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元気ですよと答えたい

「僕は今日、思い出すことができました。」

自分を少し誉めるように。僕が意識している事は、神頼みでもじいちゃんにお願いするでもなく、自分のやっている事を、ただ見ていてください、と伝えること。

僕は今日、ばあちゃん家で、仏壇の前に座って、じいちゃんと顔を合わせているつもりだった。8月11日は、祖父の命日でもあり、僕の弟、虎士(タケシ)の誕生日でもある。

なんだかんだで三年間も、関東と北海道を行き来しているが、思えば夏は毎回北海道に逃げている気がする。今年も捉え方によっては逃げているように見えるかもしれないが、僕にはどうしても撮りたい虫が居たのだ。

窓の外からは、8月の虫の声がする。カンタンという、マツムシを半分ほど細くしたような…説明が難しい。真っ白いコオロギのような虫だ。と言ってもマツムシは北海道に居ないので、僕は岡山で一度マツムシをみただけで、その時のイメージで話している。

小さい頃は、ばあちゃんちの周りは空き地が沢山あって、エンマコオロギやコバネイナゴが沢山いた。僕にとって、バッタは特別思い入れのある生き物の一つだった。

今、その景色は見ようと思っても見ることはできない。僕が小学校から高校に入るまでの間に土地は軒並み住宅地となり、家が立ち並んだ。

お陰ですっかり住み良い街になってしまったが、僕は家やビル街だと、不思議と方向音痴を発揮してしまい、だめだ。半年に一回はばあちゃんに顔を合わせているのに、周りの景色を覚えることすら出来ない。小さい頃は、あの空き地ではササキリ(*バッタの名前)が居る、とか、あの空き地はコオロギが、とか、細かいところをよく覚えていたし、道にも迷わなかった。(今でも何故か、森の中では割と景色をインプット出来るし、動物の痕跡を辿って歩くお陰なのか、道には迷わない。)

思えばヨーロッパの街並みは美しいが、日本には日本の街並みのようなものが薄いような。美しい日本家屋をリフォームせず、次々と新しい家を建ててしまう。もったいないなと心の底から感じる、商店街、埼玉の商店街が、僕には羨ましかったりもするのも、そのためだろう。

僕は文化を一時的な娯楽としてではなく、生活の中に落とし込みたい。なんとなくの流れでもいい。自分が好きだと思った価値観や文化について、人生で向き合う事。ニューヨーカーにはニューヨーカーのファッションがあるように、知床に知床の自然があるように、その土地の歴史と価値観に染まりたい。大学を出た時から、僕はその価値観で住む場所を決めたいと思った。

つい一週間ほど前、涼しい海の風にさそわれてオホーツクに行ってきた。ずっと狙っていた、「カラフトキリギリス」という昆虫に会うためだ。

いつもの調子で、一日目の朝、コンビニで軽いご飯を買ってから、キリギリス達が鳴いている場所がどんなところなのか、下調べ。

海にいる釣り人だったり、観光客っぽくない人を探す。俗に言う地元の方に話を伺う。聞いてみると中には、「こんな場所に良く来たね」「田舎で何もないところだけど、ゆっくりしていってね」という類の感謝をされることがある。

僕は旅のように生きる事をモットーにしようと決めた時、色々な人と話をする中で、最初、この言葉の意味がわからなかった。

最初はただの謙遜だと思ったし、おそらく謙遜もあるんだろう。ただ、僕はしばしば「こんなに自然があるのに」という思いをすることがある。自然が溢れている場所に住んでいる人も、みんな自然が好きというわけではないんだ、と思った。正直北海道はどこも自然が豊かだから、この当たり前に気づいていないだけなのかもしれない。

自然はただ、そこにあり続けるが故に、
しばしば忘れられてしまうのかもしれない。

「何もないところでしょ?」

この土地には、この土地にしかいない「カラフトキリギリス」っていうキリギリスがいるんですよ。そう話すと、楽しそうに聴いてくれた。

地元の人はカラフトキリギリスについて、知っている人もいれば、知らない人もいる。

観光客は、ほとんどの人が知らないと思う。だけど僕は、彼らに会うためだけに北海道に来たようなものだった。

一日目は目撃できたものの、逃げられてしまった。地元の人と話して、日焼けをして。そしてラーメンを食べて、ホタルを眺めて、一日が終わった。

北海道在来のヘイケボタル。

OM-1+M.ZUIKO DIGITAL ED F3.5 Macro+ストロボ


二日目の朝は、
気合を入れて七時から彼らが鳴くのを待った。

一日目で探し続けてわかったことは、カラフトキリギリスは大体朝十時頃から、お昼の二時頃しか鳴いてくれない…という事だった。

そうわかったら、朝、寒い時間に体を温めながら鳴いているオスを狙うのが良いのかもしれないと思った。

朝10時ごろ。

やはりこの時間に鳴き始める。

まだ、風は冷たい。

案の定、キリギリスはハマナスの上で呑気に花粉を食べていた。

ハマナスの花粉を食べるカラフトキリギリス

OM-1+M.ZUIKO DIGITAL ED F3.5 Macro+ストロボ


全部で二個体観察することができたが二匹とも緑色型だった。

褐色型もいる様なので、また会いに来た時には、茶色いコも観てみたい。


緑色型のオス。

OM-1+M.ZUIKO DIGITAL ED F3.5 Macro+ストロボ

彼らが住む場所は、
本当に局所的な場所だった。

こんなに広い海浜草原が残っている、それだけで素晴らしいことだと思った。

彼らはその奇跡として、軌跡として、ハマナスの咲く海浜草原で変わらずにたくましく生き続けているのだった。

あり続けてほしい。

僕も、これからも、
価値観を共有し続けたい。

それができるなら、
別に写真じゃなくても良いと思う。

けれども僕は、ただ写真が好きなのだ。


カラフトキリギリス、ハマナスの咲く海浜草原をゆく。

OM-1+M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6+LUMIX ワイドコンバータ+ストロボ

使用機材について

*今回OM-1はOMSYSMEMさんからお借りして使用しています。
誠にありがとうございます。

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