見出し画像

スナック就労体験記〈前編〉

私、二十歳を越えたあたりから「スナック」という場所にずっと憧れを抱いてまして。

今思えば、憧れていたのは場所というより、スナックという概念だったのだと思う。常連同士のコミュニティ、懐の深いママ/マスター、渋くて華やかな内装、エコーのかかりすぎたカラオケ。どうやらそこには、バーや居酒屋にはない特別なカルチャーがあるらしい、といつからかどこからかそんなことを聞きつけた私。ネットに転がっている、所謂「スナックカルチャー」にまつわるサイトとか記事はだいたい読み漁ったし、スナックを題材にしてるエッセイや小説も、買って読んでは想像膨らませるのがとにかく楽しかった。ただ、どれだけ知識を入れても、実際に足を運ぶのは簡単じゃない。居酒屋ほど安いわけでもないし、そもそも若い女が一人でスナックに入ったら当たり前に浮くし、とかいろんなことを考えた挙句、じゃあ働いてみるかーと思い立ったのが大学卒業して数ヶ月した頃で、それからいくつかのスナック(と言われる業態のお店)で3年半ほど働いてきたわけなんですが、少し前にひとまず私のスナックアルバイト人生に終止符を打つこととなったのです。今日はそんな私の体験談?みたいなものを書いてみようと思います。

もともと、私はさまざまな文献やネットを通して「スナックは、水商売の中でも一線を画した存在である」という認識を持ってたんですね。もちろん、人気商売そのものに対して何か物申したいとか、そういう気持ちは全く無くて。というか、その人目当てでその店に行くっていうこと自体は至極本質的な行動だと思うんですよ。たとえば、服屋であの人にいい接客されたから買ったとか、音楽の世界でも、この人が歌うから心に沁みるんだよなとか、言ってしまえば大抵、世の中そういうふうに出来てるじゃないですか。そうじゃなきゃ、トップチャートに「?」みたいな曲が食い込んでくるはずもないし、それは逆に言えば残酷だけど、その性質を生かすも殺すも自由で、とにかくそういうもんとしか言いようがないというか。
また、キャバクラやホストに代表される、混じり気無しの疑似恋愛ビジネス的なものに関しても、大体の場合は需要と供給の意識や目的(疑似恋愛をしにくる人と、それを提供する人、というように)がすごくハッキリしていることが分かる。性風俗業もそういう意味では目的がハッキリしてるし、基本的にはお互いにとって「仕事内容(サービス内容)がイメージと全然違った」ということは発生しづらいのかな?と想像します。

かたや、スナックと言われるお店には、いろんなタイプがある。おじさんが一人でやっている店、1日にたくさんのスタッフが出勤する店、夫婦や家族でやっている店、はたまた元キャバ嬢が独立してはじめた店・・・なるほど、いろんなタイプがあることがややこしくさせているんだなと、いま、書きながらようやく理解しはじめているわけなんですが。どういうことかと言うと、私は勝手に、スナックというものは、キャバクラやガールズバーなどのわかりやすく男性客が女性スタッフ目当てに来店する構造、むしろそれを売りにする仕組みになっている接客業のビジネスモデルとは別物だと思っていた、というわけなのです。でもまあ、良く考えたら、いろんなタイプがあるからこそ、別物と括れるはずないよなーと、今なら簡単に理解できるものですが、働きはじめてようやく、それを分かっていくことになります。

おそらく、どんな店だってそのママ(マスター)だったりスタッフの人柄に惹かれて通ってる、というお客さんはいるだろうし、そうやって成り立っているお店もたくさんあるはずで、実際に、今までお客さんとして遊びに行ったスナックの多くはそんなお店だった。年齢とか性別とかも関係なしに、みんなで和気藹々と楽しむ雰囲気、そしてそれが、まさに私のイメージしていた、恋焦がれてきたスナックの在り方でした。ただ、ここで振り返って思うことは、少なくとも私が働いてきたいくつかのお店はどれも、「人柄」よりも見た目と中身の「女性性」を売りにするものであり、比例してお客さんの多くはそれを求めて来店する、という構図だったな〜ということ。そう、その構図に直面した私は、「思ってたんと違う・・・!」状態に陥ってしまったのです。

長いので〈後編〉に続きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?