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#118 「JR西日本尼崎電車区事件」大阪地裁

2006年1月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第118号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【JR西日本(以下、J社)尼崎電車区事件・大阪地裁判決】(2005年2月21日)

▽ <主な争点>
「日勤教育」と従業員の自殺との因果関係/会社の安全配慮義務違反

1.事件の概要は?

本件は、J社の従業員であったXが自殺したことに関し、Xの父であるYが「XはJ社に日勤教育を受講させられたため、うつ病状態に陥って自殺したものであり、Xの上司であったAら3名にはXが自殺に至ったことについて過失があり、J社に雇用契約上の安全配慮義務にも違反した」として、J社およびAらに対し、1億1000万円の損害賠償等を請求したもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<J社、XおよびYについて>

★ J社は西日本の地域において旅客鉄道輸送業を営むことを主な目的として設立された会社である。

★ Xは昭和51年4月に国鉄に入社し、62年4月のJ社発足とともに同社に採用されて近畿圏運行本部明石電車区に配属され、平成6年9月から大阪支社大阪電車区で勤務した後、9年3月以降、尼崎電車区において運転士として勤務していた。

★ YはXの父であり、Xの死亡により、同人の権利義務を相続した。

★ A、BおよびCはいずれもJ社の従業員であり、13年9月当時、AはJ社大阪支社尼崎電車区の区長、Bはその首席助役、Cはその指導総括助役であった。

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<J社における「日勤教育」の内容等について>

★ J社では、運行列車に遅延や運休が発生した場合、「事故」扱いされるが、これに至らない程度のものについては、「ヒヤリハット」とし、「事故」扱いとはしないが、再教育・指導の対象とされた。

★ 「事故」扱いもしくは「ヒヤリハット」を犯した場合、電車に乗務中の運転士を当該乗務から外して事情聴取を行い、運転区または電車区等の区長が、当該運転士に対する再教育が必要であると判断した場合には、当該運転士に対し、日勤勤務を指定した上、「日勤教育」を実施していた。

★ 「日勤教育」対象者は、区長・助役等が勤務する内勤室の一画で、担当の指導助役などから与えられた課題について、レポート作成等が命じられた。

★ また、「日勤教育」の一環として、日勤教育対象者が駅のプラットホームに立ち、自らの犯したミスを他の乗務員に知らせ、同様のミスをしないように注意喚起する「水平展開」という作業を課されることもあった。

★ 「日勤教育」の期間はあらかじめ特定されておらず、終了の可否の判断は、日勤教育を命じた区長に委ねられており、日勤教育が1ヵ月以上に及ぶこともあった。

★ 「日勤教育」は懲戒処分ではないが、その間の乗車がないため、乗務手当(平均月10万円)が支給されず、実質的に減収となっていた。

★ 労働組合であるJR西労近畿地方本部は「日勤教育」指定が、ミスを口実とした不当ないじめであり、組合差別もあるとして、日勤教育の中止、その内容・方法などの改善を申し入れていた。

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<Xが自殺に至るまでの経緯>

▼ Xは13年8月31日、京都駅において、西明石行き電車の運転台で信号機の表示が変わるのを待っていたところ、車掌から運転台の表示灯が点灯しているとの連絡を受け、その旨を指令所に連絡するなどしたため、予定を約1分遅れて発車させた。

▼ Xは定刻通り西明石駅に到着し、高槻行き電車を運転して西明石駅を出発したが、京都駅における遅発の事情聴取を行うとして、Aから乗務交代を命じられ、尼崎駅で降車し、Bらによる事情聴取を受けた。

▼ Aは上記事情聴取の結果の報告を受けて、Xに対し、同年9月3日から「日勤教育」を受けることを命じた。Xはレポート作成や知悉(ちしつ)度テストを受けていたが、「日勤教育」3日目終了翌日の同月6日に頭痛を理由に年休を取得し、自宅で首をつって自殺した。

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