Cannes Lions 2024:クリエイティブとテクノロジーが融合する広告の新時代
2024年6月17日から21日にかけて開催されたCannes Lions 2024では、世界最先端のクリエイティブが一堂に会し、広告業界やインフルエンサーなどの共演による未来を見据えた重要な議論が繰り広げられ、さらにはカンヌの街全体を舞台に多彩なネットワーキングが行われました。
今回は、Legolissより初めて参加した私が学び、気づいたことをCannes Lions参加レポートとしてお届けします。
1.そもそもCannes Lionsとは
カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルは、1954年に設立され、毎年6月に南仏カンヌで行われる世界最大規模の広告・コミュニケーションフェスティバルだ。2024年は6月17日から一週間にわたり、世界的に活躍するコミュニケーションクリエーターやグローバル企業のCEOやCMOをはじめ、ソーシャルメディア企業のリーダー、哲学者、ミュージシャン、芸術家など多彩な顔ぶれがカンヌに集結し、日夜、優れた作品を称える授賞式や最先端のセミナー、交流会などが行われた。
映像やグラフィックをはじめとした王道の広告領域において高いクラフト力やマーケティング効果を称賛する「Classic」部門において、映像が持つ魅力を最大限に引き出した作品を評価する「Film Lions」、OOH(アウトオブホーム)広告の新たな可能性を見出した作品を評価する「Outdoor Lions」、雑誌や新聞をはじめとしたプリント媒体において斬新な表現手法を生み出した作品を評価する「Print & Publishing Lions」、音声メディアを通じて多くの人の注目を得た作品を評価する「Audio & Radio Lions」などが発表される。
2.2024年のグランプリ(一例)
Cannes Lionsといえば数多ある広告作品から選ばれたグランプリが目玉だ。71回目となる2024年は、全30部門のグランプリが発表されたが、ここでは個人的に特に印象に残った3つを紹介する。
Classic部門 Film Lions グランプリ : “Play it Safe”(Sydney Opera House)
豪・シドニーの文化施設オペラハウスの開館50周年キャンペーン。タイトルの「無難に行こう」は風刺で、オペラ施設の革新的な歴史と冒険心あふれる運営理念を動画作品として巧みに表現している。
”Entertainment部門 Entertainment Lions for Sport”グランプリ & "Classic部門 Film Lions”グランプリ:”WoMen's Football” (Orange)
(ブランドコミュニケーションの枠を超え、消費者を魅了し、文化に影響を与える本物のエンターテイメントを創造するクリエイティビティを評価する賞)
フランスの大手通信プロバイダーOrangeが、2023年に開催されたFIFA女子ワールドカップを契機に、性別に対する偏見を打破し、グローバルな対話を促進するために制作した作品。外見に対する錯覚を巧みに利用しており、映像では、あたかもフランス男子サッカーチームのプレー集であるかのように見せかけ、実際には女子選手のプレー映像を使用したもので、性別によるステレオタイプを超えた表現と技術の高さを称賛するもの。
Strategy部門 Creative Effectiveness Lions グランプリ: “It Has to be Heinz” (Heinz)
AIイラストツールを活用したマーケティング活動にさまざまな企業が取り組む中、圧倒的なブランド価値向上を達成したキャンペーン。ハインツがAIイラストツールに“ケチャップ”だけでなく “革新的なケチャップ” “ストリートアートケチャップ”と言ったユニークな言葉を次々に入力しても、出力されるイラストは全てハインツの商品を示すものだった。この出力画像をOOHや交通広告に実際に使用し「これがAIが思い描くケチャップの姿です」というキャッチコピーを添えることで、ハインツが唯一無二の存在であることを強く印象づけた作品だ。
3.会場の様子
2024年は、Amazon, Meta, Google, Microsoft, Shopify, Pinterest, TIkTok, LinkedInなどのトップのソリューションプロバイダー各社が海岸沿いにブースを構え、それぞれがCannes Lionsと連携したセッションを実施。特にAmazonは “A'Maison” (仏語で「家」)のブースを構え、独自のセッションを多く展開していた。
4.学びと気づき
クリエイティブ表現の中心地としてのCannes Lions
総じてOOH広告が主役となり、その物理的な存在感とデジタル技術の融合が、広告業界に新たな価値をもたらした。特に、パリ五輪や世界的な選挙の影響もあり、広告キャンペーンの新しい可能性が模索されていたことも興味深かった。
クリエイティブと同時にテクノロジーも重視されている
従来は広告代理店のグローバルトップ企業が軒並み特設ブースを構えていたと聞いたが、2024年現在ではAmazon, Facebook, Google, Microsoft, Pinterest, TikTok, Spotifyなどのテック企業が中心だった。AIやCTVなど最新の技術トレンドが議論されていた。Cannes Lionsは、広告業界が直面する課題を深掘りし、新たなインサイトを提供する場として機能している。
AIが共存している状態が当たり前になっている時代において、どんな発想の転換を持ってサービスや広告に反映するか、非常に興味深い。日本でも日本ならではのAI活用が進むのだろうと考えるとそれもまた楽しみである。
Cannes Lionsは業界を超えた交流・対話の場である
商談及びネットワーキングイベントを通じて約60人の新規コンタクトを獲得し、情報交換が可能になったことも収穫であった。
また、Amazonの持つプロダクト・サービスについてこれまで見えていたものは氷山の一角に過ぎないことを実感し、理解を深めて事業開発、サービス展開に取り組むべきだと痛感した。
株式会社Legolissマーケティングソリューション事業部長/柏木記