもしたが、それは分からないこと。

個人的にひとつ、印象的なのは串カツ屋での一幕。
受け子(特殊詐欺被害者から金を受け取る役目の人)が失敗したあと、三塁コーチ(受け子に直接指示を出す人。今作の場合は主人公)と共に昼食をとってから帰ったと読んだ刑事たち。
飲食店を片っ端から当たろうという研修生の提案に対し
「この街の店は、客をお上に売らない」
というような、佐竹刑事の言葉が印象的だった。
ひとつの壮大なコミュニティー経済圏。日の当たる場所も、犯罪が横行する闇も、全てを抱えて回るコロニー。
本当に、ここは異文化の街だ。
ファンタジー世界は、いつだって人を魅了する。

演技の凄みを最近よく思い知る

めちゃくちゃ個人的な話だが、最近、カメラの前で演技をする機会があった。

そもそも社会人として生きていく上では、仮面のひとつやふたつ、被って生きているものだから、皆ある意味では演技している。
でも、そんな話ではなくて…

「台本がある」とか、
「作られたセリフを自然体で演じる」とか、
「いろんな画角で撮るから同じ演技を繰り返しやる」とか、
実は大変なことが画面の向こうで起きてるんだね!?
こんなこと仕事にしてる役者って職業、マジすごくね!?
と、やってみて得られた実感はコレに尽きる。

だからこそ、映画を観ていて、演者の凄みというのを割とダイレクトに感じられるようになった。

それに比例して、演技のことや人生観をあれこれと語ったりする吉原さんのVoicyがまた更に面白くなり。
そんな吉原さんが出演する本作。
そんなこともあって、自分は作品により引き込まれた気がする。

ちなみに、吉原さんは関西弁の難しさ云々を言っていたが、関西出身でない私には本場と似非の区別がつかず、ゆえに標準語圏の俳優陣の演技も素晴らしく見えた。
さすがの一言である。

一人ひとりの俳優さんを追って解説したいところだが、
どうあがいても掻い摘んでしまうのは許してほしい。

安藤サクラさん

主人公、ネリ。
強い女も、弱い女も、狂った女も…巧みに演じ切る、名俳優、安藤さん。
何食ったらそんな風になるんだろうね???
壮絶な過去を背負ったネリの生き様は、落ちるべくして落ちながら、ある意味で「真っ当に生きている」とすら感じさせる強さを持つ。
それでも「本物の詐欺師」になることだけは避けていた。どこかで日の当たる場所に出ることを渇望していたのかもしれない。
ナイフや拳銃を扱う場面、威圧したりバトルしたりする場面、その全てで、決してこなれたところがない(それ含め名演)のに震えた。
武器の重みを感じるところが、人間の弱さなのだと思える。
だから、主人公として、最もシンパシーを感じられる存在たり得る。

吉原光夫さん

特殊詐欺を追う熱血漢、佐竹刑事。
今回は比較的爽やかな見た目だったんじゃないでしょうか!笑
しかしながら出オチというか、いきなりその体格で、犯人グループから警官じゃね?と疑われてるのが最高に面白かった。
関西弁に苦戦していたとは思えない自然な演技で、暑苦しい熱血現場デカという感じが実にマッチしていてよかった。
刑事同士の掛け合いも楽しそうなのが伝わる。…ラジオのせいで親近感ありすぎて語るときりがない。笑

山田涼介さん

最高に情けなくてかっこいいサイコパス、矢代ジョー。
サイコパスに共感するってなかなか有り得ないことだと思うが、今作のサイコパスの皆さんはどことなく親近感ましましの愛おしい人々。
中でも、安藤さんの弟分である彼は、「こいつ、やらかすな」という雰囲気を全身から発していて、フラグの建設と回収のスピードは他の追随を許さない。
怖いものを次から次へと呼ぶ辺り、霊媒体質的な何かかもしれない。笑
最後まで狂気に満ちた動きをしているが、それすらも愛おしく感じてしまうから、視聴者もまた狂気が伝染してしまうのかも?
だが、不思議と、不快ではない。
「銃乱射事件」っていう響き、普通ならばニュースで流れてくるだけでも恐怖や不快感ありありだというのに…最後にはもう…スカッとしちゃったよね…(映画観てくれれば絶対に分かるから本当に観てほしい)
ダークヒーローのひとつのあり方を体現してくれた存在。

宇崎竜童さん

曼荼羅と呼ばれる貧民街の住人。
ジョーいわくSSRクラスのサイコパス。
狂気に満ちたおじいちゃんだぁ…って思ったら宇崎竜童さん!?
こんなにおじいちゃんだったっけ!?笑
そして所変わったらめちゃくちゃイケメンに! カッコよすぎて濡れる!!
…変幻自在すぎて圧巻。
そして彼がキーパーソンとなる脚本と演出もまた圧巻である。

サリngROCKさん

初見ながら、超絶印象的なキャラクター・林田を演じ切った名優。
公式サイトでお名前を知る。
脚本・演出家として活躍し映画出演までも…天才か?
得体の知れないモノの恐ろしさを全身から噴き出させるあり方には、映画デビュー戦とは思えない凄みがあった。
安藤さんとの最後のやりとりは、なんかとてもドキドキして見入ってしまった。

岡田准一さん

友情出演。楽しそうが過ぎるwww
相変わらずのイケメンっぷりに興奮した。
好きな芸能人聞かれたら絶対挙げるわ。(もはや映画の感想でない。笑)

ゴヤの秘書ふたり

ごめんなさい、名前が分からん!
でも百合は好きなので挙げざるを得ない!!笑
ほんと、百合の間に挟まる男も、暴力を振るう男も、○ねばいいよ!
(そういえば昔)
(反町隆史さん、唐沢寿明さん、木村佳乃さんあたりが共演していたドラマが秘書室を題材にしていたと思うのだが…タイトルが思い出せない…)
(最後の方は意味不明だったけれど、あのドラマで描かれていた秘書の世界にも百合があったのを思い出した)
世の全百合を心から応援しつつ…今回の主張しすぎない(主張できない)、苦しい百合も、またよき!(´;ω;`)
(秘書室の演出自体、まったく百合推しではないことを申し添えておく! それなのに描く潔さも含めて好き!)
このお二人を含めた秘書室が登場した時の演出、ああいうの結構好き。なんだかワクワク、ゾクゾクする。

まとめ

最後、謎に熱くなってしまったが…

日本・大阪を舞台にした、犯罪組織で生きる姉弟を描いた作品。
国が抱えるタブーを、狂気を、カメラで日の下に晒していくような演出。
光と闇を描き切るような名演技、名シーンの数々。
主人公をはじめ登場人物の痛みも、悲しみも、喜びも、全てが愛おしい。

…そんな素晴らしい作品。
吉原さんの言葉を借りるなら、「サブスクを待たないでください! 映画は映画館で観るために作られたものですから!」
ぜひ、劇場で観ることを私もおすすめします。

それでは、また。

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