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詩集 届かない手紙



  
   

   美しい五階

 他者の悲しみ 朝のおとない
 こころはここにはありません
 いつも五月はわたしをぬらす
 やさしいの夜 そのうるむような満天の星に涕いているのです

 わたしのわたし あなたをゆるすわたしをゆるすためにだけ
 星たちの舞ふ夜の砂漠を ふたり歩いています
 ずいぶん遠くへと来てゐます それは愛のせい
 途中の駅は はくてうやことのひびきがして
 眠らぬ車掌が 愛想のいい笑顔で出迎えですが
 (かのひとはもうサザンクロスの彼方です)
 ゆつくりとこの川を渡りましょう
 あなたの望みです その星の名は知らずにいますから

 あなたの悲しみが 夜の高度を耀かす
 不思議なひかりの反動 わたしを閉ぢて
 この部屋に眠る いくつもの悔恨

 ふたしかなおとない 朝のはしばみ
 かすかにほほをそめて はぢらいのしぐさににている
 涕いている うみのくせに よく似たしうせい
 はいいろにねむるそらのつぶやきをまねただけ うつろに(ねむる ばらのほむら)

 わたしという愚行 五月の空のように晴れている
 夜のカリオカ 美しい錯誤の気持ち(星の言葉で語りませうか)
 大切にして 人生というわたし
 悲しみ ふたりの修辞
 ふたりであることの諦めに似ている

 きのう 一頭のライオンが死んだ
 僕はずつと何かしら 大切なものをなくしたままで
 雨もよいの一日が終る 今日は五月の終りだつたはず
 露天動物園 脱落者たちの賑いのあとで
 夜空には 美しい七色の虹がかかる

 その女の残した残骸 六月の午後にふさわしい切断

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