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【ビジネス法務実践編】コロナ禍での外国籍人材活用

前回のnote”【1時間で分かる】最先端ビジネス法務”では、最先端ビジネス法務を、フレームワークに沿って体系的に書きました。実務でも役立つようにできる限り具体例を多く書くよう心がけましたが、どうしても理論中心となってしまいました。サッカー観戦で解説者の話をいくら聞いていも、実際にボールを使ってシュートしなければゴールできるようにならないように、理論と実践は常にセットであるべきです。理論は実務の中で使ってみてこそ初めて仕事にプラスの影響をもたらします。そこで、今回以降は、現実の問題に即したビジネス法務の実践編を書いていきたいと思います。今回の記事では、収まる気配の見えないコロナ禍での外国籍人材の受入れに関する規制(2020年10月末時点)を題材に、日本の制度の仕組みを踏まえた効果的なリソースの活用の方法について分析していきたいと思います。

まず最初に、前回のnoteより、最重要な部分だけをおさらいさせて下さい。(覚えているよ!という方は飛ばして下さい!)

・ビジネス ≒ 「契約の集合体」=「法規制というルール上のゲーム」
・「戦略」= 目的達成のために、ルールの範囲内で、リソースの配分を選択、すること
・ルール違反から生じるリスク=(1)違反する可能性×(2)法令違反による影響度×(3)ダメージをコントロールできる可能性
・リスクは、ビジネス法務の観点では、(1)ルール違反となる境界をできる限り明確に理解し、(2)その影響度を正確に見積もることが最も重要

まだ前回のnoteをお読みでない方は、そちらを先にさっとお読みいただいた方がインプット効率が高いと思いますので、念の為リンク貼っておきます。

では、上記を、コロナ禍での外国人受け入れに際してどう活用できるかみていければと思います。このnoteは、外国籍人材を採用している会社の経営・人事・労務の担当者の方、これから外国籍人材の受入を予定している会社の担当者の方、これから外国籍人材の採用を検討している会社の担当者の方におすすめです。「現在の状況で外国籍人材を入国させる方法はあるのか?」
「ある場合に受け入れに際してどのようなリスクが有るのか?」「リスクの低減のために注意すべきポイントと、社内リソースをどれほどかけるべきか?」といった疑問を解消するための内容になっています。

1. 目的の明確化

結論から申し上げれば、現在の状況で外国籍人材を入国させる方法は「あります」。2020年10月1日から全世界対象に入国制限措置が緩和されました。日本では159の国と地域からの入国を原則として拒否していましたが、全世界を対象に、ビジネス関係者に加え医療や教育の関係者それに留学生など中長期の在留資格を持つ外国人に日本への新規入国を認めることにしています。

とはいえ、時間の経過と共に徐々に規制が緩和されてきていますが、まだまだ外国人の受入には厳しい状態が続いています。そのような中で、外国籍人材を受け入れるビジネス上の目的とはどのようなものがあるでしょうか。仕事をする上で必ずしなければいけないこと、すなわち「目的」の明確化をまずしたいと思います。

・日本に適切なスキルセットを持った人材がいないため海外から採用したい
・海外の商品やサービスを日本市場にて導入しビジネスをするため、現地担当者を招聘したい
・地元から都会への人材流出により困っているため、海外から人材を採用したい
・既に外国籍人材を雇用しているが、その家族が海外にいるため、日本に在留できるようにしたい

ざっと上記のようなものが考えられると思います。もちろんこれらが全てではなく、自社の置かれた状況ごとに様々なものがあるでしょう。重要なことは、作業を始める前に、必ず、「目的=究極的に達成したいこと」を明確にした上で、関係者と合意をとりながらすすめることです。目的の合意なく行う作業は無駄なだけでなく、余計な軋轢を生むなど、逆効果なことさえあります。良かれと思ってやっていることが裏目になってしまうことほど、悲しいことはありません。

2. 戦略策定

「戦略」= 目的達成のために、ルールの範囲内で、リソースの配分を選択、すること

振り返りになりますが、上記が、戦略の定義です。ルールの存在を前提に、目的とリソースの制限に基づき、どうリソースを配分するかの選択をするかを判断するために戦略が必要となります。そして、ビジネスにとって最重要経営課題の一つは、いかにしてルールの範囲で許容可能なリスクを取って売上を最大化するか、すなわち投資対効果であるため、ビジネス的には、(1)ルール違反となる境界をできる限り明確に理解し、(2)その影響度を正確に見積もることが、戦略的に考える上で最も重要なのでした。

