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【桃が十個で】富豪の冷蔵庫

『桃祭に行ってきたので、桃を送ります』
というラインが九州に住む実家の母からピロリンと届いた。

何そのすてきな祭り。

と聞いてみると、早生桃の直売に桃ゼリーの振る舞いに何かが当たる抽選会に桃を使った商品の販売に、とその名に恥じぬ桃祭ぶり。


楽しみにしていたらその翌日のお昼にはもう大阪に住む私のもとに『はなよめ』という品種の桃が十個コロンコロンとやってきた。


冷蔵庫に十個の桃。
誰がなんと言おうとこれこそが富豪の冷蔵庫である。


私の幼い2人の娘も大変盛り上がり
「少し冷えるのを待とう。晩ごはんのデザートに剝いてあげるね」と言うと今すぐ食べたい、と苦情を受けたがまぁまぁまぁと受け流し、その時を待つよう告げた。


晩ごはん。
楽しそうに食事をする娘達をみながら、もう少しで食べ終わるかな、のタイミングで桃を剝きに立つ。

 ―変色したらいやだからね。

冷えた桃を優しく洗い、皮を剥く。

 ―皮が口に入ったらいやだからね。

自分で食べる時は気にもしないくらいの小さな皮の欠片も丁寧に取る。
毎日毎日、子どもと過ごしてご飯の用意はもちろん幼稚園の準備とか公園に行ったりとか絵本を読んだりとかしているのに今、桃の皮を剥きながら
「あぁ、私、お母さんだなぁ」
と思う。

私は他の誰にもこんなに丁寧に果実を剥かない。

子ども用に器を二つ並べケンカにならないように、量が同じになるように、と切って分けていく。

少しだけ果肉の残った種のまわりがもったいないな、とその場でカジカジしていると夕食を食べ終わった5歳の長女が
「桃まだー?」
とキッチンにやってきた。
「あー!お母さんだけ桃食べてずるいー!」
と抗議する。本当に間が悪い。

 ―ずるくないよ。一番美味しいところは、たくさん全部2人のお皿に入れたよ。

そう伝えると
「やったー!」 
と素直に喜んで自分と妹の分の器も持っていってくれた。
フォークを持って追いかけて食べてどうぞ、と渡すとすぐに桃を口に入れ
「おいしい~」
と2人で大げさにも見える様子で盛り上がる。

その様子を動画に撮って母に
「ありがとう、おいしそうに食べてる」
と送った。しばらくすると
「かわいい♥よかった」
と返事がきてその後
「みついも、ちゃんとたべてね」
と。

私はお母さんだけど、私のお母さんもずっとお母さんだ。

うん、ありがとう!
と返事をしたけど娘たちに桃を剥いたあと、さらに自分の為に桃を剥くのは面倒だ、の繰り返しで結局、口にしたのは剝き終わって残る種の周りの少し酸っぱい果肉と、剥いている時にこれは熟れが甘く固いので子ども達は食べないだろうな、となった桃1個だけ。

そうして十個あった桃は請われるまま剝いているうちに4日でアッという間になくなってしまった。

早すぎる富豪の衰退。

硬かった桃は冷凍した後、ある日の夜のおつまみに解凍して食べた。

美味しい。
富豪の名残の桃。

お母さんありがとう。

私もいつまでも娘2人のお母さんでいたい。








気に掛けてもらって、ありがとうございます。 たぶん、面白そうな本か美味しいお酒になります。