せんせい、いってきます。

ゴールデンウィーク。
嬉しいばかりではない。僕はこの休みで、長年抱えてきた問題に遂に決着をつけなければならない。

家庭の中で姉の存在と向き合うことを、僕はずっと避けてきた。愛していると泣いた日も、共に生きると決めた日も、僕の家族はそんなことを知る由もなかった。
自分のまだ存在しない、家族の日々に触れるのが怖かった。親の傷に触れるのが怖かった。今も怖い。
しかし、胸を張って未来の話をするために、いい加減進まねばならない。

進路のことを考えるにあたって、どうせ話すことは避けられないのだ。タイムリミットは連休明けの、志望校調査の提出。それまでに、僕が医者を目指す理由を共有し、拇印をもらわねばならない。

連休前最後の今日、僕と担任は何とか時間を作って言葉を交わした。
僕の不安はもはや言語化できる部分になく、したがって、先生もそれを和らげる言葉を持たなかった。
それでもそばに居ると言ってくれた。

僕の痛みから目をそらさないでいてくれて、ありがとうございます。
自分の知らない家族の時間とちゃんと向き合って、それで、先生のところに帰ってきます。

それだけの言葉を伝えるのに、涙がぼろぼろ零れた。ふと見ると、先生も泣いていた。
僕のために先生が泣いてくれる。全身で僕を受け止めてくれる。それだけが、僕の心の確かなしるべ。

別れる瞬間、僕の言葉に応えて、先生が、いってらっしゃい、と言った。
先生が僕の帰る場所になってくれるから、怖くても大丈夫。大丈夫じゃないけど、大丈夫。

せんせい、いってきます。


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