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#556 「甲社事件」東京地裁(再掲)

2022年2月16日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第556号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【甲社事件・東京地裁判決】(2020年3月27日)

▽ <主な争点>
セクハラ行為と職場環境配慮義務違反など

1.事件の概要は?

本件は、甲社の従業員であり、心因反応(本件傷病)との診断を受けて休職中であったXが2018年8月末日かぎりで休職期間満了により退職したものとされたところ(本件退職措置)、本件傷病は同社がXをセクシュアルハラスメントの加害者として扱うなど職場環境配慮義務を尽くさなかった結果、発症したもので業務に起因するものであり、Xはその療養中であったものであるから、本件退職措置は労働基準法19条に照らし無効であるなどと主張して、甲社に対し、(1)労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、(2)職場環境配慮義務違反(債務不履行)に基づき、損害金2569万6026円およびこれに対する遅延損害金の支払、また、(3)労働契約に基づき、2018年9月から本判決確定の日まで毎月25日かぎり月額47万7709円の賃金と月額4万3631円の退職積立金、毎年6月10日および12月10日かぎり各95万5418円の賞与ならびにこれらに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<甲社およびXについて>

★ 甲社は、海上運送業等を業とする会社である。

★ Xは、1984年4月に甲社と雇用契約を締結し、2010年頃から、主として顧客管理業務を行っていた者である。

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<本件退職措置に至った経緯等について>

▼ 2014年6月頃、東京都議会において、女性議員が質疑の最中に「自分が早く結婚したらいいじゃないか」などという趣旨の野次を受けたとして、その当否が問題とされていたところ、Xは同月19日、同僚であるA(女性)に対し、「Aさん、都議会であのような問題が起きたけれど、ああいう事を言うのはまずいよね」(以下「本件発言」という)などと話しかけた。

▼ これに対し、Aはあえて未婚で子どももいない自身を名指しして発言したものと受け止め、Xに対して不快の情を抱き、人事部へセクハラの申告をした。

▼ 人事部がXにヒアリングを行ったところ、Xは本件発言については認め、自己の不用意な発言を詫び、謝罪や始末書の提出にも任意で応じる旨の意向を示した。

▼ 人事部同席の下で設けられた謝罪の場において、Aが怒りを露わにしたこともあり、その後Xは「本件は腹いせセクハラではないか、甲社による厳格な調査等がないままセクハラの加害者として扱われた」等と主張するに至った。

▼ Xは精神的ストレスを抱えつつ職務に従事していたが、2015年5月、医師から心因反応(以下「本件傷病」という)との診断を受け、同年7月13日から8月31日まで年次有給休暇を取得し、9月1日より私傷病休職(就業規則上は休職期間30ヵ月であったが、36ヵ月認めていた)となった。

▼ 甲社は休職期間満了日である2018年8月末日になってもXの病状が回復しなかったとして、自然退職したものとして扱った(以下「本件退職措置」という)。

3.元社員Xの主な言い分は?

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