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#238 「X堂事件」東京地裁(再掲)

2009年7月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第238号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【X堂事件・東京地裁判決】(2008年3月26日)

▽ <主な争点>
上司による不適切発言、セクハラ発言の違法性と損害賠償請求等

1.事件の概要は?

本件は、X堂の経営する菓子店で契約社員として稼働してきたYが、店長であったAから反復継続して受けたセクシュアルハラスメントや暴言、暴行等によってYの性的自由、性的自己決定権等の人格権および良好な職場環境で働く利益を害されたとして、X堂に対し、民法第715条(使用者等の責任)* に基づき、慰謝料および休業損害等の支払いを求めたもの。

* 民法第715条(使用者等の責任)
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。(2項以下略)」

2.前提事実および事件の経過は?

<X堂、YおよびAについて>

★ X堂は、和洋菓子の製造販売を業とする会社であり、Yの直接の上司であるAの使用者であった。

★ Yは、平成17年3月に高校を卒業後、同年4月からX堂のZ店(以下「本件店舗」という)に契約社員として勤務している者である。

★ Aは、平成4年4月にX堂に入社し、洋菓子販売に従事し、3店舗で店長または統括者として勤務した後、17年5月から本件店舗の店長に異動した。

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<本件店舗の状況、店長AのYに対する言動等について>

▼ Aが本件店舗に異動後、同店舗の改装工事が行われ、その間Aは他店舗の手伝いに出ていたので、17年9月から本件店舗において本格的に店長として勤務した。

★ 本件店舗は、駅併設のショッピングセンター(以下「SC」という)内にあり、洋菓子売場と洋菓子製造工房が設置されていた、改装後の同店舗において、洋菓子売場に常駐して勤務していたのは店長A、契約社員Y、パート従業員B、Cの4名であった。

▼ Aが他店舗の応援で本件店舗に出勤しなかった時期は、Yが商品の発注をしていた。Aは不在時にYが行った商品発注数が少ないと考えたため、「僕がいないときは、君が店長なんだよ」と大声でYに注意した。

▼ Yは「はい」と答えたものの、店長不在の理由を従業員に明確に説明していなかったAが、店長不在の間も不安を抱えながら業務に従事していたYに対し、突然怒るように注意したことについて、不満と不信感を持った。

▼ 本件店舗の改装開店後、日数が経過するにつれ、Yはパート従業員や工房の職人と無駄話をするのが目につくようになり、Aには、Yは緊張感が欠けており、勤務時間が過ぎればいいという態度、姿勢であると感じられたため、Yに対し、勤務時間中には無駄話をしないように注意していた。

▼ Yは工房の職人から「ケーキを食べてみない?」と声を掛けられることがあり、雑談に誘い込む職人もいたため、AはYを呼んで、工房内に入り込んで雑談しないように注意していた。

★ Aは、仕事に対し、情熱的、熱心であり、売上げを増やすことに対する姿勢は、X堂の営業課長からトップクラスであると評価されており、それに伴い、部下に対する指示、指導は厳しいと評価される人物である。

★ Yは、Aについて、その言動が変わっており、気分屋ですぐ人にあたり、いきなり怒鳴ったりして威圧的であり、行動に予測がつかず、意味の分からない言動が多くて困るという認識をもっていた。

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<Yが出勤を拒むようになるまでの経緯等>

▼ 18年1月2日夜、A、B、CおよびYらは、年末まで本件店舗が多忙であったことの慰労会の趣旨も兼ねて、一旦焼き肉屋に行ったものの、閉店していたため、駅前の居酒屋に入り、飲食し、その後全員で2次会としてカラオケ店に行った。

▼ 上記居酒屋で飲食した際に、AがYについて、「純粋そうに見えて、何でも知っている」と言い、本件店舗のあるSC内の八百屋の男性従業員のことで、AがYに「何かあったんじゃないの、キスされたでしょ」などと言い、Yが目に涙をうっすらためることがあり、BやCがその場をとりなしたことがあった。

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