Assistant Research Professor(長い) になりました

どうも、ご無沙汰していました。
今回の記事は半年ほど前に書き上げたかったのですが(毎回言っている気がする)、所属するLIGOコラボレーションが5月末から行う重力波観測に向けて仕事が佳境に入り、なかなか時間が取れないでいました。その観測もついに開始され、仕事がひと段落したこれを機にずっと書きたかった近況報告をしたいと思います。
というのも実は昨年の9月に、ポスドクからAssistant Research Professorへと昇進させてもらい引き続き同じラボで研究を続けています。この長い名前のタイトル、僕も含め馴染みのない方が多いと思うので、今回このよくわからないポジションの詳細、昇進に至った経緯、ポスドクとの違いなどを書き綴ります。

まず経緯としては、(これといったものもないのですが)去年晩夏のとある日ボスからいきなりチャットで

“Hey, I would like to give you a raise.”

というDMが来ます。確かに一生懸命仕事はしていたのですが、まさかいきなり昇給してくれるとは予期しておらずもちろん二つ返事で了承しました。そして話を聞いてみると制度上、昇給にはタイトルも昇格しないといけないらしく、オマケみたいな感じでこのタイトルが降ってきたわけです。
これを聞いた当初本当に信じられず、夢と錯覚したほどです。それからじわじわと実感が湧いてきて10秒に一回「嬉しいなぁ」とニヤニヤしていました。気持ち悪いですね。
今振り返ってみて自分のした一番大きな仕事をあげるとしたら、チームで開発している重力波検出ソフトウェアの感度を20%くらい向上させたことでしょうか。最初から計画通りに進めたということでは決してなく、試行錯誤してるうちにいつの間にか感度が向上していたという感触です。
とりあえず宣伝がてら自分が主導した論文を貼り付けておきますね。

さて蛇足はこれくらいにして、まずはこのポジションの概要はこんな感じです。

  • 形式上はfaculty(大学教員)になるがtenure trackではなく任期付き

  • 研究業務はほとんど変わらないが、ボスの講義の代理など少し教育業務が伴う。

  • 福利厚生や給与がポスドクより少し良い。

  • 制度上、grants(研究費)への申請が可能になる。

「なんか響きがかっこいい割にはあまりやること変わってないじゃないか」と言われたらその通りで、英語で言うなら”Senior Post-doc”、日本語で「特任助教」と言ったところです。この「日本での役職との対応づけ」もしばしば物議を醸すトピックで、個人的にはどうでもいいと思ってるのですが、とりあえず参考までに。
ちなみに、このnon tenure track facultyの業務は専攻分野によって非常に多様で、実験装置のテクニシャン的な立ち位置であったり、博士号を持っていない方も中にはいるようです。なのでお断りとして、今回の記事では自分の例に限定をして少し掘り下げて述べていきたいと思います。

Facultyとしての立ち位置と任期

上記のように、形式上はfacultyの扱いになるのでウェブサイトなどにはその括りで表示されます。肩書きはどうでもいいと普段思っている僕ですが、実際”professor”という文字が映ると身が引き締まり、ようやく研究者みたいになったなという感慨に浸りました。とはいっても、faculty meetingに出席を義務付けられることも(少なくとも自分に関しては)なく、研究に集中できる環境です。任期に関しては人によってまちまちで、自分の場合は昇進によって任期が特に伸びたわけではなく、当初からポスドク期間含めて約3年というのがボスとの間で話がついてました。なので雇用に関して心が休まることは一切なく、依然として身を粉にして業績を上げ、仕事探しをする必要があるのは変わりないようです。とはいえポジティブな評価をもらえている証拠ではあるので、ボスがグラントを追加で取れればもしかしたら予定より長く雇ってもらえるかななどいう皮算用をしながら、より一層ボスへのごますりを継続させる決意をしました。

業務内容

研究面に関しては先ほど述べたように従来と同じように行えます。一方教育面は少し責務が増えて、ボスの持つ講義を時々代行して受け持つことがありました。例えば、ボスが育休をとる都合で学部生向けの電磁気学の講義を2週間ほど受け持った時、英語はおろか日本語でも講義はしたことがなかったためどの国際学会よりも緊張したのを覚えています。

