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#273 「阪急トラベルサポート事件」東京地裁

2010年11月24日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第273号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 参考条文

★ 労働基準法(以下「労基法」) 第38条の2第1項

「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。」

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■ 【阪急トラベルサポート(以下、H社)事件・東京地裁判決】(2010年7月2日)

▽ <主な争点>
海外ツアー添乗業務に対する事業場外みなし労働時間制の適用等

1.事件の概要は?

本件は、H社と海外ツアーの添乗業務について労働契約を締結し、派遣添乗員として旅行会社であるH交通社(H社の親会社)へ派遣され、H交通社主催の募集型企画旅行の添乗業務(旅程管理等)に従事したXがH社に対し、未払い時間外割増賃金等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<H社およびX等について>

★ H社は、旅行・その他旅行関連事業を行うこと等を目的として設立された会社を前身とし、その後一般労働者派遣事業等も行うようになった会社である。

★ XとH社は、「新びっくりフランス7日間コース(平成19年12月13日出発・同月19日帰着)」および「夢の南フランス・イタリア7都市周遊8日間コース(20年1月17日出発・同月24日帰着)」(以下「本件各コース」という)の添乗業務について労働契約(以下「本件労働契約」という)を締結し、XはH社から派遣添乗員として、H交通社主催の募集型企画旅行の添乗業務(旅程管理等)に従事した(以下「本件添乗業務」という)。

★ 本件各コースは募集型企画旅行といわれ、主催旅行会社であるH交通社、ランドオペレーター、添乗員派遣会社であるH社の3者が関与する。H社は依頼されたツアーに添乗員を派遣するために登録型派遣添乗員であるXとの間で労働契約を締結する。

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<本件労働契約、H社・H交通社からXに対する指示等について>

★ XとH社は平成19年11月から20年1月までの賃金として、日当1万6000円、賃金の締め日を毎月末日とし、支払日を翌月25日とする旨約した。

★ 夢の南フランス・イタリア7都市周遊8日間コースにかかるXの派遣社員就業条件明示書には、就業時間休憩時間について、「原則として派遣先旅行業約款に旅行者に対する添乗サービス提供時間として定められた午前8時から午後8時までとする。ただし、実際の始業・終業・休憩時間については派遣先の定めによる。また、具体的には添乗業務の円滑な遂行に資するように派遣添乗員が自己責任において管理することをできるものとする」と記載があった。

★ Xはツアーの旅程管理に関する資料としてツアー参加者に配布されたパンフレット、ランドオペレーター作成のアイテナリー(企画商品を実現するために合理的と思われる順路をランドオペレーターが組み立てて作成したもの)、最終日程表を受領する。Xは添乗業務を終えた後、添乗日報をH交通社に提出する。

★ 各ツアーのアイテナリーにおいて記載された時間は15分~1時間単位のもので大まかな時間であった。また、最終日程表において記載された時間は飛行機の出発到着時間を除き、概ね30分~1時間単位であり、観光に要する時間も同様であった。

★ H社およびH交通社は、「海外添乗員マニュアル」を必ず携帯するように指示し、当該マニュアルにおいて、海外では緊急用携帯電話を必ずつながるようにしておくこと、電源は常に入れておくこと、ツアー出発の際、スーツケースに入れないようにすること等を指示していた。

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