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#219 「熊坂ノ庄スッポン堂商事事件」東京地裁

2008年10月29日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第219号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【熊坂ノ庄スッポン堂商事(以下、K社)事件・東京地裁判決】(2008年2月29日)

▽ <主な争点>
出張拒否および正当な事由のない欠勤を理由とする懲戒解雇

1.事件の概要は?

本件は、就業指示1(出張命令)および就業指示2(出張命令および診断書提出命令等)に違反したことを理由に懲戒解雇(以下「本件解雇」という)されたXが、本件解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払い賃金等の支払いをK社に対し、求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K社およびX等について>

★ K社は、石川県小松市に本店を置き、スッポン、マムシを原料とした食品、ふかひれコラーゲン、アガリクス・ローズ等を原料とした食品等の製造、加工および販売を業とし、全国約80ヵ所に店舗を展開する会社である。

★ X(昭和15年生)は、平成16年2月、K社との間で職種を販売員とする旨の労働契約を締結した。

★ K社の求人募集広告には、「店頭販売員」、「固定給17万~24万+売上歩合」、「年齢35歳~61歳まで」、「本部研修制度」、「<勤務地> 大宮、川越、松戸、船橋、千葉、横浜、藤沢、小田原、池袋、新宿」等が記載されていた。

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<本件就業指示1およびXが欠勤するに至った経緯等について>

▼ Xは、16年2月から本社で研修を受けた後、有楽町交通会館内店で現場研修を受け、同年3月下旬から新宿3丁目店、営団新橋駅店、田無店の各店で販売員として勤務した後、同年6月から同年12月25日まで営団新橋駅店にて勤務した。

▼ 同年12月18日、Xは本部の総務人事担当者であるAから電話で「営団から販売成績が低迷していると指摘されたため、営団新橋駅店を一時閉店することとした。ついてはXに対し、勤務場所を確保するとともに再教育としての研修が必要であるため、豊川店(愛知県)で研修をしてもらうことになる。研修終了後は担当店を交代するか、代替要員となるか不明であるが、いずれにせよ東京周辺での勤務を予定していること」等が伝えられた。

▼ XはAの上記発言が、営業成績が悪いことを理由に豊川行きを命ずるもののように感じられたため、翌19日、「営業成績が悪いのは営業員のやり方が悪いとの一方的な決めつけ方であり、納得できない。業績上の理由から研修のため、豊川に行かせることは合理的理由に該当しない」旨の文書をファックスで送信した。

▼ K社はXに対し、同月20日、「12月25日まで営団新橋駅店で勤務し、12月26日から同月29日まで新宿サブナード店で勤務した後、同月31日に豊川店で打合せに参加した上、17年1月1日から2月14日まで同店で勤務するように」との就業指示書を発した(以下「本件就業指示1」という)。

▼ Xは、本件就業指示1に「内容につきご意見質問がある場合は、指示期日後2日以内に、社長宛て文書にて申し出ること。申し出のない場合は、承知したものとして手配します」との文言があったことから、Aに対し、「自分は個室でないと落ち着いて熟睡できない性格であり、睡眠不足によって健康を害することが考えられるので、何とか個室を与えてほしい」旨の書面をファックスで送信した。

▼ また、XはAに対し、「現在歯の治療中であり、今回の豊川店での勤務は他の人に変更してほしい」旨を連絡したところ、AはXに対し、「歯の治療が終わるまで治療に専念し、治療が終わって仕事できるようになったら本部に連絡するように。それまでは欠勤扱いにする。新宿サブナード店勤務は保留にし、籍は豊川店においておく」との指示を与えた。

▼ Xは、「欠勤」欄に「16年12月26日~未定」、「理由」欄に「体の治療のため」と記載した欠勤届をK社にファックスで送信した。

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<本件就業指示2に至った経緯等について>

▼ 17年1月中旬、Xは相談に行った労働基準監督署の勧めにより、東京労働局に対し、豊川店への配転命令の撤回を求めて、斡旋(あっせん)の申立てをしたが、K社は斡旋の期日に出頭しなかった。

▼ 同月下旬、XはK社に対し、東京医科歯科大学附属病院医師作成の治療の終了予定日が3月31日であり、その間通院が必要である旨の書面をファックスで送信したが、同社からの返答は特になかった。

▼ K社は、同年3月15日付就業指示書において、(1)3月19日に本部での打合せに出ること、(2)3月20日から同月25日まで本部で研修を受けること、(3)3月28日から45日間、名古屋・豊川催事営業の販売応援業務のため、中期出張すること、(4)本就業指示を履行できない場合は、就業指示の履行を不能とする旨を明らかにした医師等の診断書を5日以内に本部に提出すること、(5)本件就業指示1を履行できない理由としてXが挙げた「ア.集団生活、集団業務ができない、イ.歯科治療」の理由に関し、医師の証明書およびその後完治したことを証明する診断書を5日以内に本部へ提出すること、提出がない場合は規定にしたがい懲戒に処すること、(6)Xが正当かつ合理的な理由なく、本就業指示書にしたがわなかった場合は、何らの通知等することなく、同通知書到達後30日経過した日をもって懲戒解雇する旨をXに対して通知した(以下「本件就業指示2」という)。

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