詩集 晩夏香
傘
荒れ果てたわたしの草原にも
それとなし風は吹いている
砂丘のまんなかには
ゆうべ吊るされたばかりの月の遺骸が
青い闇の壁に圧し拉がれ黄色く滲んで見える
罅割れた湖底を掘り返す
好色な記憶の尖兵たち
わたしは修復不可能な旗をそれらの港みなとにひるがえし
一切の敗北を認めようとするのだが
風はそのまま吹きすぎる
痛罵の唾を吐き棄て呵責なき専用貨車に詰め込まれ
わたしはひとり荒野に連行されそこで放置される
その夜の夢の中で獅子と女道化師がまぐわゐを始め
けさも痛いほどの未成熟な眠りの反動で
彼女は不機嫌な夏の朝食を強いられる
彼女の中にもそこかしこ風は吹いている
風は倍音で共鳴すると聞いたことがある
自然は必ずしも裏切らない
戦いはすべて延長戦へと雪崩れ込み
風はそこにも吹いている
ここから先は
10,753字
¥ 200
よろしければサポートをお願いします。