見出し画像

サマー・ゲットバック(仮)

    朝、学校のチャイムの音。遠くで鳴っているとも知らずに僕らは集まり、くだらない話をしながら学校を目指す。
長いと思われていた夏休みもあっという間に過ぎ行き、今日は登校初日。また騒がしく秩序の乱れた教室へ行くのかと思うと少し憂鬱だ。
中学二年生の光は相棒の大地とその弟大也を横目に、日々の充足を恨んだ。ふと勘づいた大地が言う。

 「他の奴ら、見ねぇな。通学路、なんかやけに静かじゃねぇか?」

確かにそうである。特段遅刻ギリギリという訳でもないのに人っ子一人見当たらない。

 「いつもなら豚大将が子分引き連れてうるさく練り歩いてるもんね。」

皮肉たっぷりに大也が話す。
豚大将の話はまた後でするとして、まずは現状の把握をしなければ。僕は言う。

 「教室へ向かおう。」


これは夏休みの僕らが知らぬ間に消えていたものを取り返す話───


    久々の下駄箱はまるで最初から誰も居なかったかのように気味悪く静まり返っていた。この時間であれば他の生徒が靴を履き替えていたっておかしくないはず。

 「やっぱり何かおかしい。正門に教頭居なかったし、第一校内がこんなに静かな訳ない。」

僕らは神妙な面持ちで廊下を歩く。三人の跫音だけが不気味に響く。僕の使う二年B組の教室はこの角を曲がってすぐにある、はず。
はず、と言うのはこんなに教室に近づけば喧騒の一つや二つ、聞こえなきゃおかしいからである。唾を飲み込む。

「ギエェァァァァア!」

突然後方から奇声が聞こえた。振り向くと廊下の突き当たりに"人ではない何か"がいた。長い首らしきものは直角に折れ曲がり、手足は人間よりも多くあった。遠目だったからそこまで詳しくは分からなかったが、確実にヤバいやつだと感じた。"それ"は僕らがいると分かった途端、此方へゆっくりと歩き出した。

 「…っ!」

"それ"の形容しがたい奇っ怪な見た目に声を詰まらせ内心怯えながらも、すぐに二人を喚ぶ。

 「バラバラに逃げろ!!!」

二人も無論、動揺を隠せずにいた。

 「なんだよあれ!?」
 「うわぁぁぁあ!」

とにかくこの場から離れるしかない。
角を曲がった廊下の先はそれぞれ、二階、体育館へ続いている。

 「大地!大也連れて体育館隠れろ!」

しかし大地が引き止める。

 「お前体力ねぇじゃねぇか!俺が二階に!」

全くその通りである。だが、僕の頭には一つの策が浮かんでいた。その為には二階へ行く必要がある。この一瞬では説明出来ない。

「俺は大丈夫だ、俺を信じろ。後でどうにかして俺もそっちに向かう!」

僕の確固たる意思を感じ取ったのか、大地は大也の手を引き、体育館へと走っていく。僕はその後ろ姿を背に、"人ではない何か"の動向を窺う。"それ"は角を曲がると首らしきを回転させ、僕へと視線を向けた。刹那、"それ"は僕の目の前にいた。何かが頬へ付く。震えた手で拭うと、赤黒い血だった。"それ"の顔にはベッタリと血が付いていたのだ。咄嗟に僕は後ろへと跳ぶ。顔を上げると眼前が"それ"に赤く覆われる。避けると"それ"は躓いたらしく、だらしなくよろめいた。どうやら複数ある脚を制御しきれないらしい。僕は隙を突き、二階へ続く階段へと走る。

二階へ上がると、一番近い理科室へ入った。薬品棚の場所を知っていた僕は真っ先に向かい、中段にあるアルコールを取り出した。そして職員机の上にある瓶を取り、理科室を覆うカーテンの端をちぎった。なぜ瓶があるのを知っていたかと言うと、理科室にいつもいる先生が瓶の飲み物を飲むのを見た事があったからだ。瓶にアルコールを入れ、ちぎったカーテンの切れ端を捩じ込む。火炎瓶の完成だ。襲われそうになる一瞬で思い付いた対処法だから策として脆くはあるが、十分足止めにはなるはず。

 「ギ、ギ、ギェギ、ギ、」

その時、階段を駆け足で上がってくる音と小刻みに奇声が聞こえてきた。僕は火炎瓶を手に、ゆっくりと扉を開ける。階段を覗くと、"それ"は階段の踊り場にいた。

 「燃えろ!」

僕は火炎瓶を"それ"に向かって投げた。パリン、と音を立てて瓶が砕ける。ブワッと火が燃え広がる、はずだった。火炎瓶は惨めに中身をばら撒くだけで、何も起きなかったのだ。そこでふと僕は、理科室のカーテンが黒い理由を先生に聞いていたクラスメイトを思い出した…。


 「先生ぇ〜、何で理科室のカーテンだけ黒いの?何だか不気味じゃね?」
窓際に座る町田が先生に問い掛けた。
 「理科室では実験で顕微鏡を使うだろ?反射鏡を動かす時、直射日光が入るとそのまま目に行っちゃって危ないんだ。だから遮光の為に黒いんだよ。ちなみに実験で火を扱うことも多いから防炎性もあるんだぞー。」


防炎のカーテン…そりゃ火炎瓶にしたって火がつかない訳だ。策が潰えたことを確認した僕は肩を落とした。その時、"それ"は俺を視認した。まずい、また瞬間的に近付かれる。避ける方法を咄嗟に考えたが、無駄だった。階段の踊り場から消えたのである。夥しい血の跡だけ残して。周りを見渡してもその姿は見当たらなかった。どこかへ行ってしまったらしい。僕は安堵で座り込んでしまった。何だったのだ、あれは。勿論見た事はないし聞いたこともない。だが、何かまずいことが起きていることだけは確かだった。学校が冷え切っているのも、あの怪物の仕業なのかもしれない。明らかにこの学校は"何かがおかしい"。
頭に大地と大也がよぎる。消えた怪物はもしかしたらそっちへ行ったのかもしれない。とても怖い。怖いが、そんなことを言っている状況では到底ないことだけは分かった。僕は何とか自分を奮い立たせ、体育館へと走り出した。


────────────────────


取り留めなくて駄文かもしれないが、
また筆が乗ったら、続きを書くかも…



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?