したがって、まず(1)コロナ禍での外国人受け入れに関する規制を把握した上で、(2)ルールを遵守するビジネス上の影響度、または、違反した場合の影響度をみた上で、それぞれの目的を踏まえたリソース配分を考えていければと思います。

3. ルールの把握

現行(2020年10月末時点)の、コロナ禍での外国人受け入れに関する規制は、外務省のHPによれば以下のようなものです。

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まず、基本的な考え方は、「国内外の感染状況等を踏まえながら、感染再拡⼤の防⽌と両⽴する形で、国際的な人の往来の再開を段階的に⾏っていく」ものとし、大きく①ビジネストラックと、②レジデンストラック又は全ての国・地域からの新規入国措置、の2つのルートが用意されています。

① ビジネストラック

試行措置として、例外的に出入国が認められ、「活動計画書」の提出等の更なる条件の下、14日間の自宅等待機期間中も、行動範囲を限定した形でビジネス活動が可能となる枠組です。
感染状況が落ち着いている国・地域を対象としており、ビジネス上必要な人材等の出入国を、追加的な防疫措置を条件として、準備が整い次第、試⾏的に順次実施しています。2020年10月末時点においては、シンガポール、韓国、ベトナムのみが対象です。

② レジデンストラック又は全ての国・地域からの新規入国措置(10月1日から開始)

レジデンストラックは、もともと、比較的感染拡大状況が落ち着いている非入国拒否対象地域に対する枠組みで、タイ、ベトナム、豪州、ニュージーランド、カンボジア、シンガポール、韓国、中国、香港、マカオ、ブルネイ、マレーシア、ミャンマー、モンゴル、ラオス、台湾にて導入され、その他、感染状況が落ち着いている国・地域と協議・調整中です。

10月1日以降、段階的に措置が緩和され、原則として全ての国・地域(入国拒否対象地域)が、レンジデンストラックの手続+追加手続、の下で入国が可能となっています。
具体的な対象者は、「日本又は当該対象国・地域に居住する者(当該対象国・地域の国籍保有者だけではなく、第三国国籍の方を含む)であって、日本と当該対象国・地域の間の航空便(直行便の他、経由する国・地域に入国・入域許可を受けて入国・入域しないことを条件に経由便も可。)を利用する者」であり、基本的にほぼすべての人が対象です。

なお、外国人の場合は、「下記①又は②に該当する新規査証申請者」と、「下記①に該当する再入国許可(みなし再入国許可を含む。)を得て出国した者」である必要があります。 

<訪日目的>
①就労・長期滞在(以下のいずれかの在留資格に該当するもの)
「経営・管理」、 「企業内転勤」、 「技術・人文知識・国際業務」、 「介護」、 「高度専門職」、 「技能実習」、「特定技能」、 「特定活動」 「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「高度専門職」、「法律・会計業務」、「医療」、「研究」、「教育」、「興行」、「技能」、「文化活動」、「留学」、「研修」、「家族滞在」、「定住者」
※なお、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」は、在留資格認定証明書又は戸籍謄本等をお持ちであれば、誓約書がなくても査証申請可能。
②短期商用
日本に出張して行う業務連絡、商談、契約調印、アフターサービス、宣伝、市場調査等(最大90日間)

①に該当する査証を取得するには、通常、手続に2ヶ月程度の期間を要します。また、入管の混雑状況により、審査に1ヶ月以上かかる場合もあり、整合性判断のため、追加書類を求められる場合もあるため、かなり余裕を持った申請が必要となります。

必要書類(外国人がレジデンストラック又は全ての国・地域からの新規入国措置を使って日本へ渡航する場合)

・誓約書(写し)
・検査証明(又はその写し)
 ※非入国拒否対象地域からの入国では不要
 ※出国前72時間以内に検査を受検し、発行されたもの
・質問票(原本)
・LINE・COCOAをインストール済み、位置情報保存を設定済みのスマートフォン(非入国拒否対象地域からの入国・再入国の場合は推奨)

※上記のほか、通常の査証申請手続き時や渡航時に必要となる書類等
※査証申請手続き時の必要書類は、下記の外務省HPからご確認できます
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page22_003381.html

具体的手続

外国人が全ての国・地域からの新規入国措置で入国する場合の具体的なスケジュールは以下のようになります。

202010  Legalize会社案内


<X国出国前>
まず、在外公館での査証又は再入国関連書類提出確認書申請時に、日本側受入企業・団体が作成する「誓約書(写し)」を提出し、追加的な防疫措置への同意をします。

