映画「丘の上の本屋さん」を観て

 作品の舞台はイタリアの風光明媚な地方にある小さな古本屋。持病のある高齢の男性店主リベロが主人公です。
 ある日、リベロは店の前に佇む少年に声をかけます。エシエンと名乗るその少年はアフリカのブルキナファソから移住してきたこと、本を買うお金がないことを話します。そこで、リベロは店に並べている本を次々とエシエンに貸してやります。そして、読んだ本をめぐって二人は語り合うようになります。エシエンは本をじっくり読んで、考えを深めることを学びます。エシエンが手紙を通じてリベロの思いを受けとることになる最後の場面は胸が熱くなりました。
 リベロの仕事ぶり、また店の本棚からは、すぐれた思想や文学、そして人間の歴史を人びとに伝えたいという古書店主としての志が感じられました。希望をもって生きること、また自分の頭で自由に考え、それを表現することの大切さも伝わってきました。店の本棚には発禁本のコーナーもありました。買い取った本に混じっていた日記は、新天地である米国に旅立とうとする若い女性が書き記したものでした。
 今、イタリアでも移民・難民の流入を拒もうとする動きが強まっています。移住者であるエシエン少年にはこれからもさまざまな苦難が待ち受けているかもしれません。それでも読書という経験は今後の人生においてきっと大きな力になることでしょう。 
 映画館に足を運んだのは久しぶりでした。この作品に出会えてよかったです。地味な作品ですが、ポジティブな気持ちになれました。

 私も読書経験が自分のものの見方、考え方をかたちづくるうえで少なからぬ役割を果たしてきたと感じています。映画の主人公と同様に私にも持病があり、それほど長くは生きられないかもしれません。これまでに読んできた本をあらためて読み直しながら、次の時代に引き継ぎたい本を紹介する文章を書き残したいと考えています。

 なお、リベロがエシエンに貸し与えた本の邦訳リストが公式サイトに掲載されています。

映画「丘の上の本屋さん」(クラウディオ・ロッシ・マッシミ監督)
公式サイト

予告編


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