ミラーレスカメラにフィルム時代のレンズを使う場合の留意点
ミラーレスカメラはバックフォーカスが短いため、安価なマウントアダプターで昔の多種多様なレンズを使えることが利点です。このため、現代レンズよりもソフトな描写が欲しいときなど、古いレンズを使う人も多いと思います。
フィルムカメラの場合はレンズのあとにすぐフィルムがきますが、デジタルカメラの場合は水晶ローパスフィルターやセンサーのカバーガラスなどの内蔵フィルター類の後ろに撮像面があります。
平面ガラスなんだから画質に影響する訳ないでしょ!みんなレンズに保護フィルターつけてるし、、なんて思う人も多いハズ!! 被写体の1点から出て保護フィルターを通る光線はほぼ平行光ですが、レンズを通過して内蔵フィルター類を通る光線は収束光なので話が違ってきます。
1枚めは50mmF1.4のガウスタイプ標準レンズ、2枚めは25mmF4.0のビオゴンタイプ広角レンズです。どちらも前面に保護フィルターを付け、後方に水晶フィルター類とセンサーカバーガラスが入った状態です。レンズタイプによって起きる現象に違いがありますので両方のタイプで見ていきましょう。
まず、50mmF1.4をフィルムで使った場合を見ていきます。このレンズデータは5群7枚のニコンF2時代に販売されていたレンズですので、球面収差は過剰補正タイプになっています。過剰補正タイプというのは最大口径の光線はピント面より後ろ(+位置)に結像、9割程度の口径では0位置になりそれ以下の口径ではわずかにピント面より前(-位置)に結像します。
厚さ3mmの平面ガラスがレンズと撮像素子の間に入ったときの球面収差が下図になります。わずかに右に倒れて過剰補正が進んだため、絞り開放でのフレアが増えた描写になります。口径が小さいときの球面収差の量は減っているため、芯が小さい描写になったと考えられるので繊細な描写に見えますので喜ぶ人も多いかも知れません。
注:ここでは、誰でも再確認できるようPOPSという光学計算フリーソフトを用いています。またレンズデータはそのソフトに付属するサンプルデータを元にスケーリングを行って実際のカメラレンズ相当の焦点距離に調整し、内蔵フィルター等を追加して計算しています。
フィルムで使ったときのスポットダイアグラムはこちら。高周波数(30ラインペア/mm)で最もコントラストが高くなるピント位置で計算しています。
3mm厚のガラスを入れたのがこちら。中央ではほんの少しピントの芯が小さくなったかな?という程度の変化で、周辺まで似たような変化ですので、このレンズはデジタルで使っても普通に使えるレンズですね。
さて、これからが本題です!!
実は内蔵フィルターに入射するときの角度が斜めに傾いているほど影響が大きくなるので、①Fnoが明るいレンズ、②射出瞳位置が後ろにあるレンズ(例:ビオゴンタイプ)といったレンズが一番性能が変化するため、射出瞳が後ろにあるレンズの代表格とも言えるビオゴンレンズでの計算結果を見ていきましょう。
ビオゴンの光束の通り方を見てみると、周辺にいくほど光線が斜めに撮像素子に当たることがわかるかと思います。センサーに対して光線が斜めに入射することで、カメラによっては周辺部の色がマゼンダや青っぽくなったり、周辺が暗く写ったりします。
まずはフィルムで使ったときの性能。スポットダイアグラムを見ると、F4と暗いこともあって驚くほど高性能なレンズです。MTFをみても、中心近くのコントラストは驚異的、周辺に行くほど性能は落ちていきますが、かなり広い範囲で高性能なのがわかります。
さて、、、この高性能なビオゴンをデジタルカメラで使うと、、、中間画角から広がっているし、隅は芯もなく広がってしまっています。MTFをみると中間画角から大暴落。
いったい何が起きてしまったの??
実は非点収差図をみると原因がはっきりと示されていました。
(非点収差とは、絞り込んだときの像面湾曲に相当します)
こちらは元の非点収差図
次は3mm厚のカラスを撮像面の前に置いたときです。
フィルムカメラで使うときは2本の線が途中まで揃ってレンズ側に倒れていたのが、デジタルで使うときは2本の線が根本から分かれてレンズから離れる方向にまわっています。2本の線は放射方向もしくは円周方向で計算した近軸像面を示します。非点収差は絶対量よりも変化量/傾向や2本が揃っているかをみるべきものなのですが、変化としては2本ともレンズ側から離れ、2本が割れてしまったというところでしょうか。像平面はレンズから離れる方向に曲がったお椀型のようですので、確認のために0.1mmだけ像面を後ろにずらしたときのスポットダイアグラムとMTFを見てみることにします。
評価面を0.1mm後ろに下げると5割増高の結像が改善しています。広角レンズで像面は0.1mm後ろに下がるというのはすごい変化で、25mmレンズで0.1mmレンズを繰り出すと5割位置は無限遠にピントが合っているのに真ん中は64cmにピントが合う状態ということです。実際のデジタルカメラは3mmよりフィルター厚が薄いと思われますので、もう少し良好だと思われます。
まとめ
◎フィルム時代のレンズを使う場合に、カメラ内蔵フィルターが及ぼす影響は以下の通り
●球面収差はわずかにレンズから離れる方向に倒れ、ピントが合ったまわりにまとわりつくフレアが増える。明るいレンズほど影響がある。
●射出瞳が後ろにあるビオゴンタイプでは、大きな像面湾曲が発生し、周辺部の流れ、ピンぼけが発生する。
●上記のような性能変化が起きるため、フィルム時代に販売されたビオゴンタイプのレンズを使う場合、内蔵フィルター厚が出来る限り薄いカメラを選んだほうが周辺解像度の高い画像を得られる。もし周辺部の色がかりが気になる場合は裏面照射型CMOS機を選んだほうが良い。
他にも、ビオゴンタイプはディストーションが-1%変化する、倍率色収差が少し変化するなどもありますが、大きな変化ではないと考えここでは出しません。
これらはフィルム時代に設計されたレンズを現代のデジタルカメラに流用する時の話であり、現代のレンズは内蔵ガラスが入った状態で最高性能が出るように設計されているため、最新レンズを使う場合は一切考える必要はありません。(逆にデジタル用レンズをフィルムカメラで使うと性能が出ない可能性があります)
このシミュレーションは誰でも追確認できるように、光学系評価用のフリーソフトであるPopsを用いて行っています。https://www.vector.co.jp/soft/win95/edu/se136306.html
続編・その①
続編・その②
ペンネームで使っている、”レンズ豆” ってこんな豆です。
昔のカメラの聖地、ドイツではこの豆とソーセージ、ジャガイモなどを煮て塩コショウで味付けしたスープを作ったりします。レンズ豆スープ”ですね。ドイツ風の読み方だと ”レンズンズッペ” です。