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そして、14日間の健康モニタリングを経て、出国前(搭乗予定航空便の出発時刻)72時間以内にPCR検査を受検し、滞在国・地域の医療機関にて検査証明を取得します。

<日本入国時>
【検疫】
まず、空港の検疫で「質問票(機内で記入)」・「誓約書(写し)」 を提出します。
その上で、接触確認アプリのインストール等に誓約していることと、検査証明(又はその写し)を持参していることを説明します(入国拒否対象地域のみ)。

【入国審査】
次に、 検査証明、 査証又は再入国関連書類提出確認書を提出します。
また、アプリのインストールがなされていることも示すことが必要です(入国拒否対象地域のみ)。
その上で、本邦入国時にPCR検査を受け、検査結果の判明までは原則として空港内で待機します。(入国拒否対象地域のみ)

<日本入国後>
入国後14日間、公共交通機関を使わず、自宅・宿泊施設等(個室、バス、トイレの個別管理ができる施設)で待機します。
その間、 LINEアプリを通じた健康フォローアップを行うとともに、地図アプリ等による位置情報の保存が必要です(入国拒否対象地域のみ。その他は推奨)。
また、接触確認アプリをインストールし、使えるようにしておく必要があります(入国拒否対象地域のみ。その他は推奨)。
そして、万が一症状が発生した場合、滞在・移動を中止するとともに、速やかに「帰国者・接触者相談センター」に連絡し、指定の医療機関を受診することになります。陽性の場合、濃厚接触者リストや保存された位置情報を管轄保健所に提供するなど、調査に協力することになります。

4. リスクの見積

ルールを把握できたところで、ルールから想定されるビジネス上のリスクをみていきましょう。

• 入社予定計画の遅れ
• 水際対策ガイドライン変化への対応
• ルール違反の場合の公表等

当然ですが、日本の人事労務上の手続を遵守する必要があり、さらに追加で対応すべき事項が多いため、入社予定計画をかなり余裕をもって策定する必要があります。特に、10月1日の規制緩和後、査証の取得希望者が増えており、在外日本公館が混み合っているため、査証取得がボトルネックにならないように速やかに査証取得の手続を進める必要があります。また、1日に入国できるのは感染の有無の検査が可能な1,000人程度とされているため、当該1,000人に入るためにも早めのエントリーが推奨されています。

次に、ガイドライン、すなわちルールが逐次変化していくため、変化に対応しつつ手続を進めて行く必要があります。2020年10月末時点で緩和の方向にありますが、アメリカやヨーロッパ各国で再びロックダウンに踏み込む国も増えてきており、日本でも規制強化の方向に再度進む可能性も十分あるため、注意が必要です。

そして、本措置は、例外的に出入国が認められた邦人帰国者、外国人入国者に対する追加的な防疫上の措置について受入企業・団体が責任を持つ制度であるため、対象者がルールに従うように指導・管理をする必要があります。誓約違反をした場合は、企業名が公表される他、本件措置の利用が今後認められない可能性があります。現状、違反しても課徴金や刑罰は規定されていませんが、「公表」されてしまうとブランドイメージが大きく毀損されるといったレピュテーションリスクが発生するので、外国籍人材のリソースを活用できるというビジネス上のプラスに比してマイナスが大きい場合がほとんどであり、通常は「取るべきでないリスク」との判断になると思われます。

さらに、外国籍人材を受け入れる場合には、いくつか労務管理、手続上の注意点があります。

まず、日本人労働者の採用でも同様ですが、採用時には労働条件を明示すべき義務があり、さらにその中で一定の条件については、労働条件通知書または雇用契約書などの書面として労働者に交付する義務があります。(なお、2019年4月より、一定の要件のもとに労働条件通知書の電磁的方法による提供も認められるようになっています。)

この義務は、外国籍人材でも同様ですが、外国籍人材の場合は、必ずしも日本語を十分に理解できるとは限らないので、トラブルが起こらないように、当該外国籍人材が理解できる言語で書面化、説明した方がよいでしょう。
特にトラブルを防ぐためには、口頭でよいとされている条件についても、当該外国籍人材が理解できる言語で書面として渡しておいた方が無難です。日本人を雇い入れる場合よりも、慎重な対応を心がけましょう。

この労働条件の明示義務違反には、最大で罰金30万円の罰則が課されます。
また、外国籍人材を雇用する際と、離職する際にも、氏名・在留資格などについて確認し、ハローワークへ届け出ることが法律で義務づけられているので、必ずハローワークで手続を行ってください。

さらに、外国人労働者を常時10人以上雇用するときは、外国人労働者の雇用管理に関する責任者である「雇用労務責任者」を選任することが必要とされているので、注意してください。