それに加えて最近知ったのですが、Penn StateのFacultyには”R category”という区分があり、これに指名されるとtenua track facultyと同等の業務(大学院生の指導教員、committee業務など)をすることができます。追加の教育業務は一見負担になる気もしますが、将来教授職を目指すのであれば逆にこれが有利に働きます。アメリカに限らず一般に大学教員の公募では今までの教育経験に関して問われるので、院生のメンター以外の教育業務を経験していると他と差をつけることができるわけです。という事情もあり、近々ボスと交渉をしてこのR categoryに指名してもらう予定です。ここまででわかるように、ポスドクとtenure track facultyの中間地点のような位置付けになるので、将来教授職を目指す上でこのポジションが最適かなと感じています。

福利厚生と給与

正直に言うと、この部分が実利的に一番大きい変化です。ポスドクの時にも福利厚生はあったのですが、基本的な医療保険のみでした。このポジションでは福利厚生がfacultyバージョンになり医療保険の適用範囲が広がって、例えば歯科保険では歯科矯正が$1500までカバーされたりします。これまで大学院生の時から福利厚生ほぼ皆無の人生を過ごしていたので、こんなことまでしてくれるのか。。。という優しさを感じます。給与面に関しては露骨に公表する気はないですが、アメリカの田舎だとこんぐらいだろうなという感じです。当たり障りない表現ですいません。ただ進路を考える上で給与は大事なファクターだと思うので、twitterのDMなど個人的に連絡もらえれば隠さずお教えします。が、あまり期待はしないでください。今回の昇給で何より感じたのは、昇給額そのものよりも、昇給という事実によりボスからの絶対的な評価を実感できたことが何より嬉しかったということです。僕の給料はボスのもつ研究費から直接出ているので、評価していない人間のために貴重な研究費をさらに捻出するわけはありません。そして、ボスは褒め上手なので進捗報告でもよくgreatを言ってくれますが、本心はどう思ってるのかいつも不安で、ネガティブに評価されまいと毎日全力で研究に当たっていました。ということで、ボスがちゃんと評価していることがわかり、「これでいいんだ」と以前よりかは自信を持って前進することができています。

研究費申請

形式上facultyなので研究費の申請ができます。と言ってもやはり制限はあり、申請枠によってはtenure trackであることが条件であったり、co-PI (研究分担者)にしかなれなかったりという感じです。ただ制限がある中でも挑戦はする価値は十分にあり、理由の一つは採れた研究費で自分自身への給料にできるのと、次に研究費が取れた事実自体が実績になるからです。この研究費獲得は日本と同様かなり熾烈な争奪戦なようで、取れただけテニュアトラック公募の際かなりアドバンテージになると聞きました。今すぐは取れずとも、将来テニュアで必要なスキルであることは間違いないのでこの段階から練習していこうと思います。同じ業界の先輩たちやボスから聞くにはNSF(日本の文部科学省のような組織)の研究費を主に狙っていくことになるらしく、(これは後から知ったのですが)僕の所属するLIGOコラボレーションという重力波研究グループはあまりの大所帯だからか、NSFの中にLIGO専用のprogram coordinatorという人がいるらしいです。その人に聞けばなんでも教えてくれるようで、なんというかアカデミア内での大企業に所属してる感覚に陥ります。


ということでまとめとしては、将来的にアメリカでのテニュアトラックを狙う上で非常に有益なポジションをいただけたと思っています。そして、自分を評価し、認めてくれる人のところに身を置くことができたのが何よりも幸運だったと実感しています。実はアメリカのポスドク公募に色々出していた時、唯一拾ってくれたのがPennStateのグループでした。ポスドクも自分一人だけで同僚がいない環境の中、ある程度評価される仕事ができたのは心理的にも救いです。周りに優秀な人が溢れている世界で荒波に揉まれていると悲観的になりがちなのですが、この機会に少し自信を築いていきながら腐らずまた頑張っていこうと思います。

では


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