【時事】チラシ配布中の政治家への暴力は何罪に当たるのか。

5月9日に、twitter上に参議院議員音喜多駿氏(日本維新の会所属)が以下のような報告をされました。

東京都の赤羽駅前で新型コロナウイルスの支援策を取りまとめたチラシを配布していたところ、「男性に顔面を強く殴打され」たということであった。なお男性は、駆け付けた警察官に身柄を拘束されている。

音喜多氏は、相手が政治家であるからといって、暴力を振るうことは許されることではないと続けた。

まずは、同氏の回復を、心よりお祈り申し上げます。

さて、ここで法的にはこの男性にどのような罪が成立するのか、以下検討していくことにしましょう。

ここで成立しそうな罪は、以下のものがあげられる。

①暴行罪(刑法208条)

「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」     

②傷害罪(同法204条)

「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」

③公務執行妨害罪(同法95条1項)

「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」

同氏は、参議院議員であり、公務員であるから、③の公務執行妨害罪が成立しそうではある。

しかし、公務員への暴行が必ずしも、公務執行妨害罪にあたるとは限りません。

今回のケースでは、チラシの配布中に暴行を受けたということであるから、「職務を執行するに当たり」にチラシの配布行為が当たるか否かが公務執行妨害の成立において問題となります。

まず公務員としての参議院議員の職務には、参議院が立法機関であることから、国会活動におけるものは含まれると解するべきです。

そのため、国会議事堂内で審議に参加する参議院議員に対し、暴行を加える行為が「職務を執行するに当たり」に該当することは争いがないでしょう。

では、チラシの配布の行為の性質を考えてみましょう。

チラシの配布は、参議院議員に関わらず、衆議院議員であっても、地方議会の議員であっても行う政治活動の一種です。

したがって、チラシの配布行為そのものは、公務員としての参議院議員の「職務」には含まれません。

以上のことから、今回のケースにおいて、公務執行妨害罪を適用することは難しいでしょう。

では、②の傷害罪は成立するでしょうか、検討していきましょう。

傷害罪は、暴行罪の結果的加重犯にあたります。

「結果的加重犯」…難しい言葉ですね。

これは、犯罪行為を行った際に予想してた以上の悪く重い結果が生じてしまった場合について、悪く重い罪に問い、より重く処罰する犯罪のことを言います。

暴行罪と傷害罪を例にとれば、殴る蹴るなどの暴行を加えた結果、相手に大けがを負わせてしまったという場合には、大けがを負わせる意図がなかったとしても暴行罪ではなく傷害罪が適用され、重く処罰されるということです。

では、傷害罪はどのように成立するのでしょうか。

「傷害」とは何かが、問題となります。

「傷害」とは、人の生理的機能の侵害のことを言いいます。

今回のケースでは、幸いなことに同氏は軽傷で済んだようであり、人の生理的機能を侵害するほどのものは負っていないといえるでしょう。そのため、今回のケースにおいては、傷害罪の適用も難しいでしょう。

では、最後に①の暴行罪を見ていきましょう

「暴行」とは、人に対する有形力の行使のことをいいます。

今回のケースでは、人である同氏に対し、殴る行為は有形力の行使に当たることは争いがないでしょう。

以上のことから今回のケースについては、暴行罪が成立するでしょう。

では、今回はここまでとしましょう。

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