なお、技能実習生については、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」の施行に伴い、現在では法令違反時の通報窓口や労働基準法違反時の教育などの体制整備が求められています。技能実習生を雇用する場合には、これらの体制整備にも留意が必要です。

5. リソースの配分

(1) そもそも外国籍人材か

上述のように、外国籍人材を受け入れるビジネス上の目的として想定されるものは、以下でした。

・日本に適切なスキルセットを持った人材がいないため海外から採用したい
・海外の商品やサービスを日本市場にて導入しビジネスをするため、現地担当者を招聘したい
・地元から都会への人材流出により困っているため、海外から人材を採用したい
・既に外国籍人材を雇用しているが、その家族が海外にいるため、日本に在留できるようにしたい

上記のうち、「・地元から都会への人材流出により困っているため、海外から人材を採用したい」に関しては、外国籍人材の前に、少なくない追加のコストやリスクを負うことのない、日本国籍人材の流出防止・採用を、まず検討するべきだと思います。

(2)自社でやるか

上述のルールを受入る外国籍人材に対して指導・管理をするためには、受入企業側で以下のような手続をする必要があります。

<入国前>
査証/フライト手配
入国時ガイダンス(ご家族含む)
 →入国前PCR検査、検査結果証明書発行、行動計画書作成の指導
・インバウンド旅行傷害保険加入
・事前オリエンテーション
 →入国時フロー説明、14間待機要請場所手配(マンスリーマンション契約 ・備品手配)、接触確認アプリ (Cocoa)のダウンロードの指導
送迎ハイヤー手配(空港〜滞在場所)
<入国時>
・入国検疫・PCR検査
 →検査結果待機要請場所確認、検査結果確認、接触確認アプリ/LINEインストールの説明、Wi-fi 手配
・空港での待ち合わせ・送迎
 →空港〜待機場所へ
・入国時オリエンテーション
 →待機場所の仕様説明(電気・ガス・洗濯機等)
<待機要請期間>
毎日の食事確保
待機状況定期報告
 →現在の健康管理状況報告確認、LINE報告/位置情報報告確認
退去手続き

太字部分を中心に、自社で全て対応することは簡単ではありません。特に、日本の複雑な人事労務上の手続と並行して、英語をはじめとする外国語で説明しつつ、正確かつ確実に対応するのは、大きな負担と言えます。また、「当該受入外国籍人材が待機場所から逃げてしまった」、「言うことを聞かない」、母国から追加的な手続を要請された、といった事象への対応は難易度が高いです。
「日本に適切なスキルセットを持った人材がいないため海外から採用したい」という目的のように、多くの人材を定期的に採用するのであれば、2〜5名のチームを組成し、自社にノウハウを蓄積される体制を構築するというリソース配分の判断は十分に合理的です。
しかし、そうでない場合は、後述の(3)委託するという選択も十分に検討に値するでしょう。

(3)委託するか

数は多くないですが、上述の対応の大半を委託できる会社は存在します。委託コストは、各社概ね30万円前後/1名(あくまで対応作業の委託。マンションの契約等は別途費用がかかります。)であり、各種手配や報告の手間、慣れない対応のため図らずともルールに違反してしまうリスク等を踏まえると、「・海外の商品やサービスを日本市場にて導入しビジネスをするため、現地担当者を招聘したい」場合や、「・既に外国籍人材を雇用しているが、その家族が海外にいるため、日本に在留できるようにしたい」場合などの単発の受入では、ペイすることも十分あると思います。

その場合も、必ず自社の人事・労務の担当者が委託先と連携し、社内規定に合っているかのチェックやノウハウ蓄積ができる程度リソースは、最低限投下するべきと考えます。

6. 最後に

外国籍人材はうまく活用することで、日本にない知見やノウハウを取り込むことができ、自社のビジネスを大きく進化させられる可能性があり、コロナ禍で他の企業が二の足を踏む中で積極的な活用を図ることで、差別化を図ることができる可能性があります。

一方、踏むべきでないリスクの回避のためには、少なくないリソース投下が必要になるため、ルールとリスクの正確な把握・見積と、目的に照らしたリソース投下の判断が不可欠です。

判断に迷われたときは、当社にも一定のノウハウがありますので、ぜひ気軽にご連絡下さい。

今回もまた長々と有難うございました。コロナ禍の大変な状況ではありますが、差をつけるチャンスでもあります。
がんばっていきましょう!

メールアドレス:contact@legalize.co.jp

会社ホームページ:https://ligalize.co.jp/

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